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訓練中に穏やかなひと時を過ごして気分を切り替えたエルフリートとロスヴィータは、想定外の荷物となった闖入者一行を連れてクノッソ領に入った。クノッソ領に辿り着くと、エンリケが目を丸くして迎え入れてくれた。
「山岳訓練だったよな……? その荷物は何だ?」
「ああ、これは途中で拾ったんだ。随分昔に検挙した事のある男たちでな、どうやら逆恨みで行動したらしい」
ロスヴィータがちらりと彼らを見て、小さく笑う。ロスヴィータが他者を小馬鹿にするような態度を見せるのは珍しい。おそらく、それは無謀な事をやらかした彼らに対するけん制や、彼らからの反感を買おうとしているのだろう。
自分の部下がこれ以上彼らの悪意に晒される事のないようにという配慮だ。
「……このタイミングで行動を起こすとは、挑戦的な奴らだな」
「まったくだ。彼らのほとんどをフリーデ一人が確保した」
「魔法の縄を用意したら一瞬だったよぉ」
エルフリートはロスヴィータの作戦に加担するべく、くすくすと笑いながら二人の会話に混ざる。
「エンリケ、元気にしてた? 私は絶好調だよ!」
「フリーデは相変わらずだな。で、一網打尽にしたのか」
「そうなんだ。数が多くて面倒だったな、くらい」
さっきまでロスヴィータの方を睨んでいた男たちは、振り向いて手を振るエルフリートを見るなり態度を変える。彼らの恨みを買うのはエルフリートの方が良い。エルフリートはもうすぐ女性騎士団を去るのだから、彼らの感情もそう長くは続かないだろう。
本物のエルフリーデに危害が加わる可能性はあるものの、魔法が使える彼女はこの程度の相手ならば問題はないはずだ。
「聴取してる時間ないから、この騎士の言う事をちゃんと聞いてお利口さんにしててね」
「~~!」
エルフリートの手で今日も余計な事を話さないようにと『おしゃべり禁止』の魔法を施されている男たちの唸り声の合唱が始まった。状況を知らないエンリケが怪訝そうな顔をして指をさす。
「あれはどういう反応だ?」
「ふざけるな、って言ってるんじゃないかな」
エルフリートは肩をすくめた。
「でもそれは私が言いたいくらいだからなぁ。私たちは遊びに来てるんじゃないんだよ? 訓練しに来てるの。邪魔しないでほしいな」
一番うるさく呻いている男――例の首謀者である――に向けて指先を動かして「もう一回拘束しようか?」と暗に語りかける。意図は正しく伝わったらしく、すぐに静かになった。
二人のやり取りを見ていたエンリケがため息を吐き、それを見たロスヴィータがくすりと笑う。
「……彼らがあなたたちの障害にならないよう、しっかりと管理する。安心してくれ」
「ありがとう!」
エンリケが指笛を吹き、近くで待機していたらしいテッサが鳴き声を上げながらエルフリートのを場を通って彼の腕に止まる。
「テッサ、荷物を輸送するのに人手が必要だから呼んできてくれるか?」
「きゅいっ」
飼い主に頼られるのが嬉しいとでも言うかのように頭を上下させた魔獣は、エンリケが伝言の紙をその足に括りつける時間すら与えずに飛び去った。
「あ。行っちゃった。まあ……伝わるか」
直ぐに豆粒ほどの大きさになってしまったテッサに、エンリケが苦笑する。彼女の素早さにはエルフリートも驚くしかない。エルフリートは「相変わらず彼女は頭が良いな」と満足げに頷いているロスヴィータの袖を小さく引っ張って首を横に振る。
「せっかちなテッサ、誰も連れずに戻ってきたらどうしよう」
「心配はいらない。彼女が単独で詰所に戻ってくるのは異常事態だからな。いずれにしろ誰かしらがやってくるはずだ」
「なるほど」
エンリケはこういう事態を予想して常に動いているようだ。エルフリートはその読みの良さに感心する。
「相変わらずエンリケって抜け目ないね。かっこいい」
「それはどうも。最近、テッサの知能が成長しているのか勝手な行動を取る事が増えてきているから、どんな時でもだいたい何とかなるようにしているんだ」
魔獣は成長する。きっと、テッサも例に漏れずに成長しているのだろう。エンリケから苦労の香りがした。
「テッサはもう、自分が人間と同じだと思ってるんじゃないかな。俺の事も、きっとご飯係だとかそういう風にしか見ていない気がする」
「それはすごいな……ああ、もちろん成長っぷりが、だ」
「食べる量も増えたから、そろそろあの子も成人なのかもしれないな」
エンリケの視線が遠くに行く。単純にテッサを思い浮かべているのではなく、きっと最近の苦労について思いを馳せているのだろう。エルフリートは弔意的に魔獣の面倒を見た事はないが、故郷で動物の面倒を見た事はある。
あの時の苦労を思い浮かべれば、彼の苦労の想像がつく。
「そうなんだ? 訓練が終わったら、ご飯食べさせてあげたい!」
あくまでもエルフリートはゲストである。きっと「大変だよね」と同意したところでエンリケの心象に良い影響を及ぼす事はない。無邪気を装って面倒を見るのを手伝う方が、きっと良い。
エルフリートがはしゃいでみせると、エンリケが喜ぶどころか、放置された男たちによる恨めしそうな視線を再び感じるようになっていた。




