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しばらく視線を揺らし、落ち着かない様子を見せていたロスヴィータだったが、ようやくエルフリートを真っ直ぐに見つめた。いよいよ話す覚悟を決めたようだ。
頬は完全に赤く染まっていて、耳まで赤い。彼女がここまで恥ずかしがっている姿を見るのは初めてだった。
「その、端的に言えば、嫉妬だ」
「え?」
ロスヴィータからそんな言葉を聞く事になると思っていなかったエルフリートは、気の抜けた声を上げた。ロスヴィータは「だから言いたくなかったんだ」と呟いて、両手で顔を覆う。
初めて見る反応ばかりでエルフリートは興奮していた。
「何に嫉妬したの?」
「トリッシュと、あなたが近かったから……」
「トリッシュ……?」
パトリツィアと近かった、とは距離の事だろう。ただ、そんなに接近するような事はあっただろうか。エルフリートは首を傾げた。
エルフリートに心当たりがないのだと気付いたロスヴィータの表情が硬くなる。あ、不機嫌になったかも? エルフリートは少しだけ背中を丸くしてロスヴィータよりも目の位置が低くなるようにして上目遣いをして誤魔化した。
「フリーデ」
「……ごめんね? でも、全然分からないの。だって、私にはこんなにかっこいい王子様がいるんだよ? どうして別の女の子に目が行くと思うの?」
「それは、まあそうだが……」
ロスヴィータは肯定したが、納得はいっていないらしい。言い淀んでから半眼でエルフリートの事を見下ろしてくる。
その普段と違った仄暗い感情を滲ませる視線は、エルフリートに普段にはない感情を芽生えさせる。これはどんな感情なのだろうか。ぞわぞわするような、それでいて不快ではないという何とも言い難いものだった。
「――ロスは」
「なんだ?」
「私がトリッシュと一緒にいた時の何が嫌だったの?」
距離が近い、という情報だけでは具体的に嫌だと感じた理由が分からない。せっかくロスヴィータが自分の心をさらけ出そうとしてくれているのだから、エルフリートはそこが知りたいと思った。
ロスヴィータを不快にさせたいわけではない。ましてや、全く意識していない部分でそういう風に思われるのは不本意だというのもある。知っていれば、理解していれば、ロスヴィータを悲しませたりする回数は減るだろう。
ただでさえ、ロスヴィータに甘やかしてもらっているのに、これ以上甘やかされてしまったら彼女の生涯のパートナーとして情けない。エルフリートだって、ちゃんと考える事もあるのだ。
「私って、元々人との距離感の取り方が他の人と違うでしょ? だから、多分それでロスを悲しませたんだと思うんだ。
自分で気付く事ができなくて申し訳ないし、情けないなって思うんだけど……」
ロスヴィータは一瞬目を見開くとすぐに破顔した。先ほどの仄暗さは掻き消され、いつもと同じ美しい深緑が広がっている。
「気を遣わせたな」
「ううん。鈍感な私が悪いんだもん。気にしないで!」
ロスヴィータはふぅ、と息を吐き、それからエルフリートと額を重ねた。こつんとぶつかった軽い衝撃があって、すぐに彼女の熱が伝わってくる。
「あなたは彼女を慰める為に、頭を撫でていた」
「ああ、あれ……?」
それはエルフリートにも心当たりがある。パトリツィアが涙目になりながら自分がどうしてこの場に居なかったのかについて話をしようとしていたのだった。パトリツィアがいなかったせいで起きた事ではない。彼女がいたとしても、この事案は発生していただろうと考えていたエルフリートはあの場所で話を聞き出す必要はないと判断していた。
それに、である。パトリツィアが無責任な理由で持ち場を離れたとも思えなかった。きっと個人的な何らかの事情があったのだろうとも考えていたエルフリートは、それ以上話さなくて良いと伝える為にも彼女に接触したのだ。
言葉で伝えられないなら、ボディーランゲージで伝えるしかない。そうして選ばれたのが、頭をぽんと撫でる動作だった。
「私はあなたに頭を撫でてもらえる機会が滅多にない。だから、嫉妬した」
「あっ、あぁ……!」
エルフリートは思わずぽん、と手を合わせた。なるほど、確かにエルフリートとロスヴィータのスキンシップは、エルフリートからというよりは、ロスヴィータからの方が多い。
そして、そういう流れだからか、一般的な性別の組み合わせでよく見かける光景とは真逆になってしまう。ロスヴィータにエルフリートが甘えるような状態になりやすいのだ。
ついこの前、珍しくエルフリートが自分の膝にロスヴィータを乗せた事があった。あの時の彼女の反応は悪くはなかったと記憶している。
そっか。ロスヴィータだって、甘えたいって思う事もあるよね!
「えっと、今……する?」
短絡的な考えだが、良い提案であるように思えた。一瞬、ロスヴィータの目がきらりと輝いたのも見逃さなかった。
エルフリートはすぐに寝袋の上に座って膝を叩く。
「ロス、おいで」
「……あ、ああ」
ロスヴィータは控えめに頷き、しかし顔を赤くしてエルフリートの膝に頭を乗せた。照れている王子様が自分の膝に頭を乗せている。
照れているのを見つめるのって、ちょっと恥ずかしいかも。エルフリートはその光景に自分の頬も熱くなってきたのを感じていた。




