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エルフリートの詠唱が終わると同時にあちこちから悲鳴が上がる。エルフリートが作り出した雷が眩しくあたりを照らしていた。
「大人しく、しろっ!」
ロスヴィータの声と同時に重たいものが地面に落ちる音がする。エルフリートが視線を向ければ、ナタリアに襲いかかっていた男がロスヴィータによって投げ飛ばされていた。
地面に叩きつけられた彼は、うまく受け身を取る事ができなかったらしく呻き声を上げたまま起き上がる気配がない。簡単に無力化できたようだ。
「はいはい。みんなまとまっちゃおうね。我らが賢神よ、愚かなる者々を集めたまえ!」
エルフリートは人差し指をくいっと糸を引くように動かせば、周囲に発生した魔法の縄がそれに従って動いた。雷によって混乱していた男たちがあっという間に拘束されていく。
一、二、三……捕まえた人数を数えていくと、一人足りない。視線を巡らせれば、雷で攻撃した際に吹き飛ばされたのか、やや遠い場所に男が転がっていた。
「あなたもまとめちゃうねぇ」
これで全員。エルフリートは魔法の縄を締めて彼らを焚き火の近くに集めた。一塊になって座る男たちの顔を検分していくと、何人かには見覚えがある。エルフリートはそこで、女性騎士団の誰かに捕縛された経験がある男たちが首謀者であろう男に賛同したのではないかという考えに至った。
浅い。この人数で、しかも制圧された事があるのにチャレンジするなんて、女性騎士団を甘く見すぎている。
「誰かまだ喋れる人いる?」
「その言い方は……」
「あ、そこの人。前、私に捕まえられた事あるよね?」
エルフリートはロスヴィータのやんわりとした注意を無視して目を開けていた男に近付いた。彼はエルフリートから逃げるように後退ろうと腰を左右に振っている。が、エルフリートが魔法の縄で他の面々と繋いでいるせいで逃げる事もままならない。
ただもがいているだけの男の目の前にしゃがみ、エルフリートはわざとため息を吐いた。
「あのさぁ、どうしてこんな無駄な事をしたの? うまくいくと本気で思っていたの?」
エルフリートが魔法を使わなくても、エルフリートとロスヴィータの二人がかりであれば簡単に彼ら全員を制圧する事は可能だ。スムーズにとはいかないかもしれないが、エルフリート一人だったとしても彼らくらいならば何とかできる。
彼らは、それくらいの実力しかなかった。
「さっそく失敗しちゃったし、どういう予定だったか話をしてくれる?」
エルフリートの問いかけに、男は嫌そうな顔で応えた。今話をするか、後で話をするかの違いなのに、どうして渋るんだろう。エルフリートはそんな事を考えながら「女性騎士団の事情聴取の練習台になってもらうしかないかなぁ」と小さく呟いた。
男の目がひくりと動く。その小さな反応をエルフリートは見逃さなかった。
「事情聴取の技術がまだまだ未熟だから、ちゃんとお勉強させないといけないなとは思ってたんだよね」
女性騎士団は捕縛がメインだ。というのも、女性であるというだけで甘く見られてしまう事が多く、事情聴取を円滑に進める事ができないのだ。そんな状況で、未熟な騎士に行わせたらどうなるか。分かりきっている話だった。
そういう事情もあって、聴取ができる女性騎士団の人間は初期のメンバーだけになっていた。
つまり、普段とは違う聴取になる予感がして、つい反応してしまったのだろう。ここにいる全員が女性騎士団の誰かによって捕縛された経験があるのならば、女性騎士団による聴取が珍しいものであるという認識はあるはずだから。
「で、話をしてくれる気にはなった?」
「ふん……っ」
まあ、そうなるよね。エルフリートは冷静に心の中で頷いた。エルフリートが女性騎士団の誰かに聴取を受けたがっている男との会話をしている内に無力化した主犯格と思われる男の拘束を終えたロスヴィータが彼を引きずりながらやってくる。
エルフリートと対峙している彼のすぐ側にロスヴィータは蹴とばすかのような乱暴な仕草で男を転がし、見下ろした。
「何も言わなくていいぞ。個別に聴取をするだけだ。フリーデ、彼ら全員の口を塞いでくれ」
「はぁい」
誰かが話をしたら、それをベースにした話をする可能性がある。ロスヴィータはそれを危惧したのだろう。エルフリートは軽く頷くと魔法で彼らの口を封じた。
複数の魔法を同時進行で行使したままにするのは骨が折れるが、これくらいの人数なら何とかなる。集中力を切らさないように気を付けないと、と気を引き締める。
「ナタリア大丈夫?」
「はい! 大丈夫です!」
強張った表情が抜けきっていない彼女は威勢よく返事をする。エルフリートはロスヴィータと「後でフォロー入れないと駄目かもしれないな」「それはロスに任せるよ」と目配せでそんな会話をした。
ナタリアは気丈に振る舞っているつもりだろうが、急に襲われて恐ろしい気持ちを味わったばかりなのだ。彼女が落ち着いていられないのは当然だ。それに関しては男性であるエルフリートよりも、女性であり、似たような経験のあるロスヴィータの方がきっとうまく寄り添えるだろう。
「悪いけど、人手が必要だからバティとマリンを連れてきてくれる? 多分もう起きていて、他の騎士たちの指揮を執っているはずだから」
「分かりました」
ナタリアは素直に頷き、身をひるがえした。




