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妖精と王子様のファーストダンス(へんてこワルツ7)  作者: 魚野れん
エルフリート最後の山岳訓練

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23/27

2

 エルフリートが自分とロスヴィータのレオンハルトに対する評価の違いに疑問を覚えている間も彼女の話は続いていた。


「レオンハルトという男は親友とその妹の為ならば、何でもする男だというのが私の評価だ。フリーデは、彼から嫌な事をされた記憶はあるか?」

「…………ない、と思う」


 エルフリートは過去を振り返って、ロスヴィータの言う通りだなと思う。レオンハルトはエルフリートが異性装に目覚めた時も、すんなりと受け入れてくれた。

 レオンハルトが何事にも動じないタイプの人間だからだと考えていたが、もしかしたら、本当はそうではなかったのかもしれない。


「そうだろうな。趣味嗜好、おてんばなあなたを受け入れ、今もまだこうして寄り添ってくれる。私の評価はあながち間違ってはいないと思う」


 反論できない。エルフリートはあいまいに微笑んだ。ロスヴィータがここまで言うくらいだ。きっと自信があるのだろう。

 エルフリートは手にしていた水筒の中身を喉に流し込みながら、レオンハルトとの日々を振り返る。レオンハルトはいつだって、“自分の事を理解してくれる親友”だった。エルフリートにとって彼は確かに“都合の良い親友”だった。


「私、レオに悪い事……してたかな?」


 唐突に不安な気持ちになった。それは、レオンハルトがそうして近くにい続けてくれていた事に対して、エルフリートは何も返せていない事に今さら気が付いてしまったからだった。

 いつだってそうだ。エルフリートは自分の事ばかりで他者からのサポートを当然のごとく受け入れてしまっていた。


「フリーデ。大丈夫だ。気にするな。彼は、好きでそうしている。むしろ、今さらその事を話題にすれば、困惑してしまうだろう」

「そうかな……?」


 ロスヴィータは大きく頷き、笑いかけてきた。


「レオンはあなたたち兄弟の事が大好きなだけだ。だから、これからも今までと同じように接しているだけで、彼は幸せなはずだ」

「……そういうものかな?」

「ああ。私が保証する」


 彼女は視線を自分の愛馬に向けた。その穏やかな表情を見ていると、彼女の言葉を信じても大丈夫な気がしてくる。ロスヴィータはいつも、こうしてエルフリートの心をすくい上げてくれる。

 エルフリートは周りに助けられてばかりだ。最初は妹。次に親友。そして、ロスヴィータ。エルフリートは急に彼女に傅いて許しを請いたい気持ちになっていた。


「……そろそろ休憩も終わりだな。ああ、フリーデ」

「うん?」


 声をかけられ、思考が途切れる。彼女はエルフリートに体を近付けてそっと囁いてきた。


「私はあなたの能天気で前向きなところに助けられている。これからもそのままでいてほしい。だからと言って凹む姿を見せるなとは言わない。だって、あなたをこうして支えるのは私だけでありたいから」

「ろ……ろす……?」


 凛々しくも甘い声がエルフリートの耳を浸食した。一瞬の内にエルフリートの顔に血液が集まってくる。心臓がやけにうるさく、早く動いている。


「休憩終わり! 出立の準備をしろ!」


 エルフリートが動揺して固まっている間にロスヴィータが号令をかける。彼女の言葉に反応した小隊長役の面々が同じ言葉を続けた。

 スムーズに行われていく伝達を聞きながら、エルフリートはロスヴィータの発言を頭の中で繰り返し再生していた。


「フリーデ?」

「ふぁい!?」


 すごく嬉しい事を言われちゃった。そんな事を思いながらぼんやりとしていたエルフリートは肩をびくりと震わせ反応した。ロスヴィータはその姿を見てくすりと笑い、首を横に振った。


「副団長、もう少し真剣に訓練に取り組んではいただけないだろうか?」

「ご、ごめんなさぁい」


 ロスヴィータの口調や声色から冗談だと分かっていたが、エルフリートの口から発せられたのは情けない声だった。


「大丈夫だ。緊張しすぎていても失敗するからな。私の方こそ少し肩の力を抜いて、失敗しないようにしなければいけない」

「ロス……!」

「ははは。私は肩の力を抜き、あなたは集中する。バランスが取れそうだ」


 笑いながら言うロスヴィータは、太陽よりも眩しかった。




 日が傾き始める直前、野営の準備が始まった。テント類の設営や、夕食の準備などが滞りなく進んでいく。今回は野営する日を多めに取っていた事もあって、全員手慣れていた。

 野営に慣れさせる目的もあったが、これだけの人数の女性が一度に泊まれる宿が少ないというのもある。残念ながら、治安の問題だ。

 女性騎士だから、力には自信がある。そういう考えは捨てるべきだというのがロスヴィータやエルフリートたちの考えだった。

 宿をいくつかに分ければ、経験の浅い人間をフォローする人員が足りなくなる。それはただのリスクでしかない。そういう事情もあって――もちろんこの理由は完全に伏せられている――野営が多くなっていたのだった。


「あっ、ちょっとそれ駄目!」


 火をつけるのに魔法を使おうとするのを察知したエルフリートが慌てて声を上げる。野営慣れしたと思っていたけど、ちょっと早かったみたい。

 エルフリートはそんな事を思いながら、彼女たちの方へ駆け出すのだった。

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