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久しぶりの山だ! エルフリートはこれから訓練だというにも関わらず、うきうきと胸を弾ませていた。エルフリートの参加が今期で最後という事もあり、今回の山岳訓練は新人だけではなくその他の女性騎士全員が参加する事になっている。
初めて女性騎士団としてカッタヒルダ山に登った時とは規模が違う。たった数人だけだった女性騎士団は、今や四十人弱にまで増えていた。まだまだ人数としては少ないと言わざるを得ないが、それでも今まで騎士になるという選択肢が存在していなかった事を考えれば、大きな進歩である。
これからきっと、人数は増えていく。エルフリートはそれに立ち会う事はできない事が残念で仕方がなかった。
「新人諸君は初めての人間も多いかと思うが、カッタヒルダ山が見えてきた」
ロスヴィータがよく通る声で言った。これまでの道中、天気がよくて順調だった。そのおかげで女性騎士団の全体的な士気は高い。病み上がり集団である新人騎士も難なくついてこれている。
雑談する余裕もあるし、長時間の騎馬による筋肉痛などで悲鳴を上げている者もまだ出ていない。
「ここで休憩し、もう少し進んでから野営。翌日にはカッタヒルダ山の麓へ到着する」
「予定通りだね」
ロスヴィータの声は明るい。春の日差しのような朗らかな声を聞くのは数日ぶりだった。彼女も女性騎士団全員を率いて長距離を移動するのは初めてで、密やかに緊張しているのだろう。
その緊張に寄り添ってフォローをするくらいしかエルフリートにできる事はなかった。負担を減らして気持ちを軽くする事はできても、彼女の責任を代わりに背負ってやる事もできない。
直接その緊張の原因を解消する事のできない自分がもどかしい数日だった。
「ああ。山に到着するまでは問題なさそうで良かった。まだ気は抜けないが、天候が安定しているだけ気が楽だ」
「うんうん」
「このまま、山岳訓練が終わると良いのだが」
山岳訓練が本番だ。ロスヴィータにとって気が抜けない時間が続くのは明らかだった。とは言え、山に入ればエルフリートが先頭に立つことになる。少しは負担が減るはずだ。
エルフリートはそんな事を思いながら、休息をとる部下たちを見守っていた。川沿いで休憩の号令をかけたのもあって、馬がそちらに集中している。馬がずらりと並んで水を飲んでいる姿はそう頻繁には見かけない光景である。
エルフリートとロスヴィータが乗っていた馬は水を飲み終えたらしく、近くの草を食んでいた。のんびりとした雰囲気が周囲を漂っている。
「ロス、ロジェは大丈夫かなぁ」
「レオンが面倒を見てくれると言っていたから、きっと大丈夫だろう」
「さすがにこの訓練に連れてくる訳にはいかないもんねぇ……」
山岳訓練は、普通のハイキングとは違う。一般市民が歩かないようなルートで移動するし、都度都度訓練を挟むから安全とは言いきれない。ずっと子供ばかり気にしていられる状況ではないのだ。
「流行り病を避ける為に寮生活を許可したのに、山に連れていって怪我をさせるという事態になったら本末転倒だからな」
「病気を避けて怪我をするなんて事になったら大変だもん」
エルフリートはロスヴィータの言葉に頷き、最近のロジェとレオンハルトの関係を思い出す。この前、レオンハルトが休暇を取ってロジェを預かってくれたのだとバルティルデが言っていた気がする。
休みを取ってまで親戚でもない子供の面倒を見るなんて、さすがにやりすぎじゃない? エルフリートは心の中で親友に苦言を呈す。優しすぎるというか、人が良いというか。そこが彼の良さでもあるんだけど。
「……レオは面倒見が良いから心配はいらないか」
「彼はフリーデの事を気に入っているからな。あなたの負担になる可能性のある物事に対しては積極的に動いてくれる」
「……どういう事?」
ロスヴィータの言い回しが引っかかったエルフリートは首を傾げた。ロスヴィータはエルフリートのその態度に目を丸くし、それから考えるように手を顎に添えた。
「レオンハルトという男は、基本的にフリーデの為にしか動かない」
「そうかなぁ?」
「まず、フリーデに合わせて騎士になっただろう? これはあなたを似て非なる立場から支える為だ」
ロスヴィータが言いきると、そういう気がしてくるから不思議だ。エルフリートはロスヴィータが言いにくそうに、それでいてしっかりとした口調で語っていくのを黙って聞いていた。
「フェーデがアルフレッドに連れさらわれたあの時だって、私の部屋までやってきたくらいだ。どうやって情報を集めたのかは今も分からないが、あの情報収集の早さはフリーデにだけ発揮されているように見えてならない。
ロジェの件だって、彼が初対面時に騒いでフリーデが困っていたから、これ以上困らないようにと手懐け――失礼、仲良くなったのだろう」
「ロス……」
こうして並べられると、レオンハルトが親友の為だけに身を粉にする勢いで動いてくれているように見えてくる。エルフリートは、レオンハルトは友情に熱い男ではあるけどそこまで熱かっただろうか、と首を傾げるのだった。




