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ロエーロはひたすら台座について語り、いかにこの作品が素晴らしいかを熱心に伝えようとしてくる。その気持ちはありがたいものの、ロスヴィータは彼のペースについていけなかった。
「巣とは、家。家とは愛。二人の友愛を、決して離れる事のない唯一無二である証として――」
「ストップ。もうそこまでにしてやれ」
エノテーカがロエーロの話に割り込んだ。今回は暴力はなしである。
「うん?」
「時間がかかりすぎだ。仕事の邪魔をしてどうする」
「しまった」
「普通に迷惑行為だ」
「悪かった……つい、語りすぎた」
ロエーロは謝罪しながら巣を渡してくる。ロスヴィータは再び謎の作品を手に入れた。手のひらを刺すような刺激はない。人を傷つける事のないように、しっかりと丁寧に形を整えてくれたようだ。
作品としての良さは他者への気持ちが込められている事だけは伝わってくる。ロスヴィータは意外とつるりとした感触のそれを指先で撫でながら「気にしないでくれ」と苦笑した。
「とりあえず、気持ちは伝わってきた。意外と丁寧な造りだな。触れれば、私たちの事を大切に考えてくれているのだと分かる」
「おお!」
感激の声を上げるロエーロの口をエノテーカが塞いだ。
「……そうなの?? 私も触ってみたい」
「もちろんだ」
ロスヴィータの横からひょっこりと顔を覗かせたエルフリートが好奇心を隠さずキラキラとした目で巣――ロエーロも巣だと言っているから余計台座には見えなくなってしまった――を見つめている。
ロスヴィータがエルフリートに巣を差し出せば、彼は恐る恐るといった風に人差し指でつんつんとつついた。
「自分で持てば良い」
「あ、うん」
エルフリートの手のひらに巣を乗せてやる。彼は「思ったのと違う」と失礼な言葉を呟いた。おそらくはいい意味で期待を裏切られたと思っての発言だろうが、その言葉だけでは悪いようにとられかねない。
ロスヴィータは思わず、失礼な彼の口をエノテーカがロエーロにしたように塞いでしまいたくなった。
「ねえ、これってどうやって滑らかな触り心地にしたの? 研磨? すごく手間がかかってるよね?」
エルフリートがつるりとした面をロエーロに向ける。彼はよくぞ聞いてくれました、と言いたげに口を開き――エノテーカに口を塞がれた。
「むぐ、もが」
「あとで資料にまとめさせる」
「あ、うん」
エノテーカに口を塞がれたロエーロが、苦しそうにもがいている。見えている顔色も赤くなっている事から、鼻と口の両方を塞がれてしまっているのかもしれない。エルフリートはちらりとロスヴィータを見やり、それから「質問をまとめた手紙を出すから、それにお返事くれたら嬉しいな」と笑った。
エルフリートがどうしてロスヴィータの方を見たのかは分からないが、彼が不機嫌ではないのならそれで良い。
「なるべく早く手紙を出すね!」
「ああ、楽しみにしている」
「んぐー!! ふぐ!」
ロエーロが顔を赤くしてエノテーカの腕を叩いている。さすがにこれはまずいのではないだろうか。ロスヴィータがそう思って口を開こうとした瞬間、エノテーカによる拘束が解かれた。
「ぷはっ! 死ぬかと思った」
「いつも大げさだな」
「毎回きついんだって」
ロエーロが文句を言い、エノテーカがそれを軽くいなす。二人はいつもこうしてふざけ合っているのかもしれないな、とロスヴィータは思った。
「俺の作品に関する質問なら、いつでもどんなのでも、たくさんでも歓迎だ!」
「はいはい。とりあえず俺たちは戻るよ。邪魔して悪かった」
ロスヴィータの中で、この二人はもう少し真面目な騎士だと思っていたが、気さくで軽い部分も多分にあるようだ。他の騎士と変わらない。
早く切り上げようとするエノテーカともう少し話していたいロエーロといった構図は、釣り合いの取れた相棒関係であるように見える。
「ちょっと、まだ言い終わって――」
「運ばれるか?」
「いや、良い! 俺はまだ自分で移動できる!」
他の騎士と同じく、調子に乗った人間は落として輸送するのが常のようだ。ロスヴィータは笑いながら手を振った。
「私からも質問したい事がある。フリーデと一緒に手紙を出すから、その時はよろしく頼む」
「一緒の手紙に書けば良いよ。ロエーロだって二度手間になっちゃうし」
「それもそうだな。フリーデの手紙に混ぜてもらうよ」
エルフリートと一緒に手を振って彼らに笑いかければ、二人もそれに倣って手を振り返してくれた。
「じゃあ、元気でな。また手紙で」
「こいつの話は半分くらいにしておけば良いからな」
「おい!」
オフの時は愉快な二人組になるらしい。訓練の時や、仕事中ですれ違う時には見れなかった二人の一面に、愉快な気持ちになった。彼らとは、しばらく顔を合わせる機会はないだろう。
その事を少し寂しく思ったロスヴィータは彼らの背中が見えなくなるまで、エルフリートと手を振って見送ったのだった。




