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44.公爵夫人の料理人

 残酷な描写があります。苦手な方は後書きに結果を書きますので本文を飛ばして下さい。




 モンスターは定期的に立ち塞がった。出て来るのは二種類だけ、マカロンとワッフルだ。柔らかいマカロンと違い、ワッフルはお硬い奴らだった。その手に持つ槍でもって集団戦闘を仕掛けてくる。しかし、どうも魔法に弱いらしく、大川の広範囲水魔法を食らうとたちまちしなしなになってしまう。機動力も無い為、マカロンよりも対処しやすい敵だった。


「見えてきたぞ、あれがバベルだ」


 周囲の警戒をしていた俺達は柏原副隊長の大声で顔を上げる。雲に届くかと思うような高さの真っ赤な塔が視界に入った。その塔を中心に真っ白な建物が段々になっている。その様はまるでホールケーキのようだ。その街の裏側、こちらの砦とは真反対に位置する場所から黒煙が上がっていた。


「どうやら奴さん達始めてるらしいな」


 関西の連中は早くも攻撃を仕掛けているらしい。


「よし、突入前に確認するぞ。北東の砦に巣くうエリアボスの名前は公爵夫人の料理人だ」

「不思議の国のアリスだな」


 ジェイソンが反応した。俺は原典を見たことが無いから知らないが、不思議の国のアリスに出てくるキャラクターらしい。


「そうだ。物語と同じく、接近する敵に巨大な皿や包丁を投げてくる。さらに厄介なのは手に持ってる胡椒瓶だ。武器が振るえるまで接近すると容赦なく振りかざしてくる。実際には胡椒では無く、麻痺の状態異常を引き起こす凶悪な代物だ」

「対処法はあるんですか?」

「いくつかあるが、今回は初鹿野が風魔法で吹き飛ばす予定だ。しかし、俺達はそれ以上関与しない。君達だけで奴を倒すんだ」


 エリアボス程度では参戦しないとそう言いたいらしい。


「いいか、街の守護を任されるようなエリアボスだ。通常の魔境のエリアボスとは理由が違う。そこんとこよく肝に銘じておけよ」


 八名で打ち合わせを行う。まずアタッカーだ。これは五名、俺、ジェイソン、テル、胡桃、上村さんだ。

続いて援護、大川、久慈さんの二人。久慈さんは魔法と近接どちらもいけるオールラウンダーらしい。今回は魔法を中心に使ってもらう。最後にバッファーの伊達さんだ。探索者でバッファーは珍しい。保奈美は全てこなすので数に入れないとすると、俺の初めて組んだバッファーになる。


「戦闘中は二人から三人ぐらいしか配れないので、優先してバフを掛ける方を決めていただきたいです」


 俺とジェイソンは真っ先に遠慮した。正直バフを多少貰っても今の攻撃力が大きく変わるとも思えない。ジェイソンも同じ理由だろう。テルと胡桃も続いて断ったので、必然的に大川、久慈、上村の三名に、敏捷と頑強のバフが掛けられる事になった。


「指揮は僕が執るがいいかい?」


 大川の提案に俺は頷く。ジェイソンも何も言わなかったので、彼が指揮官になった。


「では任せてもらう。砦の簡易図だ。料理人はここ、一階から三階を吹き抜けにした大広間に巨大なキッチンがあって、ここにいる。昨日説明があったように、特殊なエリア結界によって砦の裏門が塞がれている為、倒さない限り街には入れない」

「討伐事例はあるのか?」


 上村さんが聞く。討伐事例があれば、中越の戦力でも倒せるレベルのエリアボスだということだが……。


「どうなんですか?」


 大川が柏原副隊長に質問する。


「ない。その情報もかなりの犠牲を払ったようだ。曰く、分隊長レベルの者でも歯が立たないとの事だ」


 それは相当な強さだな。主レベルと考えたほうがいいかもしれない。


「成る程。まずは牽制だな。出方を見よう。倉松、シップ」

「分かった」

「俺のスキルで一撃だろ」

「それならそれで構わない」


 その後段取りを決め、砦に突入する事になった。砦の前にはお菓子の兵隊はいない。不気味に思いながらも門に続いて中庭の中央扉を開け、屋内に侵入する。廊下の先に開いた扉があった。恐らく大広間だろう。しかし、何故開いているんだ?


「おい、来るぞ」


 ジェイソンが呟き、右手を前に出す。すると前方の空間が粘り気を持つ。その瞬間、何かがそこへ侵入して来た。一つ二つ、次々と突き刺さって来る。ゆっくりと前進するそれをよく見ると、


「包丁?」


 包丁だった。しかもただの包丁じゃない。目と口がある。嗤っている。


「生きた包丁か、避けたとして、戻って来るとか無いよな?」


 久慈さんの質問に誰も答えない。


「壊すのが得策か」

「私がやろう」


 胡桃が宣言して前に出て来た。刀に手を添え、闘気が一瞬で膨れ上がる。相変わらずとんでもない闘気量だ。


「三の太刀 黒兎」


 音もなく抜刀された刀が粘性の空間を断った。一太刀に見えるが、返す刀でしっかりと残りの包丁も破壊している。目前にあった包丁は全て切断される。


「ひゅー、危ない。俺の制御も断ち切られるところだったぜ。ヤングレディは危険な女だな」


 ジェイソンの軽口を胡桃は残心をする振りをして無視していた。


「よし、ジェイソンが空間を解除したら、全員大広間に駆け込むぞ。狭い場所で飽和攻撃が来たら堪らないからな」


 大川の号令で全員が走り出した。最初に広間に到達した俺とジェイソンは料理人の姿を探す。どうやら食堂のようだ。奥まで続く巨大な長テーブルが中央に置かれていてる。シャンデリアには蝋燭が灯り、異様な雰囲気だ。正面から平皿が飛んできた。棍で打ち払う。


「あれか」


 正面奥に厨房が見えた。竈門には火が燃え盛り、フライパンが踊っている。フライパンを操るのは広間の反対側から見ても巨人と分かる程の人影。


「倉松からデートに誘うか?」


 ジェイソンがジョークを言いながら、首を奴に向ける。


「ではお言葉に甘えて」


 源槍を二つ。番天印を刻んで撃ち込む。

 輝く二つの槍型は一直線に料理人に向かって飛んで行く。料理人がフライパンを持つ右手では無く、左手を振った。槍型が弾かれ、天井に突き刺さる。その手には、


「鍋の蓋?」

「ハッハッハ。エッジの効いた武器じゃないか!」


 ジェイソンが大笑いしている。皆が追いついてきた。俺はジェイソンを小突いて黙らせる。


「でっけーテーブルだな!」

「いい匂いもする」


 そう言われてみれば、何とも言えない香ばしい匂いがしている。奴の振ってるフライパンからか?


 料理人はこちらを気にせず、料理を続けている。フライパンを火から上げ、皿に盛り付けている。待ってやる理由も無い。だが、奴はその皿をテーブルに向けて投げて来た。皿はテーブルを滑り、俺達の前で停止する。


「なんだ?いっちょ前におもてなししようってか?一体なんの料理を……」


 大皿にはソースの掛けられた肉のような物。その形はまるで人を……。

 俺は急いでテルと胡桃を皿から遠ざけ目を塞いだ。二人は訳が分からないまま目隠しされ戸惑っている。


「保奈美!」

「ええ、安らかな眠り(フリージング)

 

 皿はたちまち氷に覆われ中の者を覆い隠す。


「ゔえっ」


 伊達さんが吐いた。久慈さんと大川も青い顔をしている。副隊長は目を奴から背けず手を合わせている。上村さんは……。


「よくも、よくも!絶対許さねぇぞおおお!」


 一人料理人に向かって走り出していた。


「無茶だ!上村さん!」

「戻れ、ウエムラ!」


 ジェイソンがスキルで上村さんを強制的に引き戻した。上村さんは前進しようともがいているが上手く走れないようだ。


「はあはあ、止めるな!シップ!」

「冷静になれ。ミーティングを忘れたのか」

「お前は他所の人間だから分からないんだ!同胞が玩具にされて、こんな……こんなの人の死に方じゃねえ!」


 前進は諦めたようだが、今度はジェイソンに食って掛かる。


「上村さん気持ちは分かるが」 

「倉松!こんな辱めを受けた同胞がいるんだぞ!冷静になんて……ぶっ」


 上村さんが殴り飛ばされた。殴ったのは柏原副隊長だ。その拳を怒らせたまま俺達の前に出る。


「上村二階。怒っているのがお前だけだと思うか?」


 顔は見えない。しかし、その視線は厨房に立つ奴から一度も逸らしていないのが分かる。


「否。俺の腸は煮えくり返っている。勿論お前達もそうだろう」


 決まっている。今にも最大火力をあいつの顔面に叩き込んでやりたいくらいだ。


「その憤怒が隙となる。敵にしてみれば、簡単に当てられる的と変わらない」


 料理人がこちらを見た。その顔には鼻と目が無かった。あるのは只々大きな裂けた口。その口が嗤った。こちらを見ながらニタニタと嗤っている。


「今我々がしなければいけない事は」


 柏原副隊長が氷の塊をそっと抱き上げ、後方に置く。


「奴を倒し、こいつを故郷に埋めてやる事だ」


 柏原副隊長は上村さんに近付き、手を差し出す。


「違うか?」

「……いえ!違いません!」


 上村さんの目が元に戻った。副隊長に引き上げてもらいながら、立ち上がり、敬礼する。


「よし、ならばやれ!」

「「「了解」」」


 料理人が厨房から出て来た。右手にはグルカナイフと包丁の間を取ったような長包丁。左手には鍋の蓋を持っている。禍々しい闘気がその恰幅の良い体を覆っていた。身長が二メートル半ぐらいはある。腰に胡椒瓶を三本携帯していた。あれが例のやつか。


 作戦通り、俺とジェイソンが先行する。料理人が片手を掲げると厨房奥の食器棚から平皿が飛来した。しかも全ての皿が軌道を変化させながら迫って来る。だが、俺達は迎撃を選択しない。皿の軌道を読み、間を擦り抜ける。後ろに控えるテル、胡桃、上村さんが抜けて来た皿を砕く。


「飛燕」

「おらおらおら」

「肘撃ち」


 胡桃は斬撃を飛ばし、テルは徒手空拳で、上村さんはトンファーを両手に装備して一つの討ち漏らしも無く砕き果たす。あれが上村さんのメイン武器か、渋いの使ってるな。


「倉松。俺が脚を止める。上半身を狙ってくれ」

「分かった」


 ジェイソンが奴に向かって右手を掲げる。


「バインドガム」


 ジェイソンの手先から白色の物体が飛び出した。流体のそれは料理人の足元に絡み付く。長包丁で切り裂こうとするが、刃が通らないようだ。これは大チャンスだな。龍気を纏い源槍を三つ束ねて如意棒の先端に宿らせる。即席の槍が出来上がった。


「牙突!」


 身動きの取れない料理人の右肩を狙う。奴は逃げるのを諦め、左手の鍋の蓋を掲げる。そんなもので止められるか!だが、穂先が鍋の蓋にぶつかると同時、衝撃が中和された。何やらエネルギーフィールドのような物が鍋の蓋を中心に発生している。


「物理シールドか!オオカワ!」


 ジェイソンが大川に魔法を要求する。俺は振るわれる右手の包丁を回避し、射線上から退避した。


「スチームランチャー」


 大川が魔法を放った。それは沸騰した水の雨。着弾した瞬間小さな水蒸気爆発を連続で起こす。一分にも及ぶ爆発の連鎖が続き、水煙で料理人が見えなくなる。


「やったのか?」


 テルが言ってはならない一言を紡いでしまった。次の瞬間、水煙の中から光る物が飛んで来る。


「麻痺だ!」


 胡椒瓶だと気付いた時にはもう範囲に入ってしまっている。瓶が何らかの衝撃により割られ、内容物が広がる。避けられない……!


一陣の春風(ベンティベンティ)


 保奈美の声が響き、大広間に突風が吹いた。それは内容物や水煙を纏めて彼方へと吹き飛ばす。俺が飛ばされないように地面に如意棒を突き刺して耐える程の強風。奴の姿が見える。その左手には先程のフライパン。それを垂直に構えて魔法を凌いだようだ。


「理解した。あの(lid)は物理シールド。フライパンは魔法バリアだな」


 ジェイソンの言葉に頷く。鍋の蓋は今は背後に背負っているようだ。換装型の盾って事か。


「だが同時には出せない」

「そうだな。ちなみに魔法はどうだ?」


 この場合のどうだ?は使えるか?という意味だろう。


「一応いけるが、近距離オンリーだ」

「持続性は?」

「それなりに」

「分かった。なら倉松が盾、俺がトドメ。いいか?」

「オーライ」


 料理人が攻めに転じた。そのふくよかな身体を回転させながら長包丁を振り下ろしてくる。一旦俺達は後退し、テルと上村さんが前に出て迎え打つ。上村さんが包丁を受け、テルが反撃する。テルの殴りは確実に料理人にヒットしているが、その弾力のある身体に吸い込まれ、その圧倒的なエネルギーを生かせていない。時折有効打と思われる一撃だけ、奴は鍋の蓋で弾いている。


「おい、もう受け切れないぞ!」


 上村さんが悲鳴を上げて、胡桃が交代で受けに回る。だが、料理人は何かを察したのか、攻めを止めて後退した。


「斬り裂いてやろうと思ったが、中々勘が鋭いな」


 胡桃がぼやく。そろそろか。

 ジェイソンが親指を立てた。準備が出来た合図だ。


「龍気雷装」


 俺は龍気を全開にして雷装を纏う。黄金の稲妻となり奴に急接近した。その速度を予想していなかったのか、料理人は胡椒瓶を手に取る。しかし今は範囲内に俺一人。すまないな。それは対策済みなんだ。瓶の内容物が振り撒かれるのもお構い無しに、奴に槍を突き立てる。それも咄嗟の鍋の蓋で防がれた。デブの癖に反応がいいな!


「きょうにぃ!」

「倉松!」


 周りから驚愕の声が上がるが、耳のイヤリングが光り、麻痺の耐性がしっかり機能しているのを教えてくれた。こいつを買ったのは正解だったな。

 さあ、喰らえ!


「迅雷樹!」


 俺が持つ、唯一の魔法属性の攻撃を如意棒を通して料理人に解き放つ。奴もさる者で、素早くフライパンと入れ替え、俺の迅雷樹を防御した。構うものか。俺は迅雷樹に全てのエネルギーを注ぎ込む。激しく如意棒が接触しているフライパンの表面がスパークし、広間全体が照らし出された。その状態を維持し、本命を待つ事にする。ここで決めてくれよ、ジェイソン!


「Good job倉松。It's show time」


 照らし出された大広間の隅にジェイソンがいた。天井に逆さに立ち、両手で何かを掴んでいる。いや、あれは何かを()()()()()いるんだ。闘気をよくよく見ると、粘度のある()()を引っ張っていた。それが、広間の中程から隅まで引き絞られている。


ソフトポイント(Soft-point)ライフル(rifle)

 

 ジェイソンが手を離したとほぼ同時に料理人がくの字に折れ曲がった。着弾した弾は貫通する事無く、衝撃を全て身体の内部での破砕に転換する。吹き飛んだ料理人は空中でその内部から破壊され、分解していく。ソフトポイント弾か。弾頭が潰れる事によって、その破壊力を余すことなく物体に伝える事が出来る。ジェイソンはスキルでそれを再現したのだ。この段階で確信した。ジェイソンは間違い無く、レジェンダリースキルの保持者だ。


「どうだ?柔らかいってのは恐ろしいだろう?」


 ジェイソンの捨て台詞が消えていく公爵夫人の料理人に向けられる。

 討伐は成功した。勝利の余韻も味わう事無く、俺は場所を移動する。

 

 手元にメダルが滑り込んだのを見ながら、彼を、今や氷の中で眠る誰かに、黙祷を捧げる。これで少しは手向けが出来ただろうか。


 願わくば、安らかな眠りが訪れんことを祈る。


 匡太郎達は苦戦しながらも公爵夫人の料理人を倒す事が出来た。しかし、戦いの中で、上村は決意を強くする。

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