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43.列島線の向こう側から




「それじゃあ作戦内容を開示する。これを見ろ」


 刈羽村前線基地に着くと、早速攻略内容のミーティングが始まった。手元の端末には柏崎魔境の大まかな地図と衛星写真が映し出される。


「我々recaptureは北の侵入口、ここだな、この地点より南下、街の北東にある砦を急襲する。と同時に南より関西協会の連中がこの南西の砦を襲い、街を挟撃する手筈になっている」


 柏原副隊長が示したのは先程見たバリケードの地点だろう。街の北東までは四キロ弱と言った所か、かなりの強行軍だ。


「関西の奴らが来てるんですか?」


 大川が嫌そうに聞いた。やはり関西協会は嫌われているようだ。


「そうだ。この作戦の為に、わざわざ海を渡って来た。俺はいらないと言ったんだがな。どうも恩を売りたいらしい」

「なあ、倉松。関西協会とは何だ?」

「あー、ミーティングが終わったら話すよ」


 事情を知らないジェイソンが後ろから聞いてきたが、今はまずいので後程話すことにする。


「突破した後、バベルを目指して進軍。まず初鹿野がバベルを折れるか確認を行う。それが可能であれば、棒倒しのように折れたバベルに最大火力を叩き込んで終わりだ。それが不可能だった場合、第一班のみ突入し、中の様子を探る」

「関西が黙っていないと思いますが」


 上村さんの言う通り、奴らは気性が荒いからな、我先にと突入する可能性もある。


「自殺志願者は放っておけ、この作戦の指揮官は俺だ。従わないのなら、命の保証はせん」

「半分を残すのは何故か」


 胡桃が聞いた。


「撤退の為だ。この街の中は何故だか、モンスターのリスポーンが異常に早い。エリアボスも半日程で復活する。よって、三時間が過ぎた段階で塔より撤退する。第二班には退路を確保していて欲しい。翌日は第二班が塔に入る。退路の確保は第一班だ。これを繰り返し、確実にバベルを攻略する。いいか無茶はするなよ。改変型は何が起こるか予想がつかん。死にたがりには仕事は渡さんからな」


 柏原副隊長の念押しに俺は頷いた。五体満足で紋芽の元に戻らなきゃならないしな。柏原副隊長の話が終わり、解散となった。ジェイソンが隣に座ってきて、先程の説明を求められる。


「それで?関西てのは西の日本だろ?こちらとどう関係があるんだ?」

「あー、まず大前提としてだな。日本は今東と西に分断されているんだ」

「分断?どういう事だ?」


 俺は分かり易くする為に日本地図を端末に映す。


「この敦賀という所から琵琶湖を切り裂いて、紀伊半島を縦に割り、太平洋側の熊野まで。このラインに魔境が隙間無く発生しているんだ」

「隙間無く?攻略はされていないのか?」

「された所もある。だが不思議な事にこの列島線と我々は呼んでいるが、列島線の魔境は復活する」

「What!?魔境が復活する?」

「攻略された魔境の隣の魔境が広がって、攻略された範囲を飲み込むのさ。しかも広がった魔境の主は一段と強化される」

「なんだそれは」

 

 ジェイソンもそんな魔境は聞いた事が無いと言う。


「だから、これ以上の強化を防ぐ為手を出す事は協会が禁じた。今は不可侵地帯として、東と西を分かつ壁として存在してるのさ」


 ジェイソンは納得したように頷いた。しかし、この話には先がある。関西協会はこの壁を攻略する手立てを用意したとの噂があるのだ。近々西と東で話し合いが持たれるとも聞いた。関西の連中がどれだけの戦力を持っているが知らないが本当に可能なのだろうか。


 ミーティング室を出て、テルとシャワー室に向かう。決戦には身綺麗にして挑みたいからな。俺が髭剃りを始めたのを見て、テルは先に部屋に戻ってしまった。そうか、まだ剃るほどの髭は無いらしい。顔を整えた後、シャワー室から出て、夜風に当たろうと廊下の窓を開けた時、微かに話し声が聞こえた。何処から聞こえるのか確認すると、どうやら宿舎の外、駐車場のあたりで声がする。すぐに窓を閉めようと思ったが、駐車場の端に立つ角刈りのシルエットを見つけた瞬間、興味が湧いてしまった。そっと非常階段の扉を開け、源槍を使って如意棒を浮かせ、頭上の死角に待機する。どうやら電話をしているようだ。しかし、何故こんな夜に人目を忍んで電話をしているんだ?


「ああ、気付かれていない。探索者の武器を確認する奴なんていないからな」「……ああ、いや、心配無いさ、関西の連中がいようがいまいが関係無い」「……そうだ、タイミングはコチラで合図する」「……分かった。決行前に、コールする。ああ、頼んだぞ」


 電話を切ると静かに辺りを確認し、立ち去っていった。だが、流石に空に浮いている俺を感知する事は出来なかったようだ。あのシルエット。間違いなく上村さんだ。明日保奈美に相談してみよう。あの上村さんが俺達を裏切るような事をするとは思えないが……。


 翌日の朝、朝食を食堂で取りながら保奈美を探したが、どうやら打ち合わせで出発直前で合流すると言われた。しょうがないので、インベントリから一つ一つ装備を取り出して確認する。今回から装備を一新した。今まで使用していたプロテクター類では無く、ゲーム内で購入した装備をこちらに持ち込んだのだ。


▶グリンの上衣

 グリンビーの巣を使った濃紺の上衣。グリンビーは特殊な蛋白質で巣を編み上げる。その硬さは鋼に匹敵する。頑強にかなりの補正。


▶タパト石のイヤリング

 左耳に装着する。混乱と麻痺に耐性を付与。


▶バマトータスの指輪

 ノックバック耐性を付与。


▶マザルカのボトムス

 マザルカ地方で作られた黒色のボトムス。火に耐性のある植物の繊維が編み込んである。頑強に少し補正。火耐性を付与。


▶ジブアのブーツ

 硬い皮で有名なジブアタイガーの革で作られたブーツ。頑強にかなりの補正。


▶灰色草のジャケット

 灰色草で編まれたロングジャケット。少しの風耐性を付与。


 一式装備して、おかしくないか確認する。今回のコンセプトは硬さだ。ゲーム内と違って頑強の欠如は死に直結する。だから、硬さに重点を置いて装備を揃えた。頭装備は例によらずしていない。視界を遮られるとイライラしてしまうからだ。その代わり左耳に耐性付与のイヤリングをしている。ボトムスはベルトでは無く腰紐式、足首も同じく紐で固定している。ジャケットは太ももぐらいまである長いやつだ。実はもっとしっかりした物が欲しかったのだが、ここで予算が尽きた。ボトムスとジャケットのせいで、ちょっとワイルド系になってしまったが、まあ及第点だろう。


「お、きょうにぃ、何その装備!」


 テルが配給のプロテクターを装着し終えて合流するなり驚きの声を上げた。


「あー、この前仕立てて貰ったんだよ」


 そう言えば、テルと胡桃には俺のスキルについて詳しく話していなかったな。今後の事を考えたら伝えておく必要がある。今回の遠征でタイミングを見つけて話すかな。


「カッケーじゃん。オレも欲しー!」

「稼げるようになったら、店を紹介してやる」


 自分で買った装備は愛着が湧くからな。しかし、テルの力に耐えられる装備となると、そうはないぞ……。言ってしまってから、ちょっと後悔した。まあ、紋芽あたりにいい店を紹介してもらおう。俺はケースから取り出す振りをしながら、インベントリから如意棒を取り出し、背中にマウントする。この為の肩掛けベルトは現実で用意した。色味が浮かない様に暗白色に染めたベルトだ。


 胡桃も出て来た。彼女は手甲だけ付けている。他はいつもの袴だ。


「おい、胡桃。そんなんで大丈夫か?」


 テルが心配して尋ねた。


「大丈夫だ。こう見えて頑強系のスキルはかなりの数所持してる。全く、父上と兄上の過保護には困ったものだ」


 どうやら実家の援助が厚いらしい。そら大事な娘だからな、二人の心配も頷ける。


 上村さんと保奈美も合流して、現地に向かう事になった。移動はまたしても大型バンを飯田さんが運転してくれている。


「南から連絡が入りました。あちらさんは一足先に魔境入りして派手に暴れてるようですよ」

「俺達も負けないようにしなきゃな」


 そう言って笑った上村さんはかなり大きなバックパックを背負っていた。日帰りが決まっているので、肩ベルトのポーチに少量の栄養剤しか持って来ていないが、俺ももうちょい持って来るべきだったか?多少焦ったが、まあいざとなればインベントリがある。そう思い直して、上村さんから視線を外す。だから、俺は気付かなかった。彼が陰のある笑みを浮かべている事に。



 バリケード前で点呼が行われた。関東側は総勢十名。関西側が何人用意しているか知らないが、個々の実力を考えれば十分な戦力だろう。


「第一班行くぞ」


 柏原副隊長を先頭に第一班が魔境に侵入する。続いて俺達も侵入する。先頭は上村さんだ。

 そこはおとぎの国だった。曲がりくねった木に、丸い草や黄色の地面。全体的に蛍光色が多く、目がチカチカする。


「大代!上空から監視しろ!」

「イエッサ」


 柏原副隊長の指示通り、テルが浮かび上がり上空監視に入る。こういった時に飛べるのは便利だ。ドローンで同じ事は出来るが、すぐに撃ち落とされるしな。行軍は早足で行われた。今のところエリアボスはおろか、モンスターの一匹も出て来てはいない。順調に行程の半分程を消化したところでテルが声を上げた。


「前方にモンスターっす!」

「数と形は?」

「四です。形は……マカロン?」

「マカロン兵だ。攻撃は大した事無いが、転がって撹乱してくる。一体ずつ確実に仕留めろ」


 柏原副隊長がミーティングで話してくれた情報を思い出す。柏崎魔境のモンスターは主に四種類。マカロン兵、ワッフル兵、スコーン兵、クッキー兵だ。

 俺達にも見えてきた。一様にピンクのマカロンの形をしている。それにしても、マカロンに手足が生えており、二足歩行しているのは異様としか言い様が無い。しかも奴らには目と口があるのだ。それらがカートゥーンのように動いて感情を現す。

 遅れてこちらに気付いたマカロン兵は四匹?とも目を丸くする。一匹がこちらを指差し何事か叫んだ。


「鑑定」


▶マカロン兵

 女王に仕える一兵卒。ワッフル兵を見下しており、スコーン兵とは仲が悪い。


 いらない情報しか無かった。さっさと仕留めよう。どうやら柏原副隊長と保奈美は静観するようだ。そう言えばこれ試験も兼ねてるんだったな。


 あちらはジェイソンがさっさと先行し、二体とも動きを止めている。その隙に残りのメンバーで仕留めた。こちらはと言うと、胡桃と上村さんが一体ずつ片付けて終わりだ。何もする事無く戦闘が終わる。


「状況終了。行軍再開」

「「「了解」」」


 まあ、楽に越したことはない。一路、バベルを目指し、俺達は進む。

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