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41.フレンチトーストを食べたい




 俺はオールレンジ攻撃に襲われていた。前後左右上下全ての方向から鉄球が迫って来る。キララのポルターガイストだ。その上で忍者さっちんがダイモンに接近するのを牽制する。これを捌き切るのは至難の技である。というか実際無理だった。何発か被弾してしまう。幸いだったのは、ダイモン自身が鉄球を迎撃出来た事。


「ホーミングレイ!」


 追尾式の光魔法がいい感じに鉄球の数を減らしてくれている。敵方は鉄球が残り一つになったあたりで、次の手を打ってきた。


「水遁、水宝珠!」

「フルーイド」


 さっちんの攻撃は非常に多彩だ。各種遁術の他に様々な暗器による近接攻撃を仕掛けてくる。ただ、それぞれが攻撃力に乏しく、それを補うのがキララの役目のようだ。今も頭上に巨大な水球を出現させ、キララが念動力でこちらに飛ばしてくる。水球が形を変え、幕のように広がった。


「流体操作か!」


 水球がダイモンに向かったと思わせて、標的は俺か。


「番天印!」


 ダイモンに押印し、そちらに緊急回避する。だが、敵もそれは予想済みだったようだ。


「氷遁、千本柱」


 広がった幕が一瞬で凍りついた。たちまち氷柱(つらら)が表面に現れ、針山のようになる。これはまずいか。


「インジェクション」

「龍気雷装」


 キララのスキル発動と共に氷柱が回転しながら飛来した。その数はゆうに百を越える。避けきれないと判断し、龍気と雷装を展開する。黄金色のオーラに覆われた。疑似覚醒状態となった俺は上空に飛び上がり、空歩でさらに上へ、ここなら氷柱は届かない。

 振り返り下を見ると、さっちんが今がチャンスとばかりにダイモンに迫っていた。抜け目がないな。


「ダイモン構えろ!」


 俺が槍を投げ下ろす体勢に入ったのを見て、ダイモンが本を掲げた。


「天柱落!」


 重心移動無しで放ったが、龍気発動中のステータスに後押しされ物凄い速度でダイモンの目の前に着弾する。


「バイブル!」


 その瞬間ダイモンの無敵技が発動し、技の衝撃をキャンセルした。一方でさっちんはたたらを踏んでいる。ここだ!

 俺は二歩目の空歩で急速降下、さっちんの肩を押し下し手を添える。


「発勁!」


 地面にヒビが入る程の衝撃が発生し、さっちんは地に伏せた。さらに地面に突き刺さったままの槍を握り、覚醒状態でなくとも使用が可能になったこの技を叩き込む。


「迅雷樹!」


 地を走る稲妻が発生し、さっちんのHPが全損する。


「ストライクレイ!」


 俺の大技の隙をダイモンがカバーしてくれた。キララの右手にエネルギー球が見えていた。あれを放つつもりだったのだろう。ダイモンのレイに影響され、明後日の方向に放たれる。俺は第二撃を撃たせまいと急接近し、槍で貫いた。


『勝者、ダイモン、らっきょチーム!』


 試合に勝ち、これであと一つ。復活した忍者と超能力者のコンビは何やら言い合いをしていたが、俺達が右手を差し出すと苦笑しながら応じてくれた。だが、すぐに喧嘩を再開し、そのままワープしていく。仲良くしろよー。


「いよいよですね」

「なあダイモン」

「どうしました?」

「明日の朝飯、何食べたい?」

「うーん。フレンチトースト。砂糖とミルクで甘々になってるやつ」

「よし、じゃあ勝ったらフレンチトーストな。甘々の」

「ふふ。それは是が非でも勝たないとですね」



 決勝戦だ。負けトーナメントの勝者である俺達は敵が待ち受ける会場にワープする。待ち受けていたのは川島大佐と白葉さんの二人。やはりこの二人が勝ったか。コンビネーションが完璧だったからな。


「ほう。そちらの女人はまさかダイモンか。すっかり様子が変わったではないか」

「白葉さんお久しぶりです」

「本当にな。これでどちらが上か決まろうというものだ」

「二大巨頭ヒーラー対決ですか。私も腕が鳴るというものです」

「川島大佐さんもジンシャ坑道以来です」

「そういえば、一度お会いしましたね。そちらは確かダイモンさんのクランの……」

「らっきょです」

「そうでしたそうでした」


 口ではそう言うが、絶対忘れてたな。


「しかし、決勝まで上がって来るとはな。ダイモン恐るべし、と言ったところか」


 ダイモンは微笑むだけで、何も言わない。


「しかし白葉さん。勝つのは我々です」

「うむ。我らの連携に死角無し。決勝まで来たところ悪いがなダイモン。さっさと終わらせるぞ?」

「そしてトラットリアの威光はゲーム内に轟く事でしょう」


 川島大佐は微塵も疑う予知の無い事実であるようにそれを自信満々に述べた。


「それはどうでしょうか」 


 たが、ダイモンの言葉に二人の勢いが止まった。


「む?どういう意味だ?」


 ダイモンが微笑みながら、愛器の教典を取り出す。


「良い機会です。このモーニンググローリーのクランリーダー。ダイモンが宣言しましょう」


 そう言うと、舞台を見守る観客に向けて、左手を広げる。


「私達、モーニンググローリーは最初にこのゲームのエンドロールを見ます!トラットリアでも勝鬨橋でもない。どのクランよりも早く!どのクランよりも強く!その力でもって完全クリアを成し遂げます!今からお見せする戦いがその証左となるでしょう。そしてその原動力は私であり、彼です」


 ダイモンが俺を手で示す。彼女からの信頼が厚くて火傷しそうだ。


「彼こそがこのゲームに於いての特異点(シンギュラリティ)。さあかかってきなさい!その力しかとお見せしましょう!」


 試合開始の鐘が鳴る。運営さん良い仕事してるね。


「龍気雷装」


 最初から全力だ。雷を纏った俺は白葉さんに向けて急接近する。


「火炎斬波!」


 横合いから川島大佐の大剣が振り下ろされ、目の前に火の波がカーテンのように広がる。目眩ましか。だが、こんなもの足止めにはならない。


「源槍」


 俺は周りに十の源槍を出現させ、回転させながら火のカーテンを突破する。白葉さんを捉えた。このまま押し切る。


「猪口才な!風扇二爪!」


 白葉さんが両手の扇子を交差させた。そこから風の爪がXの形になり飛んで来る。俺は源槍を束ね、槍で受けた。そこまで威力は無いが、かなり押し返されてしまった。そう上手くはいかないか。


「今度はこちらの番だ!フレイムタン!」


 川島大佐が燃え盛る大剣を構える。


「川島、焼き尽くせ!オーバーライド!」


 白葉さんのスキルが発動した瞬間、大剣が天を突くような巨大なシルエットになる。なんて熱量だ、これはまずい。


「劫火大号令」


 大剣がゆっくりと振り抜かれる。しかし、振りがゆっくりでも、切っ先は物凄い速さだ。俺は何とか上空に逃れた。ダイモンは!?

 俺が下方を見ると、何とかバイブルで防いだようだ。良かった。そう思ったのも束の間。


「リキャストタイムキャンセル」


 しまった!そうだ白葉さんにはこのスキルがあった。リキャストタイムをキャンセルされたフレイムタンが再び猛威を奮う。


「劫火大号令」


 バイブルを発動して緊急回避が出来ないダイモンに大剣が迫る。間に合うか……。


「コール:ハニエル」

 

 ダイモンのスキルが発動し、天から降ってきた何者かの錫杖が大剣を止めた。雲が裂け、神々しい何かが顔を現す。


「大天使ハニエルです。ハニエル!リーンガーデン!」


 何と俺の彼女は天使が喚べるらしい。ハニエルが何か祈ると地に刺さった錫杖から樹木が生え始めた。それは瞬く間に広がり、川島大佐を呑み込もうとする。


「堪えろ!これだけのスキルだ、代償は大きいはず!」

「御意!サンドフォートレス!」


 川島大佐が呑まれる寸前に砂岩の囲いで自らを覆った。蔓が巻き付いていくが、砂岩の防御を破れない。


「らっきょさん!時間がありません!今のうちに白葉さんを!」

「分かってる!」


 今は川島大佐が動けない。ならば白葉さんを落とす好機。俺は白葉さんに迫った。


「ならば、我も札を切ろう。使うこともないと思うたのだがな。妖怪変化:狐憑き」


 白葉さんが真っ赤なオーラを纏った。その口は裂け、耳が伸び、尻尾が三本生える。狐の妖怪だ。まさかそんな奥の手があるとは。


「なんだと……」

「狐火百八」


 俺は火の玉に囲まれた。一個一個は大した威力は無いがとんでもない数だ。これはもう……。


「我の狐火に焼かれ、消し炭に成るがいい」


 これはもう()()を使うしかない。


「真・覚醒」


 俺を真っ白なオーラが覆う。龍気以上の万能感と知覚が全てを支配下に置けと囁く。

 狐火を一つ一つ槍と源槍が潰していく。その余りの速さに化け狐も目が追いついていない。そんな隙を晒していいのか?俺が手を掲げると源槍が集まって来る。やがて一つになり、眩いばかりに輝きを放った。冷静に白葉さんと川島大佐を同じ軸線上に迎える。ダイモン当たったらすまん。


「まさか、お前ゆう……」


「それは秘密だ。十臥灼切(とがのやり)


 人差し指を唇に当てながら、俺はそれを放った。

 閃光が視界全てを覆い、大音響で何かが削り取られる音が遠のいて行く。


 後には何も残っていなかった。天使も、砂岩も、狐火も全てが白槍の彼方に消えた。やはりダイモンを巻き込んだか……。これは現実では使えないぞ……。


『デュオの部、優勝はダイモン、らっきょチーム!』



 こうして、俺達モーニンググローリーの名は一躍トップクランの一角に名を連ねる事になった。二部門を制覇したんだ。十分な実績だと思う。


 フレンチトースト?勿論作ったさ。甘々なやつをな。それは俺と紋芽の二人の秘密だ。


 

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