38.ファーニーよ、天に舞え!
中央分析室を電撃訪問した後、俺達は家に取って返した。恋人になって始めてのデートとするには、物騒だし、何よりテルの出番がもう来ている。
帰宅先は紋芽の部屋だ。昨日話し合って、こちらに二人で住む事になった。俺が借りていた部屋は協会に返却。家具をインベントリに収納し、夜のうちに引っ越しを済ませた。こういった時は非常に便利だ。インベントリ様々である。
「匡太郎始まってる!」
「すぐ行く!」
部屋はまだ別々だ。でもログインする時はリビングで、と決めた。
「行ってらっしゃいませ」
ビーの見送りを受けて、俺達はログインする。会場でタリを探すと、ぽぷらと一緒にスクリーンで観てるみたいだ。
「あ、キタキタ」
「遅いぞ二人とも!」
タリが珍しく怒っている。
「すまん。もう終わったか?」
「まだ、決勝が残ってる。テルと例の重騎士だ」
「あ、てっちゃん、決勝に進んだんですね!」
「ちゃんと秘策も用意した。二人がいきなりログアウトするから私達で必死に考えたんだぞ」
ツンツンしたタリは何か新鮮だな。
「それについては本当にすまん」
「それにしても何があったんだ?」
「ナニがあったって、タリっち。男と女が遅れて来たら、ナニがあったか聞くのはヤボヤボ」
「う……」
ぽぷらは冗談のつもりでそう言ったのだろうが、ダイモンが反応して、赤くなる。それを見たぽぷらが俺に詰め寄って来た。
「え?マジ?ラッキー漢に成ったの?」
「お前のそれ、セクハラだからな?」
しかし、こいつらに隠している意味も無いな……。ダイモンにアイコンタクトを送ると恥ずかしそうに頷いてくれた。ウキウキとしたぽぷらと何も分かって無さそうなタリに真実を告げる。
「あー、紋芽と付き合う事になった」
「きゃー!」
「つ、付き合う?二人がか?つまり恋人か?」
「それ以外の何があるんだよ」
タリの困惑顔がちょっと面白い。ぽぷらはダイモンの手を取って、ひたすら騒いでいる。
「それは……おめでとう」
「ああ、ありがとな」
「ねーねー、どっちからコクッた?」
「それはまた今度な、ほら、テルの決勝始まるぞ」
スクリーンの中では、既にテルがファーニーを喚び出したところだった。どうやら決勝トーナメントは音声を拾ってくれるらしい。テルと重騎士の話が聞こえてくる。
『決勝まで来たね、テル君』
何と重騎士の声は女の子だ。しかも、アニメ声である。イメージとの乖離が激しい。
『お前にリベンジするって、ファーニーと誓ったからな。今日は昨日のようにはいかないぜ』
『スウェー!』
『ボクとバーブルも一ミリたりとも負ける気は無いけどね』
『ヒヒーン!』
何とボクっ娘だ。開始の鐘が鳴り、戦闘が始まった。
重騎士はバーブルを駆り突撃してくる。短期決戦で仕留める気だな。
『ブリンク!』
何と重騎士と馬が跳ねた。突然の軌道変更。上空から槍を構えて落下して来る。これは避けるのは至難の技だ。だが、テルの口元がニヤついたのを俺は見逃さなかった。
『真下にブレス!』
ファーニーは主人の命令に従い、地面に向かってブレスを吐く。その勢いを利用してファーニーが跳ねた。同じ高さになり、視線が交錯する。テルが何かを構えた。あれは……銃か?引き金を引くと色の付いたボールが出て来た。
「テルの持ってるのはなんだ?」
「ボール系の魔法を撃ち出す銃だ。子供の玩具として人気らしい」
だが、テルはそれを真下にそれを撃ち出している。どうするつもりだ?
『さあ、ファーニー魅せてやろうぜ!俺達の魂のフットボールを!!』
『スウゥェエー!』
ファーニーがボールを蹴った。それは先に着地し、槍を構え直した重騎士に襲い掛かる。所詮ボール魔法と、槍で払った瞬間、ボールが盛大に爆発した。
「なんで爆発した?」
「ファーニーのスキルらしい。今迄使い所が分からかったらしいが……ファーニーは魔法を蹴って、強化出来る」
「ファーニーマジ、ストライカー」
テルとファーニーの猛攻が始まった。撃ち出す魔法は三種類、爆発の赤と、氷の青。そして蹴り出すと土の刃に変形する黄色。それが時に、空から、カーブを描きながら、地面を這うように飛んで来る。
『おらおらおら』
『スウェー!』
『なんのー!これしき!奮迅突撃!』
重騎士がスキルを発動すると、人馬どちらも赤いオーラに覆われる。すると、ボールの被弾を気にせず突撃を敢行して来た。
「ダメージ軽減スキルですかね。ゴリ押しで仕留める気でしょう」
「テル!頑張れ!」
それを見たテルはファーニーから飛び降りた。空中に投げ出されるが、しっかりと銃を握っている。
『ファンタジスタはいつだって輝きを放つんだ!ファーニー魅せてくれ!』
空中にボールが撃ち出された、それはまるでセンタリング。サイドからゴール前に弓なりの玉が来る。ファーニーは地面を脚と最後に尻尾で蹴り、態勢を反転させながら羽を広げる。飛べないはずの彼の羽が、確かに羽ばたく。
『オーバード・ライブ!』
昔、男の子なら、誰もが夢見たシュート。オーバーヘッドキックだ。蹴り出された玉は目にも留まらぬ速さで飛び、重騎士の腹部に直撃した。瞬間、大爆発が起こる。
『駄目押しだ!バードゴラッソ!』
追撃の土の刃が馬体にも直撃する。それが決着だった。
『勝者、テル!』
アナウンスが入り、テルの勝利が確定する。
床に大の字になり両手を上げるテル。ファーニーが近付いて来て、テルの首元を咥えて持ち上げる。勝者は立っていろ、ファーニーはそう言いたいようだ。
『負けたよ』
重騎士の彼女がその場で復帰する。どうやらこのまま表彰されるみたいだ。
『あんたも強かったぜ』
『瑠璃だ。それと愛馬のバーブル』
彼女が頭の兜を脱いだ。中から現れたのは金髪のベリーショートが印象的な女の子だ。バーブルが瑠璃に鼻先を擦り付ける。
『テルだ。こいつはファーニー』
二人は握手を交わす。ファーニーは尻尾をフリフリしていた。可愛い。
『また戦いたいな』
『だってよファーニー』
『スウェ』
ファーニーは受けて立つといった様子でバーブルを挑発している。
『両者とも素晴らしい戦いでした!皆様、両名に拍手をお願いいたします』
スクリーン前で拍手が起きた。会場にも届いているといいな。
『テイマー&サモナーの部。優勝はモーニンググローリー所属。テル選手です!』
さらに大きな拍手が起こる。チラッと横を見たら、ダイモンが大きな手を必死に打ち付けて拍手を続けていた。
「てっちゃん頑張った!」
テルが帰って来るとダイモンが思わず抱きつこうとしてセキリティに弾かれた。
「姉貴落ち着け」
テルがなだめすかして、落ち着かせる。そして、タリと視線を合わせる。
「オレはやったぞ。次はタリの番だ」
「ああ、そのバトン、確かに受け取った」
二人がハイタッチする。ハイタッチは可能なんだな。審査基準がよく分からん。
後ろの方で黄色い声が上がる。お姉さん達は今日も観戦してくれているようだ。
『ソロの部出場者は大会会場にワープをお願いします』
「それじゃあ、行ってくる」
「ああ」
「がんばータリっち」
「タリさんなら負けません!」
「胡桃勝てよ」
最後のテルの言葉にタリが振り返り、ぎこちないが笑顔を見せて消えていった。
「あの、これから大事なところなんですけど、やらなきゃいけない事があって、少し離席します」
タリが消えた後、ダイモンがそう言って離席していった。何だろう、リアルの用事が入ったか?決勝までには戻ると言っていたが……。
決勝トーナメントは勝ち組四人と負け組の二人が残っており、それぞれ勝ち組で負けた人が負け組の二人と対戦、それに勝った者が、準決勝の敗者と戦い、勝った者が決勝戦に進む事が出来る。俺はこのトーナメントシステムは割と好きだ。一度切りのトーナメントの楽しさとは別に敗者からの復活勝利も有り得る。甲子園のような最後まで勝ち切るヒリヒリ感も嫌いじゃないが。
「初戦の相手は……」
タリの前に立つのはクレイモアを構えた剣士だ。黄色の派手な髪に、ボロボロの外套、中には鉄の胸当てと足甲。ザ・剣士といった出で立ちだ。
「あちゃー当たったかー」
「知ってるのかぽぷら」
「ドマドマド」
「は?」
「だ、か、らー。あいつの名前。トラットリアのサブマスター。鈴蘭と並んでこのゲーム近接最強格」
「ドマドマド?」
「そう、ドマドマド」
変な名前だな。
『鈴蘭を一蹴したらしいな』
『剣の勝負なら負けないさ』
『大した自信だ。だが、俺の大剣を受けきれるかな?』
ドマドマドが走り出した。速いな。レベルが相当高いのだろう。ステータスに裏打ちされたスピードで近付くと大剣を振り下ろす。タリは太刀で受けず、転がる事で回避した。
『バンプブースト』
ドマドマドはさらに筋力を上げた。自力バフか、完結型のアタッカーかな。
『ヘビースイング!』
『天将回現:朱雀』
先程よりも速い横薙ぎがタリを襲う。タリは空中に逃げる。それは敵も予想出来た事だ。
『スイングダブル!』
『朱焔憑依』
ドマドマドの振り切った大剣が超高速で一回転して戻って来た。二連撃か!しかし、タリも予想していたのだろう。朱色の翼を背中に展開すると、剣の軌道から一歩逃れる。
『おっと、飛ぶのか。それは予想出来なかった』
『今度はこちらから行くぞ』
急降下し、ドマドマドへと斬りかかる。すれ違いざまの一撃は、ドマドマドが迎撃に剣を縦に置く、その隙間をタリが突いた。翼を利用したのだ、衝突寸前に翼を広げ、急停止。着地と共に肘を引いて横薙ぎから突きに軌道を変えた。
『ぐっ』
ドマドマドが距離を取ろうとするが、タリは離れない。天将刀を操り、クレイモアを振ろうとする出足を抑える。そして浅いが、確実な一撃。それがひたすら繰り返される。
『こんにゃろ!離れろ!』
『クレイモアのスイートスポットは剣先から三十cmそこで受けなければ怖くない』
『クエイクタント!』
ドマドマドは地面に拳を叩き付けた。軽い地震を起こして挑発する技か。確かに近接戦闘では有用な技かもしれない。タリを除いては、だが。
『無駄だ』
タリは宙に浮いていた。翼の効果が丁度切れ、着地する。
『天将回現:騰蛇 紫焔斬刀』
『しゃらくせえ!フォームチェンジ!』
ドマドマドが大剣を収納し、短剣の二刀流になる。ほう、戦闘スタイルを変えるタイプか。短剣を振るうドマドマドは高速戦闘スタイルが仕上がっている。もしかしたら、武器によって、ステータスが変わるジョブなのかもな。明らかに先程の筋力一辺倒の戦いとは別種の攻め方だ。だが、タリは動じない。高速で振るわれる二本の短剣を紫焔を纏った刀で捌き切る。
『なんだ、その隙の無さ。お前何者だ!』
『何者だと言われてもな』
タリの一撃がドマドマドに入る。ドマドマドはもう限界だろう。表情に余裕が無い。
『私はモーニンググローリーの火力担当だよ』
『くっ!フォームチェンジ!』
な、杖を取り出した。あいつ魔法も使えるのか!
『フロスト……』
『やらせると思うか?』
詠唱途中でドマドマドは喉を裂かれる。容赦無いな。
『勝者サルバドール=タリ!』
会場から拍手が起こった。それと共に、そのあまりの強さに、タリの名前と、モーニンググローリーの名が噂される。
「うちの連中は強いな」
「ダイモン帰ってこーい。めっちゃつよいぞ、うちの火力担当」
まだ、ダイモンは帰って来ない。本当に何をしているのか。
こうして、タリは準決勝に駒を進めた。




