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37.陰謀論者




「予想よりも早く当たったな」

「用事はさっさと済ますに限る」


 爺さんと筋肉女は構える事も無く近付いて来た。既に開始の鐘は鳴っている。


「なんでしょうか?」

「さあな。知り合いと勘違いしてるのかもな」


 俺達も構えを解いて、様子を伺う。


「お主らが倉松匡太郎と大代紋芽で間違い無いか?」

「なっ」

「お前ら、それを……」

「らっきょさん!」


 どうして俺達の現実(リアル)を知っているのか、問いただそうとしたが、ダイモンが制止した。危ない。それを聞いたら自分だと認めているようなものだ。


「お二人はどちら様ですか?」

「我々はコンスピラシーだ」

「コンスピラシー。暗躍する陰謀論者、ですか」


 ダイモンの表情が険しくなる。


「知ってるのか?」

「いい噂は聞きません。非合法の探索者集団です」

「非合法……」


 海外だと非合法の探索者は多いと聞く。実際、スキルメダルは貴重であり、高値で売買される。日本ではかなり厳しく取り締まられている事もあり、数は非常に少ない。


「そんな連中が俺達に何の用だ」

「忠告に来たのさ」


 女性が俺を指差す。


「特にあんたにね」

「俺に?」


 紋芽では無く、この俺に忠告だと?


「端的に話すならば、中央分析室に気を付けろ、というところかのう」

「中央分析室だと?」


 中央分析室は探索者協会の中枢にある組織だ。俺が関係があるとするならば、例の作戦の際、渡会三位を派遣してきた事ぐらいか?


「のう、お主。奴らの判断を不思議に思わんかったか?お主の班に優先的に戦力を回して来たであろう」


 言われてみれば、おかしい事が多々あった。結果的に主の討伐に漕ぎ着けたから良かったものの、渡会三位や保奈美の山城班への配属は違和感を感じるものだった。


「心当たりがあるようだ」

「気を付けなされ、中央はお主を利用しようとしておるのだよ」 


 協会が俺を利用?ダイモンを見るが、彼女も初耳のようだ。


「お主の力はこの先、この国、引いては世界にとって重要となる。これは間違いの無い事実だ。それを我々が把握しており、また、協会も然りという事だ」

「そういったスキルを持つ能力者がいるんですね?」


 ダイモンの質問に爺さんは首を竦めた。


「兎に角、権力の傀儡にならんようにな」

「協会の言いなりになってたら、体がいくつあっても足りないからな」

「待ってくれ!俺が世界にとって重要てのは……」


 爺さんと女は棄権をした。Winの表示がされ、二人は消えていく。これを言う事だけが、目的だったようだ。


「らっきょさん。私達も棄権しましょう」

「そうだな。ちょっと頭も整理したいし……」


 俺達も次戦で棄権する。負けてもまた明日チャンスがある。それよりも今は身元が判明した事に対する対策を考えねば。

 棄権して戻って来た俺達に二人が何事かと駆け寄って来たが、今はごめんと言ってログアウトする。




 紋芽から端末に連絡があった。部屋で待っているらしい。俺はすぐに準備して最上階に上がる。部屋に入ると、スウェット姿の紋芽がいた。彼女の顔は不安と俺に会えた嬉しさと、昨日の事に対する恥ずかしさで何とも言えない表情になっている。


「紋芽、嫌だったら言ってくれ」


 俺は彼女を抱き締めた。紋芽は驚いたように最初体が固まっていたが、やがて体を預けてくれる。俺の動揺と、彼女の不安がどこかで解けて消えていくのを感じた。暫くそうしていた。キスをする訳でも無く、彼女の顔を見つめる訳でも無い。しかし、互いの体温を感じているだけで満たされる。


「不思議。何か安心した」

「俺もだ。さっきはあんなに焦ってたのに」


 体を離すと、ちょっと気恥ずかしくなって距離を取る。


「あの人達が言ってた事、どう思った?」

「危うい、と感じたかな」

「危うい?」

「将来的に、俺がもし死を互換するようになったら、それを知り得る連中があまりに多すぎる」

「まさか、ゲームの中で殺されるって事?」

「PKが無いとは言え、いくらでも方法はあるだろう」


 紋芽が腕に縋り付いて来た。


「やだ、そんなの」


 俺は苦笑して、紋芽の頭を撫でた。


「だから、ダイモン先生には期待してるんだぜ?蘇生魔法早く覚えてくれよ」

「他力本願」

「まぁ、まだ先の事だ。それよりも中央の話だ」

「分析室に予知能力者がいるって噂は前からあった」

「そうなのか、じゃあ奴らが言ってた陰謀論もあながち間違いじゃないのかもな」


 紋芽に断ってコップを借りた。水道水を入れて飲み干す。喉が渇いている事にも気付いて無かった。


「だとしても、中央の目的は何?将来の優秀な探索者を守っただけじゃないの?」

「憶測しか立たないな。例えば、将来的に分岐点が存在していて、俺を味方につけていなければ問題が発生するとか」

「本当に陰謀論だね」


 その言葉に思わず笑ってしまう。確かにこの話をしてる段階で、彼らの術中にはまっているのかもしれないな。


「やめよう。この先は憶測を出ない」

「でも匡太郎、二つぐらい手は打っておかないと駄目かも」

「うん?」

「まずこれ」


 そう言って紋芽が五十cm程の人形を持って来た。何故かメイド服を着ている。


「ビー。お願いがある。この人形にプログラムを写せる?」

[可能です。ですが、スキルとしてドールコントロールを常にオンラインにするには、私のリソースを半分割き続けなければいけません]

「構わない。やって」

[コマンド承認。ドールコントロールをスロットにセット]

「スキルオン」

[スキルオン]


 人形に魂が入った。滑らかに立ち上がると優雅に一礼する。


「お二方とも、何なりとご命令下さい」

「私と彼がゲームにログインしている間、守って欲しい」

「容易い事で御座います」

「紋芽、そうは言うが、この部屋と俺の部屋、同時には……」

「ゲームする時は一緒にいればいいでしょ?」


 彼女は何でも無い事のように言う。こういうところは本当に肝が座ってる。


「分かった。俺も腹を括ろう。紋芽、一緒に暮らそう」

「え?なん、え?」

「なんでそこで挙動不審になるんだよ。だから……」


 俺は紋芽の手を取って、彼女の目を見てその言葉を紡ぐ。


「大代紋芽さん。俺と付き合って下さい」


 暫く彼女がフリーズした。沈黙のまま十秒が経ち、二十秒が経ち、え、これ断られるパターンある?


「あの、私。家事とか苦手だし、ブラコンだし」


 俺はそっと彼女の口を手で塞ぐ。今聞きたいのはその言葉じゃない。


「はい、かいいえ、で答えて欲しい」


 紋芽は頷くと、その言葉を紡いだ。


「はい。よろしくお願いします」


 俺は彼女の口を塞いだ。勿論、手じゃない。口で塞いだ。

 俺のファーストキスは彼女に捧げた。紋芽もそうだといいなと、この時の俺は女々しい事を考えていた。


 パチパチパチパチ。


 足元から拍手の音。ハッとして下を向くとビー人形が拍手をしていた。


「おめでとう御座いますマスター!お二方が結ばれて私は感動しております。何日もに及ぶキスの練習が実を結びましたね!」


 この後このアホナビがどうなったかはご想像にお任せしよう。しかし、キスの練習か。俺の為にそんな努力をしてくれていたのか。真っ赤な顔でビー人形を追い回す紋芽がとても愛おしく感じられた。



 翌日、俺達は二人で八王子の本部に来た。中央分析室を訪ねる為だ。え?昨日あの後、何があったかって?何も無かったよちくしょう。ビー人形のせいで二人とも白けてしまったのだ。大丈夫。一緒に住むんだ、チャンスはいくらでもあるさ。


 中央分析室は紋芽の権限を持ってしても、入室を断られた。仕方が無いので、室長補佐に繋ぎをお願いする。個室で一時間程待たされたが、会ってくれる事になった。


「どうも、中央分析室室長補佐の東條です」


 東條と名乗った男は如何にもインテリと言った見た目の眼鏡を掛けた男性だった。


「recapture隊長の大代です」

「同じく倉松です」


 名前を名乗った瞬間、東條さんの目が細められた。間違い無い、俺達の事を把握してる。


「これはこれは、最強の探索者と名高い貴女がこのような場所にどうされました?」

「ふふ、ふふふ」


 突然、紋芽が笑い出した。どうしたんだ?


「何か可笑しかったですか?」

「いえ、国を裏から操っている貴方達にしては、質素なお部屋だと思いましてね」

「何の事でしょう」


 東條さんは眉一つ動かさず、聞き返す。


「いえ、少し耳にしまして。こちらに未来を知る事が出来る方がいらっしゃるとか」

「はっはっはっ。それは面白いジョークですね」


 笑ってはいるが、目は笑っていない。これはどうやら本当に陰謀論かもしれない。


「ジョーク。そうですね。あくまでジョークとしましょう。そう仮定の話です」


 前置きすると、紋芽が立ち上がって、応接室のドアの前に立つ。


「もしも、貴方方がそのような力を持っていて、私達の運命を捻じ曲げようとする事があれば……」


 紋芽がドアノブを握ると、ドアノブが融解した。熱による蒸発では無い。何かしらのスキルによる融解だ。やがて、ドアノブが消失しきると、ドア自体も溶け始める。不思議な事にドア以外は全くの無傷だ。


「このように、突然溶けてしまうかもしれません」


「御冗談を。我々にそのような意思は一欠片も御座いませんよ」


 目の前でドアが溶けて無くなったにも関わらず、東條さんは笑顔だった。逆に不気味だな。


「そうですか。今のところはその言葉を信じましょう。倉松さん、帰りますよ」

「はいはい」


 立ち上がって、溶けたドアをくぐる。


「ドア代はうちにつけといて下さい」


 紋芽は一度も振り返らず、その場を後にした。

 その姿を見ながら、紋芽が味方で本当に良かったと改めて思った。


「やりすぎじゃないのか?」

「大丈夫。やりすぎたらあの部屋今頃無いから」


 そうですか。



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