36.馬上の重騎士
テルは順調に勝ち進んだ。二戦目はペンギンの魔物が相手。氷魔法を主体とする攻撃を風のブレスで押し返して勝利。これも相性勝ちだったな。
続いて第三戦は骨魚。骨魚てなんじゃいと思ったが、つまりは空中を泳ぐ骨の魚だ。骨格は鮫のような大きめの奴だ。こいつの攻撃が面白かった。骨を飛ばしてくるのだ。飛ばす部位によって威力と速さに違いがあり、破壊するとダメージが入るという不思議仕様。リスクが大きい分、非常に厄介な敵だったな。ここで光ったのはテルの記憶力だ。各部位の速さを記憶し、的確に攻撃をしていた。
そして第四戦。これに勝てば明日の上位トーナメントに出る事が出来る。テルの対面には馬に騎乗した重騎士が立ち塞がった。フルプレートアーマーだ。大佐のように顔を出す事すらしない完全装備である。
「あれはテイマーなのか?」
「とてもそうは思えないですが……」
「馬の魔獣?」
お互い騎乗した状態から試合が始まった。先に仕掛けたのはテルだ。馬に向かってボウガンを射る。重騎士が動いた。騎乗した態勢から手に持った槍を振るい矢をはたき落とす。
「素晴らしい槍捌きだ」
「騎乗特化のスキル構成ですかね」
このゲームの槍使いは基本、器用、敏捷を伸ばしている人が多い。しかし彼?は筋力に振っているように見えるな。
「あ、公式の注釈に書いてありました。どうやら騎士職で、馬ないしは騎竜を取得した者。その場合、テイマー、サモナー部門に参加可能」
「運営も思い切った事をするな」
「だが、馬を強化するスキルが無いんじゃ、そこまで脅威じゃなさそうだ」
「どうやら、あの重騎士は違うようですが」
馬が駆け出した、速いな、成る程、敏捷にステを振らなくても愛馬がカバーしてくれる訳か。
テルは襲い来る重騎士の一撃を何とか躱す。ファーニーの反応が速いんだな。武器の軌道を呼んで、ステップを踏んでいる。重騎士の乱撃は暫く続いた。流石のファーニーも二発程食らってしまった。あの一撃は痛い。堪らずテルが距離を取る、させじと重騎士が追いすがった。ここでファーニーの新武装が火を吹いた、尻尾だ。尻尾の先から風の刃が生まれ、後方の重騎士を襲う。慌てた馬がパニックになり、脚が止まった。その隙に反転したテルがボウガンの連射スキルを使用する。矢と風の刃がが馬に直撃する、そう思った瞬間、重騎士が飛び降り、馬の盾となった。
「凄いなあの鎧。矢が通って無い」
「魔法も軽減するのか、一体何で出来てるんだ?」
こういう時、現実なら浸透勁が有効打なんだがな。生憎、今のテルには使えない。
重騎士は耐え切り、再び騎乗し吶喊を掛けてきた。槍を上段から振り下ろす。ファーニーが咄嗟に脚で迎撃しようとするが、その脚ごと斬り裂かれた。流石に筋力特化は違うな。そのまま、脚を負傷したファーニーが倒され、テルは負けを認めた。
「負けてしまったか」
「これは敵が強かったな。まぁまだ明日もある」
「そうですね。激励してあげましょう」
テルがしょんぼりして帰って来た。話を聞くに、どうやら負けた事よりも、ファーニーが死亡判定を受けた事に動揺していたようだ。死亡判定の魔物は二十分間蘇生出来ない。大会でも同じ仕様のようだ。これはあくまでテイムした魔物で戦う事が重要だとの運営のメッセージだろう。そう考えると、騎士の人はちょっと不利か。
「これってオレ終わり?」
ああ、分かって無かったのか。ダブルエリミネーション方式は一度は負ける事が出来る。負けた側のトーナメント表を勝ち進んだ者と勝者側のトーナメントを勝ち抜いた者が決勝で戦う。
「じゃあまだチャンスある?」
「あるぞ。あの騎士の対策考えとけよ?」
「分かった。次は負けない」
「では次は私の出番かな」
ソロの大会がエントリー待ちになっている。テルとタリはまたあの指サインをしていた、仲の良い事で。お姉さん達もまた悲鳴を上げていた。
ソロ部門は花形だ。周りの観戦しているプレイヤーも増えている。絶対数も多いようで、八回戦を勝たないと明日の勝者側トーナメントに出れない。
タリの初戦は初心者装備の魔法使いだった。まだ始め立てなのだろう。火球を二発投げたが、斬り裂かれ、そのまま沈められた。二戦目の相手は見たことのある双剣使い。初回イベントの時に知り合ったピピルだ。あれから腕を磨いたのだろう。素晴らしい連撃でタリに迫る。しかし、その全てを捌ききるタリ。流石本職の剣士だな。ピピルはそこで引くべきだった。連撃の後に無理矢理斬り上げスキルを発動、そこを狙われた。分かりやすい斬り上げを半身で避けられ、腹部を裂かれる。一の太刀だ。スキル無しに再現するのは長年の鍛錬が成せる技だな。そこからはスキルも使わずにピピルを一蹴だ。タリはタイマンに本当に強いな。
第三戦と第四戦はどちらも魔法使いだった。どちらも属性特化の魔法使いだったが、三次職で、魔法が斬れるタリの敵じゃなかった。そして強者が出始める第五戦。タリの前に刀を持った侍が現れる。藍の袴に草鞋を履き、緋色の長髪を後ろで纏めた女性アバターの侍だ。
「刀と太刀の戦いだ!」
「これは見ものだぞ」
「あれ鈴蘭様じゃない?」
「ホントだ。生で始めて見た!」
お姉さん方が騒いでいる。有名人か?
「失礼ですが、有名なプレイヤーなんですか?」
「あ、はい。勝鬨橋ってクランの人です」
ダイモンが質問してくれた。勝鬨橋の先行組か、それは強いな。
「一度刀を振れば、右に出る者はいない。とか言われてます。男女共にに人気があって、私達もファンなんです!」
「それは中々の謳い文句だな」
「大丈夫。タリは負けない」
テルは確信を持っているようだ。その姿を見て、俺も黙って観戦する事にした。
鈴蘭さんは刀を抜き半身で構える。その仕草は余裕があった。タリも同じように、太刀を抜き、だが、構えずに片手に握るだけ。すると、鈴蘭さんの様子が変わった。様々に構えを変え、タリの動きを見ようとしたのだろう。しかし、タリは全く動かなかった。呼吸さえ止めているかのように、微動だにしない。焦れた鈴蘭さんが上段から斬りかかる。それをタリはいとも容易く弾き、次を待つ。鈴蘭さんは明らかに困惑していた。態勢の崩れたところを狙われなかったからだろう。もしかしたら、隙を突いた敵をカウンターするようなスキルがあるのかもしれない。
「術中にはまったな」
「こうなると、心理的有利を得たタリさんが優勢ですね」
「あの、どうゆう事ですか?」
いつの間にかお姉さん達が近くにいて、話に混ざって来た。いや、まぁ別に話すぐらい問題無いが……。
「初手と二手目を回避された鈴蘭さんは自分の手の内を全部読まれていると思い込んでしまいました。実際はタリさんが把握出来たのは一部であるにも関わらず、攻め手が無いように思い込まされている訳です」
本当のところならば、ステータスのゴリ押しでタリを削ればまだ五分五分といったところだろう。しかし、選択肢の狭まった持ち札をどこで切るべきなのか、彼女は必死に考えているはずだ。そうなると……
「やはり、削られ始めたな」
タリの猛攻が始まった。騰蛇を纏った紫焔斬刀を丁寧に鈴蘭さんに打ち込んでいく。使われる技は全て鞍望の剣術。初手であの変幻自在の剣を往なすのは達人でさえ難しいだろう。刀で受けれているように見えて、的確にダメージを入れられている。かと言って、攻撃の間にスキルを入れ込めばそこは罠。返り討ちにあい、益々下手な打ち込みが出来なくなる。
「あの、お仲間の陰陽師の人、強すぎませんか?」
「当たり前だ。うちの最高火力だからな」
テルが誇らしげにそう言った。
勝負はついた。タリの圧勝だ。
そこからは圧巻だった。弓師が現れれば、矢を全て切り払い。魔法剣士には正面切って、押し切り。大槌を持った巨漢にも一歩も引かず、スキルを駆使して削り切る。隙が無い。あれは俺でも勝てるか怪しいな。
無事トーナメントを勝ち抜いたタリが帰って来た。
「やったぞ」
「おう」
タリとテルは拳を合わせる。背後ではお姉さん達の勢いが戻ったようだ。
「それじゃ次は俺らだな」
「頑張りましょう」
最後はデュオ。タッグバトルだ。俺とダイモンはエントリー後、会場にワープする。
おー如何にもコロシアムって舞台だ。敵側はまだ来てない。俺は槍を取り出す。勿論、勇者の槍だ。
「それ、新しい槍ですか?」
「あーまぁな」
恥ずかしくて勇者の槍とか言えん。
対面が現れた。
「げ、鬼じゃね?」
「うわ」
ヴァリアントの連中だ。片方はフレドと呼ばれていたシーフ。もう一人は例の赤毛の剣士だ。間もなく試合開始の鐘が鳴らされる。
俺は内心笑顔になった。隣を見ると、ダイモンも笑顔で本を取り出すところだった。
「雷装」
「コール:スピリッツ」
最初から容赦はしない。
「ひぃ!」
「山ちゃん!タント使ってスピリッツを!?」
そうはさせない。雷装を纏いフレドの口を物理的に塞ぎにかかる。ダイモンのスピリッツは赤毛の剣士に襲い掛かった。交霊術かな。これは手数が多くて有用なスキルだな。スピリッツに襲われた赤毛は剣を矢鱈と振り回したがスピリッツには効果が無い。スピリッツが腕に取り憑いた。その瞬間、腕に重りが付いたかのように剣を取り落とす。重量デバフか。肩や脚に取り憑きその都度赤毛の動きが遅くなる。えげつない効果だな。
「く、そ……」
既にフレドは貫いた。動けなくなった赤毛もハーフスイングで葬る。勝敗はあっと言う間だったな。しかし、スカッとした。試合を見ていた仲間に向けて親指を上げる。
「まず一本ですね」
「さあ次だ」
第二戦目。現れたのはチャクラムを持つ老人と、筋肉質の女性。
「残念じゃな、おにゃのこじゃありゃせんな」
「黙れ爺」
キャラの濃い二人組だった。




