35.好きな人が隣に寝ていた時の対処法
「それで?紋芽はどうやってうちに入り込んだんだ?」
[詳しくはお話出来ませんが、マスターのスキルを使用しました]
「まぁ、そうだろうな……」
変に落ち着いた俺は、ビーとのコミュニケーションを試みていた。好きな女が横で寝ている状況だが、ビーという第三者がいることで冷静になれている。
[さて、倉松様。現在、マスターは泥酔しております。私としては避けていただきたいところではありますが、マスターを我が物にするチャンスでもあります。寝込みを襲いますか?]
「誰が襲うかぁ!」
「う、うーん」
思わず突っ込みを入れてしまったが、仕方が無いだろう。こいつはあれだ、人をからかって楽しむアホナビだ。紋芽が声に反応しちまったじゃねぇか。良かった。起きてないみたいだ。うっ、酒臭い。
[残念ですね。マスターとしては襲って頂けたら既成事実ゲット出来ましたのに]
「お前はどっちの味方なんだよ……」
[あ、そうでした、お伝えしなければいけない事が御座いました]
「なんだ?」
そこで、ビーは小声で囁くように話し出す。
[私、睦言を交わす際には機能をオフにする事も可能で御座います]
「お前に実体があったら殴ってたわ」
そんな会話も終わり、アホナビもスリープモードに入った。俺はどうするべきか考えた。
一、紋芽を起こして帰らせるパターン。これは紋芽がどれだけ酔っているかによる。思ったよりも泥酔している場合、もっと面倒な事になる気がする。
二、紋芽にベッドを譲り、俺がリビングで寝るパターン。これが一番紳士的だろう。しかしだ、もし紋芽がそれほど酔っていなくて、酔った振りをして俺のベッドに入り込んでいた場合。目を覚まして、男が別の部屋で寝ていたら、どう思うだろうか。かなり傷ついてしまうのではないだろうか。むむむ、選択が難しい。
三、紋芽の寝込みを襲う。おいアホナビ。俺の思考に介入したな?それは犯罪者だろうが。
四、このまま朝を迎える。
「寝るか」
夢を見ていた。夢の中で俺は誰かを説得しようとしていた。歳上の男性だ。誰かに似ている。誰だったか。男性が傍らの女性にキスをする。なんだよ見せつけやがって。男性と女性は別れを紡ぎ、そうして彼は……。
「え、え?きゃ!」
女性の声で目が覚めた。
朝だ。窓から日光が差している。ベッドから起き上がると、ベッド脇にブランケットを掻き抱いた紋芽がいた。
「ん?なんで紋芽がいる?」
これが俺の考えた最強の作戦。何も知らない振りだ。
「ご」
「ご?」
「う……」
「う?」
「ごめんなさーい!」
紋芽が俺のブランケットを掻き抱いたまま、玄関から逃走した。それ俺のブランケット……。
取り敢えず、端末から一言送っておく。
・昨日は何も無かったから安心してくれ、でも紋芽の寝顔は可愛いかった。
送信。ここで重要なのは先程の発言と矛盾するところだ。横で寝ている所を見ていたのに、朝は知らない振りをする。つまり昨日の事は無かった事にしようと提案している訳だ。
朝食を済ませ、ニュースを見る。海上の魔境探索は日米合同で行う事に決まったらしい。俺達にもお鉢が回って来るだろうか。そもそも海上でどう戦闘するんだろうな。
そこで端末が鳴った。
・酔ってご迷惑をお掛けしました。あの私、変な寝言言ってませんでした?
気にするのはそこなのか。
・大丈夫。後ブランケット返せよ。
・はい。洗ってお返しします。
・あんま気にするな。男ってのは、好きな女が隣に寝てたら嬉しいもんだから。
返信は来なかった。
昼になり、イベント開始の前に集合する事になった。
おかえりなさい、らっきょ様。
ログインすると、既にダイモン以外のメンバーは集まっていた。
「あの後、何時まで騒いだんだ?」
俺はそれとなく、ぽぷらにカマをかける。もし家凸が保奈美の作戦なら、少々説教が必要だ。
「それがね。ダイモンのやーつ、酔っぱらいすぎてタリに悪影響が出そうだったから、帰したんよ」
「途中で帰したのか」
「そう。あの娘、酔うと面倒なんよー」
やはり、酒乱なのか?あまり呑ませないようにしないといけないな。
ぽぷらは熟練度稼ぎの為、マジャルジャンの職人街に向かった。暫く待つとダイモンのフレンド欄が明るくなる。だが、一向に集合場所に現れない。
「ダイモン、皆集まってるぞ」
タリがクランチャットを送ってくれる。
「はい」
短文が返って来て、ダイモンの巨体が現れる。だが、様子がおかしい。なんかモジモジしてる。あ、こっちを見た。
「あの、えっと」
「今日のデュオよろしくな」
昨日の事は無かった事に……出来なそうだな。
「あ、あう。頑張ります」
「ぉう」
「姉貴どうしたんだ?」
テルの疑問も当然だ。こんなに挙動不審なダイモンは始めて見る。
「皆会場に行こう。イベントアイテムも売ってるらしいぞ」
「お、そんなのあるのか!行こうぜ!」
テルがさっさと会場にワープして行く。タリもすぐ後を追った。二人だけになる。
「紋芽」
ダイモンがビクッとなった。
「また今夜も来てもいいんだぜ」
「この……バカ」
その一言で少し落ち着いたみたいだ。
俺達は連れ立って会場に向かう。
第二回イベント会場は帝都コロシアム内に用意されているようだ。普段は立ち入り禁止のエリアのようだ。コロシアム外周にはイベント限定アイテムを売る出店が並ぶ。
「見てくれ、犬耳のチャームが売ってたぞ!」
俺達が会場入りするとタリが嬉しそうに犬耳を見せてきた。
「こっちは猫耳!」
テルは猫耳チャームを買ったようだ。
「色んなタイプの装飾品が売っているみたいですね」
ダイモンも早速、出店を眺めている。腕輪を一つ手に取る。うーん。補正はかなり低いな。お洒落用かな。
「どれか欲しいやつあるか?」
ダイモンに聞いてみる。すると、俺の手にある腕輪を指差した。
「これか?」
ダイモンが頷く。腕輪を購入する。手首に付けるタイプみたいだ。ダイモンが装備して眺めている。
「ありがとう……御座います」
気に入ったみたいだ。良かった。
「ねぇ、そうだよね」
「マジてぇてぇ」
「たまらんなぁ」
そんな事をしていたら、隣の出店を物色していたお姉さん達がこちらを見ながら、ヒソヒソと話をしていた。
「どうしました?」
「いえ、何でも……」
「お構いなくー」
何だ?随分楽しそうだな。
俺達四人が移動を始めると、お姉さん達が後ろからコソコソとついてくる。まぁ、害は無さそうだからいいか。
「最初はサモナー、テイマー部門からか」
「決勝トーナメントは明日らしいぜ」
「公式放送は明日だけなんだな」
一応放送は無いが、予選の各会場の様子はモニターされているらしい。
時間になり、テルの出番が来る。
「よし行ってくる!」
「待てテル、手を出せ」
タリがテルの右手を取り、合わせる。朝顔のサインだ。
「負けるなよ」
「勿論」
テルはエントリーして、その場からテレポートしていった。
「はあはあ」
「私達をキュン死させるつもり!?」
「ぐううう」
お姉さん達は何故か苦しんでいた。
「サモナーは召喚獣を集められるんだっけ」
そもそも、サモナーにゲーム内で会った事が無いので仕様がよく分かってない。
「サモナーの仕様として、専用マップにいるボスを倒すと召喚獣として召喚する事が出来るようになります」
お、ダイモンが復活した。
「それって強くないか?」
「確かに強いですが、召喚獣は強化する事が出来ません。一応、サモナーのスキルで一時的な強化は可能ですけどね」
「結局スキル次第か」
「それに、今回は出せる魔物は一体。テイマーが有利と言われていますね」
「お、テルの試合が始まるぞ」
モニター内ではテルがファーニーを喚び出すところだった。対戦相手は……で、でかい。オーガだ。右手に斧を持っている。
サモナーであろう対戦相手の男は初手からスキルを切ってきた。これは狂化のスキルか。オーガの目が真っ赤になり、赤いオーラを纏う。さらに本人も双剣を取り出し突っ込んで来る。テルは躊躇無くファーニーに騎乗し、オーガ側に回り込む。流石に速い。上手いな。オーガが狂化状態な為、オーガを下がらせる事が出来ないようだ。オーガの大振りをテルとファーニーは華麗に避けている。しかし、オーガは流石に硬いのかテルの矢を受けても、全く痛がる様子が無い。
「オーガはタンク系か」
「ボウガンじゃダメージ入らなそうだな」
すると、相手のサモナーがオーガを駆け上がって来た。成る程、ああやって足場にして戦う訳だ。だが、テルとファーニーは視界の中には既にいなかった。サモナーは咄嗟に上を見上げて、背中側から蹴り落とされた。
「股下をスライディングで抜けたか」
「トリッキーな動きをさせたら、ファーニーの前に出る魔物はいないな」
「先にサモナーを仕留めるつもりですね」
蹴り落とされたサモナーにボウガンとファーニーの踵落としが炸裂する。サモナーが気絶し、後は狂化オーガだけ。そこからは一方的だった。狂化が切れたオーガを一方的に削って終了だ。
「相性もありましたね」
「ファーニーはかなり万能かもしれないな」
「優勝狙えるぞ!テル!」
タリがご機嫌だ。それにしてもこの仲間の戦いをクランで応援するの楽しいな。後ろをチラッと見ると、お姉さん達もテルを応援してくれてたみたいだ。喜んでくれている。まぁ悪い人達じゃないか。
テルとファーニー、いいコンビだ。優勝してくれ!




