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34.源槍




 放送も終わり、俺とテルは帰る事になった。保奈美と日香里さんに夕飯の礼を言って帰宅する事にする。女子組はこのまま泊まりらしい。テルも俺の家に泊まるか聞いたが、川ちゃんが心配するから帰ると言う。まぁ、テルなら襲われたところで、か。


 家に戻り、今日の事を考えていた。ゲームのイベントも気になるが、それよりジェイソンの事だ。世界にはあのレベルの探索者がわんさかいるのだろうか。あのジェイソンの速さは上級の探索者である候補生の中でも一線を画していた。そんな彼らを持ってしても、魔境攻略は遅々として進まないのだ。そうだとしたら、このままでは到底横浜を取り戻す事など不可能だ。もっと、もっと強くなる必要がある。それこそ紋芽と肩を並べるくらいに。



 おかえりなさい、らっきょ様。


 ログインして、フレンド欄を確認する。クランメンバーは誰もいない。皆、女子会の最中だろう。だが、好都合だ。今日はヤハハリ様を訪ねるつもりだからだ。

 クリカラに飛び、例のボロ屋を訪ねると、誰もいない。クエストの時間にはまだ早いはずだが、すると家裏から気迫の声が上がった。一定の間隔で繰り返される声。裏手に回ってみる。


「ハッ!」


 ヤハハリ様が槍を振るっていた。細身だが引き締まった体がリザードマン特有の硬い鱗で覆われている。その突きは、速さは無いが明らかに()()


「鍛錬中に誰かと思ったが、らっきょか」


 構えを解くと、重さが消える。


「ヤハハリ様、ご無沙汰しております」


 俺は礼をして、手に勇者の槍を持つ。それをヤハハリ様は嬉しそうに笑顔で見つめた。


「そうか、勇者となったか」

「お陰様で」

「では、勇者の技を教えんといかんな」

「鍛錬中にすみません」

「気にするな。お主を鍛えるも、また鍛錬よ」


 そう言いながら、上着を羽織ると歩き出した。俺は後を付いて行く。

 今回はダバラの近くでは無く、山岳地帯の辺りまでやって来た。岩がゴロゴロとしている。ヤハハリ様はそのうちの一つに近付くと徐に槍を構え、逆に持ち替え、石突で突いた。勿論岩に突き刺さる事も無く、表面を少し削っただけだ。


「槍は穂先で無ければ無力だ。しかし、本当にそうか?」


 もう一度、石突で突く。また削るだけ。


「源槍」


 ヤハハリ様がスキルを使った。黄金色に輝く龍気が石突に幻の槍を形成する。そして突いた。

 石突は岩を刺し貫き、槍が半ばまで岩に埋まる。


「これが源槍。己の龍気と穂先を重ねる事で、敵を貫く、謂わば人槍一体の技、さらに」


 ヤハハリ様が突き刺さった槍から離れる。すると手前側にある穂先に龍気が集まって膨れていく。それは巨大な刃となり岩にめり込む。そのまま槍が一回転し、大岩は真っ二つになった。ヤハハリ様の横で滞空し、存在感を示す槍。


「槍と真に一体となれば、自らの思うがままに動いてくれる」

「これが、源槍」

「そうだ」


【クエスト:槍の極意そのに弐を始めますか?】


はい←

いいえ


 選択は勿論はい、だ。


「さてこの技を教えるにあたって、必要な事がある」

「はい」

「お主現槍というスキルを持っておるか?」

「あ、あります」


 つい、この前取得したスキルだ。


「ならば、そのスキルを進化待機状態まで持っていかねばならん」

「は、はぁ」


 進化待機状態てのは、条件を満たせば、進化しますよーて感じか?


「その為には槍術のスキルがレベル六以上である必要がある。もし達成出来ていないのなら……」


 スキルレベル六か、足りないな。確かまだ五だったはずだ。だが、アレがある。


「待って、待って下さい!今、上げますから!」


 この先に槍の極意があるのなら、迷いはしない。今迄獲得したスキルの素αを全て槍術に注ぎ込む。スキルレベル六と言うのは、現実世界だと不可能だと言われている境地だ。スキルレベル五に256個のスキルメダルが必要であり、さらに六にするには65536個のスキルメダルを必要とする。時価にもよるが、約六十億円の投資が必要なのだ。だからスキルは五まで。探索者界隈では常識だ。しかし、今俺はその枠からはみ出した。正しく人外の領域に脚を踏み入れたのだ。

 そして、槍術が六に上がったアナウンスが入る。


「ほう、足りたようだな。では修行を始めようか」


 ヤハハリ様の言葉に俺はホッと胸を撫で下ろした。


「よいか?先ず指より始めるのだ。この岩をその指で突くのだ」


 ヤハハリ様が見本を見せてくれた。人差し指が鋭い穂先となり、岩を刺す。


「現槍」


 俺も試して見る。あ、指が折れた。ポーションを飲んで回復する。


「違う、そうでは無い。指が穂先、腕が柄、肩が石突だ。己の右手が槍だと、強く認識するのだ」

「右手が槍、右手が槍」


 そう思うと自然と三点が直線に並ぶ。そのまま前進し、突きこむ。指が刺さった!


「そうじゃ、簡単であろう。先ずはそれが基礎。続いて脚を使うのだ」


 ヤハハリ様の修行は優しい。こういった武道の先生は感覚派の人が多く、自分に出来るのだから、他人にも出来ると思っている人が大多数だ。出来ないと分かると怒るタイプをよく見てきた。しかし、ヤハハリ様は辛抱強く教えてくれる。正しく師匠である。


「ヤハハリ様、聞きたい事があったのです」


 木の棒を持って、岩に突き込む修行をしながら、ヤハハリ様に聞いてみた。


「なんじゃ?また棒が折れたぞ」

「ありゃ、あのーグランダムラって分かりますか?」


 新しい棒を拾って来て、修行を再開する。


「その名を何処で聞いた?」

「現槍!ほっ。よし刺さった。スキルに出て来たんです」

「次はこの枯れ葉だ。そうかスキルに、な」

「か、枯れ葉!?う、頑張ってみます」

「グランダムラ様は始祖竜。我らがリザードマンの祖先であり、この世のほとんどの竜種があの御方を源流としている」

「現槍。ほっ。え、これ可能ですか?」

「出来る。ほれ刺さるじゃろ」

「マジかー」

「そのスキルの使用条件が知りたいのであろう?」

「そ、そうです!知ってるんですか!」

「それはの、会う事じゃ」

「会う?」

「これを鑑定してみよ」


 ヤハハリ様は自分の槍を差し出して来た。では遠慮無く。


「鑑定」


▶グランダムラの髭

 最強の武器の一つ。グランダムラが認めた者にしか使えない。その穂先は天の雲を裂き、大海を穿つ。


 すっげー槍だった。最強武器こんなとこにあった。


「これはな、かつて儂がグランダムラ様にお会いした際に頂いた髭より作った武器だ。あのスキルはグランダムラ様に直線会った者にだけ、使用を許される」

「おぉー、それで、どちらでお会いに?」

「教えるかバカモンが。自らの脚で探せ」


 駄目だったか。その後一時間程の修行で俺は現槍をマスターした。これなら貫けそうだ。


「やってみせい」

「はい、現槍」


 勇者の槍に現槍を掛け、槍と自らを重ねる。二つの塊がぴったりと重なった。その瞬間、岩を突く。槍は岩を突き抜け、裏へと貫通した。


【進化条件を満たしました。現槍は源槍に進化します】


▶らっきょ Lv31


メインジョブ 勇者(槍)


サブジョブ 商人


筋力   66


頑強   58


知恵   43


器用さ  66


敏捷   53


魔法抵抗 54


運    25


スキル 


互換性Ⅲ グランダムラ


空歩Lv2 真・覚醒Lv3 番天印Lv1 龍気


重心移動Lv3 天柱落Lv3 身体能力向上Lv5 健康Lv4


雷装Lv3 


頑強Lv5 健脚Lv4 体力増強Lv4 体捌きLv3


槍術Lv6 棒術Lv5 挑発Lv4 交渉術Lv1


鑑定Lv4


アビリティ


両手突き 打ち払い 投槍 上段突き 発勁


下段突き ハーフスイング 三連突き 牙突


源槍←new


 よっし、出来た!ちゃんと進化している。


「上出来じゃ、では本番だ。真・覚醒」


 ヤハハリ様から真っ白な龍気が迸る。


「源槍」


 ヤハハリ様の周囲にいくつもの槍先が現れた。一つ一つが岩を貫く必殺の槍だ。それが十を数えた時、別れていたそれが一つに集まる。眩しいまでの白い輝き。


「槍は突かずして終局を成す」


 ヤハハリ様は人差し指を岩場に向けた。


十臥灼切(とがのやり)


 凄まじい轟音と共に、何かが遠ざかって行く。辺りは砂塵に覆われ、暫く何も見えない。やがて、様子が分かってきた。目の前の岩はその体積のほとんどを真ん中に空いた穴によって無くし、その穴から見える山肌までもが、丸穴に刺し貫かれていた。そのあまりの威力に背筋に寒いものが走る。


「これが、とがのやりじゃ。覚えて損は無かろう?」


 ニヒルに笑うリザードマンを、俺は改めて畏怖を持って見つめていた。



 結果的にとがのやりは覚える事が出来た。しかし、はっきり言って使い所が無い。あまりに威力と範囲がありすぎる。むしろ前段階の源槍は非常に重宝するアビリティだった。何と言っても番天印と相性が凄くいい。本来ならば自分の周りにしか展開出来ない源槍を遠隔で攻撃手段として使えるのだ。これで明日からのイベントもばっちりだろう。


 ログアウトして明日に備える事にする。灰色の天井が俺を迎える。ん?体が何か重いな。確かリクライニングチェアに腰掛けてヘッドギアを被ったはずだったが、それにここはベッドだ。頭に大量の?が浮かぶ。体にはブランケットが被せられていて、何故か右側が膨らんでいる。ブランケットを剥ぐと、すやすやと眠る紋芽がいた。どう言う事だ?彼女は女子会をやっていたんじゃ?それに合鍵なんて渡して無い。玄関の鍵はしっかり掛けた。窓も開いてないし……。


[大変申し訳ありません。辞めるよう進言したのですが、マスターは非常に酔っていまして]


 突然、電子音声のような声がベッドルームに響く。


「君は、誰だ?」


[マスターのナビゲーションスキルで御座います。ビーと、そうお呼び下さい]


 彼女の事を知ったつもりでいたが、まだまだ謎の多い人なのだと、俺は寝顔を見つめながら思ったのだ。

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