31.俺が勇者?
「ラッキーGO」
「はいはい」
目の前のグールに槍を振るう。現在、俺はこき使われていた。何故か。
「電源落とした報いだぁー」
「仕方無いだろ……」
あの後、主電源の落ちた要塞を脱出するのは大変だった。生きていた昇りのエレベーターも使えず、非常階段をぐちぐち言われながら延々と登ったのだ。さらに、行軍の露払いをさせられている。こんな事になるとは思ってなかった。良かれと思ってやったのに。
「荒野も終わりですかね」
「草原が見えてきたな」
荒地が終わり、草木が目に見えて増えてきた。それに伴い魔物の種類が増える。
「なんだあの生き物」
「ドラゴンだ!けどちっちぇ!」
進行方向に小さな龍がいた。龍と言っても、西洋龍では無く、東洋の蛇のような体の龍だ。鉤爪の付いた四つの脚。ちょろっと伸びた髭。形は完全に龍だが。小さい。人の膝ぐらいまでしかない。それが何匹もちょろちょろしている。
▶小龍
西バシレキス大陸南西部に生息する小さな龍。飛ぶことは出来ない。群れて暮らし、作物等をよく荒らす。
「えーと、害獣のようだな」
「なんかなー」
「倒したら親玉とか出てくるパターン希望!」
テルは一人興奮している。小龍達はこちらに気付いたようで、走り寄って来た。威嚇の為に高い声で吠えている。
「ファーニー、ストッピング!」
ファーニーが脚を踏み鳴らし、小龍達が勢いを無くす。小さい敵にはやはり有効だ。動きの止まった小龍を俺とタリで倒していく。これは野犬みたいなものか。後からワラワラと湧いて来て、倒すのに時間が掛かった。
「やった三十になったぞ!」
スウェースウェー!
テルも三十レベルになったようだ。これで全員がクラスチェンジ可能だな。ファーニーも喜んでいる。
街道のような道に出た為、そこを北上する事になった。魔物の数も減り、他のプレイヤーや、行商人等もちらほらと現れ始めた。
「あれがマジャルジャンか」
草原の奥、なだらかな丘の上に街がある。申し訳程度の城壁に囲まれた街。マジャルジャンだ。中央には高い尖塔を抱く聖堂が見える。平和そうな街だな。
「クラスチェンジをご希望ですね。ではこちらにどうぞ」
俺達は聖堂の中にあるジョブ神殿を訪れ、クラスチェンジをお願いする事になった。ダイモンは別口らしく、偉そうな人に連れられて奥に向かった。やはり特殊なクラスチェンジなのだろう。では何故俺のクラスチェンジもここマジャルジャンでなくてはいけなかったのか。その答えが目の前にいた。
「お主が槍の覚醒者らっきょだな」
神々しい光を放つ男性が突如として目の前に現れた。周りの神官は平伏し、祈りを捧げている。
「そうですが、貴方は……」
「我は槍神アガナ。新たなる勇者の槍を授けに顕現した」
「勇者の槍、ですか?」
「はっはっはっ。困惑しておるな。実はな、お主がヤハハリの後継に足るかどうか、確かめておったのだ」
心当たりが無い、パーティーメンバーを見るが皆首を横に振った。
「枯れ地の谷で古の呪い子を浄化したであろう」
「呪い子……ユニゾンセルの事ですかね」
「そうだ。我は全て見ていた。お主がズーラと呼ばれる者を眠らせたのもな」
ずっと見られていたみたいだ。罰当たりな事しなかったよな?
「俺でいいんですか?」
「我はその意思を気に入った。槍を授けるに申し分無い」
「そうですか。ならば謹んでお受け致します」
「よかろう。これをもって、お主を勇者の槍と成す」
一見すると普通の槍だ。石突に申し訳程度のレリーフが彫られており、穂先は白銀に輝いている。受け取る時に柄に何か書かれているのが見えた。
「神は人を創り、人は神を産んだ。輪廻を外れ、最愛の人を遺す」
「創世神様の言葉だ。意味は知らぬ」
「創世神……」
とあるイケメンの顔が浮かぶ。
「では、我は去ろう。さらばだ」
消えていくアガナ様に頭を下げる。
▶らっきょ Lv31
メインジョブ 勇者(槍)
サブジョブ 商人
筋力 56→66
頑強 48→58
知恵 33→43
器用さ 56→66
敏捷 43→53
魔法抵抗 44→54
運 15→25
スキル
互換性Ⅲ グランダムラ
空歩Lv2 真・覚醒Lv3 番天印Lv1 龍気
重心移動Lv3 天柱落Lv3 身体能力向上Lv5 健康Lv4
雷装Lv3
頑強Lv5 健脚Lv4 体力増強Lv4 体捌きLv3
槍術Lv5 棒術Lv5 挑発Lv4 交渉術Lv1
鑑定Lv4
アビリティ
両手突き 打ち払い 投槍 上段突き 発勁
下段突き ハーフスイング 三連突き 牙突
現槍
ジョブが勇者になってる。なんだろう、ちょっと恥ずかしいな。いや、嬉しいんだけども。覚醒が進化してる。ヤハハリ様に見せて貰ったやつだ。さらに驚いた事に、レジェンダリースキルが増えていた。レベルが無いので、やはり、グレード方式なのだろうか。
▶スキル 真・覚醒Lv3
白いオーラを纏う。全ステータスが九割増加。使用中のみ、アビリティにコーモラント、迅雷樹が追加される。最大六十秒使用可能。使用後、一時間ステータスが三割低下。クールタイム二十四時間。
能力補正の上昇量が飛躍的に上がった。使用時間も延びていい感じだ。
▶スキル グランダムラ
始祖竜グランダムラの化身となる。使用条件???
流石レジェンダリースキルだ。鑑定が通りきらない。しかしこの使用条件が分からないのは困るな。今度、ヤハハリ様に聞いてみよう。
アガナ様が消えると周りの神官が俺を崇め出した。面倒事は困るので、さっさと仲間を連れて退出する。
「らっきょ、お前勇者だったのか?」
「今なったんだよ。ステータスに勇者って書いてある」
「きゃー勇者さまよー」
「棒読みやめろぽぷら」
二人に揶揄われているとテルが遅れて出てくる。テルはクラスチェンジだったから確認していたのか。
「テル、クラスチェンジ出来たか?」
「出来たぜ!何か騒がしかったけど何かあった?」
「いや、まぁ。で何になったんだ?」
「鳥獣士になった」
「へー。そう言えば、ファーニーはどうした?」
「ふっふっふ。見て驚け!ファーニーカモン!」
テルの右の手の甲に紋章が描かれていた。その紋章が光り、ファーニーが飛び出して来る。召喚出来るようになったのか。
「これだけじゃないぜ!ファーニーを見てくれ!」
ファーニーが見せびらかすように背中を向けてくる。そのお尻のあたりに尻尾があった。尾羽根では無く、しかも鱗に覆われた長い尻尾だ。ファーニーはお披露目が嬉しいのか、フリフリと尻尾を動かしている。可愛い。
「ファーニーも進化したんだな」
「で、らっきょは?何になったんだ?」
「勇者」
「え?」
「だから、勇者」
「ふ……」
「ふ?」
「ふぉおおお!マジかよおお!」
テルが俺の肩をバンバンと叩く。あ、セキュリティが発動した。
「と、ごめん。興奮しすぎた。しかし勇者かー、いいなぁー勇者」
「落ち着け。ファーニーが驚いてるぞ」
いや、正確にはファーニーはテルの服の裾を咥えて引き戻してくれている。なんて人の出来た鳥なんだ。
「てっちゃんが興奮してるみたいですが、どうしました?」
聖堂からダイモンが出て来た。いつもの牧師服の上に襷のように黒の飾り帯を巻いている。
「らっきょが勇者になった」
「本当ですか!?それはおめでとう御座います」
「あ、ありがとう?」
純粋なダイモンの嫌味の無い祝辞に照れてしまう。
「私も無事アークビショップになれました。これで今日の目的は達成ですね」
アークビショップか、確かカトリックだと大司教の位だったか。
「明日からイベントです。公式からは開始時間だけ発表されてますね」
「えーと、夕方スタートか」
「皆で夕方集まって、イベント公式放送を一緒に観たいですね」
「ゲームの中でも観れるのん?」
「確か、可能なはず」
「ふ〜ん」
ぽぷらは何やら考えた後、俺をチラッと見た。何だよ、その意味有りげな視線は。
「ねぇ、現実で集まろうよ」
「は?」
「ぽ、ぽぷらさん!?」
俺とテルが慌てる。ダイモンとタリは難しい表情だ。
「ぽぷら。それはとても楽しそうな提案だけど、ほら、皆の事情もあるでしょ?」
「そうだな。オフ会?の提案にしては急すぎる」
「オフ会って言うかぁ。ああ、もう面倒だわ。こんな身近にいるのに隠す必要無いでしょ」
ぽぷらの口調が保奈美のものになる。ビシッとタリを指差して。
「彼女は鞍望胡桃。ダイダラボッチ斬った女の子」
その言葉に驚くダイモンを指差し。
「こっちは大代紋芽。ダイダラボッチ蹴り落とした人」
「え?胡桃さん?」
「た、隊長さん?」
保奈美の隠し事が出来ない性格が本領を発揮し、ダイモンとタリが困惑している。
「これでスッキリした。と、言う訳で明日の夕方、あたしの部屋に集合ね。部屋番端末に送っておくから。夕飯は食べないように。いいわね?」
動揺を隠し切れない一同を残して、保奈美はログアウトしていった。かき回すだけかき回して逃げやがった。残されたダイモンとタリはお互い気まずい自己紹介を始めていた。居た堪れなくなったので俺もお先にお暇する。
「オフ会か」
ちょっと楽しみだ。
ログアウトすると、端末が明滅していた。連絡が入っている。仕事の連絡だ。
明朝◯◯九◯。本部第八訓練室集合。
「明日から訓練開始か。夕方までに終わるのか、これ」
翌日、出勤命令に従って、八王子の協会本部に出向いた。訓練所内の更衣室でテルを見つける。
「おう、遅刻せずに来たな」
「流石に遅刻はしないよ」
訓練着に着替え、第八訓練室に向かう。周りはムキムキの訓練生ばかりだ。流石はエリートを集めただけはある。大丈夫かな俺達。その中に女性を見つけた。あれ、最初のオリエンテーションの時、男しかいなかったよな?保奈美か?それにしては背が低いな。周りのマッチョ共がちらちらと彼女を見ている。彼女も居心地が悪そうにしてるな、あ、こちらを見た。
「テル!らっ、倉松!」
彼女が笑顔でこちらに手を振っていた。
鞍望胡桃がそこにいた。




