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28.海底洞窟




 ジョシュは自慢気に彼の愛しい箱庭を愛でる。ちょっと狂気も入ってる気がするな。それだけ自分のスキルが好きなんだろう。


「例えば、ですが」


 紋芽が切り出す。ジョシュは箱庭を撫でながらも話を聞いてくれるようだ。


「箱庭の能力を現実に持ち出す事は出来ますか?」

「ふむ……面白い。それは僕の力を軍事転用したいという話かな?」

「あくまでも、魔境探索の為に、です」


 紋芽とジョシュの静かな睨み合いが起こり、ジョシュが目を流した。


「現状は不可能だね」

「現状は、ですか」

「箱庭で作られた能力は箱庭の中でしか効果を発揮しない」

「そうですか……分かりました」

「御期待に応えられなくてすまないね」

「いえ。それでは私達はこれで」

 

 要件は済んだとばかりに紋芽は出口に向かう。


「待ってくれ」


 ジョシュに呼び止められ、俺達は立ち止まる。


「協会のお偉いさんに伝えてくれ」

「何でしょう」

「本当に手を貸して欲しいなら、ビジネスライクにいこうってね」


 イケメンがウインクした。俺達は気にもとめず扉を開けようとするとラナさんが先行して開けてくれる。待っていた部長さんと合流してエレベーターに向かう。ラナさんがそこまで送ってくれた。


 部長さんとは駐車場で別れる。車に戻り、エンジンを掛けた。沈黙のまま地下駐車場を出ると紋芽が口を開いた。


「信用ならないかも」

「え?」

「会話の途中で探査スキルが飛んできたの気付いた?貴方の偽装はバレてたって事」


 全然気付かなかった。


「しかも私の訪問が協会の指示じゃない事も見抜いてた」

「最後に声を掛けられた時か」

「極めつけはあのラナって人。箱庭のスキルは箱庭の中でしか効果を発揮しない。じゃあ外に出て来たあの人は何?」

「ああ、そういえば」

「わざとでしょう。暗にお前達には何も話さないって言いたいのでしょうね」

「油断ならない相手って訳だな」

「ところで」


 話を切るように、紋芽が端末のカメラを向けてきた。運転中なのでカメラを手で隠す事も出来ない。一枚撮ると俺の肩に手を置く。途端に変身が解け、俺自身、いやらっきょに戻った。

 ピロリン♪


「待て、今どこに送った」

「保奈美に見せて上げようと思って」

「おま、巫山戯んな!」


 すると、俺の端末にコールが入る。画面には初鹿野の表示。まっずい。


「おい、電話掛かってきたぞ」

「掛かってきたね」

「紋芽のスキルなんだから、そっちで釈明してくれよ」

「んーどうしようかな」

「どうしようかなじゃなくて!」

「お願い聞いてくれたら、説明して上げる」

「あー内容による」

「内容、そうだよね……」


 ちなみにこの遣り取りの間も、鬼電が掛かってきてる。命の危機をヒシヒシと感じる。


「男性に戻っても、時々、夕食作ってくれますか?」


 俺は不覚にも言葉を紡げなかった。その図々しさに呆れた訳じゃない。大代紋芽のその仕草が控えめなものだったからだ。富も名誉も手に入れ、自信を溢れる程持ち合わせていると思っていた。そんな彼女が俯いてこちらを自信無さげに伺っている。


「ま、まぁ時々で良ければ」


 俺はこの時まで彼女に憧れていた。判断力に優れ、容姿にも優れ、実力を持ち合わせている。知り合った時から雲の上にいて、その慈悲でもって俺を助けてくれた。そう思っていた。


「やった!」


 でも、そう言って微笑む彼女は手に届く所にいて、誰にも見せない自然体な姿を見せてくれる。そんな彼女に俺は負けたのだ。いや、そんな漢らしくない表現はいらないな。もっと端的に、そう簡潔に言うならば。

 

 彼女に今この瞬間、恋をしたのだ。



 それから三日。思いの外早くクレカが届いて、俺は無事男に戻った。この三日間は大変だった。彼女への想いに気付いてから悟られまいと平常心で暮らしていたが、内心はドキドキの連続だった。ソファで隣に座って来た時など思わず抱き締めてしまいそうになったが、鉄の自制心で頑張った。そのうち、保奈美達も帰宅し俺も男に戻った。部屋に戻る時に紋芽が寂しそうな顔をした瞬間がピークだったな。よく我慢した俺。

 そんなこんなでその日の夜。朝顔再結集である。


「皆さん。第二回イベントが発表されました!」

「おー!待ってました!」

「それは楽しみだ」


 ダイモンが切り出した一言にテルとタリが喜びの声を上げる。そう、タリと言えば、胡桃は結局保奈美の部屋に居候している。探索者として一人前になるまでは面倒を見ると宣言していたので、悪いようにはならないだろう。清一郎さんにも堂々と啖呵を切って連れてきたらしい。やるじゃないか。約束した手前、放り出してきたような形になっていたので、懸念していたのだ。


「今回はPVP。対人要素が強めのようです」

「対人か」

「あーしが苦手なやつじゃーん」


 確かにぽぷらはジョブ的に難しいところがありそうだ。


「デュオとかもあるらしいから、そっちの方がいいかもね。で問題は私達のレベルです。三十いった人!」


 テル以外のメンバーが手を上げる。


「となると、さっさとクラスチェンジしたいところです。なので、今日中に新大陸に入りたいと思います」

「来たー!新大陸!」

「イベントまで二日ある。何とかなりそうだな」

「でもーどーやって、渡んの?」


 その発言に皆一斉にダイモンを見る。


「安心して下さい。ちゃんと調べて来ました」

「流石、クランマスターだな」


 頷くタリを見ながらある事に気付いた。そう言えば、ダイモンとタリだけがお互いの中身を知らない。隠すつもりかどうか二人に聞いておかなきゃな。


「ここです!」


 ダイモンが地図を取り出して示したのは何の変哲も無い岩礁だ。


「ここに海底洞窟の入り口があります」

「海底」

「洞窟?」


 

 そんなこんなで例の岩礁を発見。地下へと続く入り口がぽっかりと口を開けている。ここから第五エリアのスタートだ。


「らっきょはどうして男性アバターに変更したんだ?」


 後ろを歩くタリから質問を受ける。言えないよな、現実で女性になりたくないから、なんて。


「キヒヒ。女の子でいるのがー恥ずかしくなったんよね?ラッキー?」


 こいつ、真実を知ってやがる癖に。悪い顔をするぽぷらを一睨みする。


「気分だよ。タリも女の子にしてみたら、分かるかもな」


 ニヤッと笑いながら、言うと、タリは憮然として口を紡ぐ。


「え、皆何言ってるんだ?二人は元々……もがっ」


 慌ててテルの口を塞ぐ。


「お前、馬鹿か。ダイモンは知らないだろ」

「ほうだった」


 テルの口を塞いだままヘッドロックを掛けたような姿勢になってダイモンと目が合った。


「いや、違うんだダイモン。これは、その……」

「早く行きますよ」


 ダイモンは何も気付いて無いのか、スタスタと先に行ってしまう。


「ふぅ」

「ごべん」


 海底洞窟はダンジョンのような仕組みの大陸移動用の通路だ。東と西の海峡を徒歩で渡る事が出来る。一応これ以外にも船での移動もあるらしいが、船上は釣りぐらいしかやる事が無いらしい。


「ウツボ来たぞ!」


 ここに出る敵は二種類。ヒトデの怪物、スタープラントとこのウツボ。体色が派手な為、非常に目立つトロピカルアレイだ。

 ウツボは空中を泳いで来る。口から火を吐く為かなり厄介な相手だ。俺達以外には。


「フロストボム!」


 こいつ海底に住んでいる癖に氷結攻撃に弱い。ぽぷらがいればただの的になる。


「叩け叩け!」


 四方からボコボコにする。ファーニーが最後突っついてポリゴンと化した。


「順調だな」


 最下層あたりに行くと、広間のような場所があり、地面に海底への入り口がぽっかりと空いていた。ボスか!と思ったが、何も出でこない。


「これは海中探索出来る場所ですかね?」

「海で息が出来る種族とか選択出来たか?」

「エンドコンテンツじゃね?」

「確かに、息が出来るスキルがありそうだな」


 今回はスルーして先に進む。登り坂になり敵の種類が変わった。突撃してくるダツのような魚の魔物と、ウニに似た針を飛ばしてくる魔物だ。


「尖端恐怖症の人とか大変そうですね」

「ファーニー!やっちゃえ!」


 ここはファーニーが大活躍した。針を物ともせず飛んできたダツを咥えて噛み千切る。一家に一台ファーニーだわ。


 やがて出口の光が見えてくる。やっとか。


「着いたぞー!」


 テルがファーニーに乗っていの一番に飛び出していく。俺達も後に続くと久しぶりの太陽で眩しい。

 そこは南国だった。椰子の木が生え、ビーチが続いている。遠く、街が見えた。桟橋に囲まれた如何にも南国の街といった佇まいだ。


「あそこがランケンですね」


 こうして朝顔一行は、新大陸へと歩を進めたのである。





 都内、練馬区。


「それで?」

「黒髪の方は姿を偽っていらっしゃいました」

「ほう」

「それと、その方から不思議な力を感じました」

「不思議な力?」

「私と同類の力です」

「それは興味深いね。もっと調べてみたいところだが……」

「旦那様。お時間です」

「そうか……ラナ」

「はい、旦那様」

「……」

「……」

「……旦那様。間もなく()がいらっしゃいます」

「そうか、また会えるのだろう」

「間違い無く。私は幾久しく旦那様を愛しておりますので」

「僕もだよ。それじゃあ」

「はい、お送りします。■■■■」


「お帰りなさいませ。私の愛しい人」


 

 


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