表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/48

26.ガール&ガール




「何でこんな事に……」

「何です?何か言いました?」


 カーテンの向こう側から紋芽さんの声がする。


「な、何でも無いです!」


 俺は鏡に映る自分の姿に溜め息をついた。

 場所はランジェリーショップ。紋芽さんと二人、お買い物の最中だ。


 あの後、何とかして男に戻ろうと足掻いてみたが全て無駄だった。最後の手段は、ゲーム内の課金要素である性別変化だろう。しかしそれは自宅でのみ可能な事項だ。まずは帰らなくてはならない。退院手続きを終わらせ紋芽さん同伴の元、特別車で自宅に帰る。上級探索者のみが使える協会の車だ。移動中は終始顔をフードで隠していた。着ているパーカーは紋芽さんが買って来てくれた。本当に何から何までお世話になりっぱなしだ。

 こそこそと帰宅し、紋芽さんにリビングで待っていて下さいとお願いしてFOLNを起動する。


 おかえりなさい、らっきょ様。


 インタフェースの課金要素の欄を呼び出す。このゲームは課金要素が容姿に関わるものしかない。だから課金でブースト等の成金チートは不可能になっている。


▶性別変更


 良かった。そんなに高くない。コマンドを選択し、支払い画面にいく。決済手段は……クレカ。


「は?このご時世にクレカ!?」


 どうしてなのか、決済手段がクレカしかない。この端末決済が主流のご時世にクレカオンリー。使う事は無いだろとクレカなんて作ってない。


「くっ、背に腹は代えられない」


 俺はリビングに戻ると、紋芽さんに頭を下げた。


「恥を忍んでお願いがあります。クレジットカードを貸して頂けませんか」

「クレジットカード……?」

「はい、あの、料金は倍にしてお返ししますので……」


 紋芽さんは何事か少し考えた後、困ったような顔で首を横に振った。


「ごめんなさい。私はクレジットカードを持ち合わせていません」


 お、終わった……。


「そ、そうですか……」


 項垂れながら、保奈美にメールを打つ、彼女なら持ってるだろう。連絡先を交換しておいて良かった。かくなる上は彼女に貸して貰うしかない。返信はすぐ返って来た。


〘まだ事後処理中。数日帰れない。てか、無事だったんだ。良かった。で、どうよ女になった気分は?〙


 俺は端末をそっ閉じした。


「詰んだ」

「クレジットカードが作りたいんですか?一週間程度で作れますよ?」


 その言葉に従い無表情になりながら手続きをする。一週間か……。泣きたい。


「らっきょさん。いえ倉松さん。そろそろ話していただけませんか?」


 紋芽さんが椅子から立ち上がって、俺の肩に手を置く。背が縮んだ姿だと、彼女とそう背格好が変わらない。くっ……泣きそう。


「……誰にも話さないでもらえますか?」

「はい。これでも責任ある立場にいますから、口は硬いですよ」


 彼女は優しく椅子に俺を座らせて、そう微笑んだ。女神だ。彼女になら……。


 俺は全て話した。あの日、レジェンダリーメダルを拾ったところから、互換性に関する話を余すことなく彼女に打ち明ける。


「互換性、ですか」

「はい。詳しい事はまだよく分かってないんですけど、そう言えば、大代隊長、聞きたい事があったんです」

「紋芽って呼んで下さい。らっきょさんに余所余所しくされるのは嫌です」

「う、紋芽隊長」

「隊長もいらないです」

「紋芽、さん」

「はい。それで聞きたい事とは?」

「レジェンダリースキルのグレードが上がる事なんてあるんですか?」

「あります。実際に私も経験した事があります」


 彼女は即答した。つまり上級探索者にとっては周知の事実なのだろう。


「しかし、匡太郎さん程、特異なスキルも珍しいです。まぁ、レジェンダリースキルはどれをとっても規格外、特別な物が大半ですが」


 俺の呼び名は匡太郎さんになったみたいだ。一度、八王子で自己紹介しただけなのによく覚えている。


「それにしても性別まで変えてしまうような、スキルですか……。匡太郎さん、これはあくまで憶測ですがこれ以上グレードを上げるのは危険かもしれません」


 紋芽さんの真剣な表情に俺は緊張した。


「それは一体……」

「死を、互換する可能性が有ります」


 俺は息を飲んだ。どうして今迄気付かなかったのか、ステータス、インベントリ、性別となったらその可能性だって大いにある。


「確かに……」

「お話を鑑みるに、主討伐でグレードアップする事が多いようです。つまり、誤解を恐れずに言うならば、探索者を続けるのはリスクが高過ぎます」


 紋芽さんが言う事は正しい。この先、戦場に出なければグレードが上がる事も無い。しかしそれでは駄目だ。


「それは……出来ません」


 夢を思い出す。綺麗な横浜の風景。笑っていた両親の顔。諦める事は出来ない。


「……分かりました」


 そう言うと紋芽さんがどこかに電話を掛け始めた。軽く話して、俺を振り返る。


「そうとなれば、私がお手伝いしましょう。何せ知らない仲じゃないですしね。しかし、この部屋で暮らすのは目立ちますから、別を用意しました。さぁ、車を呼びました。行きましょう」

「行くって、どこに?」

「服を買いに行きますよ。一週間は居ることになりますから」

「どこにですか?」

「私の部屋に」


 そして冒頭に戻る。


「まだですか?サイズ合いませんでした?」


 そう言いながらカーテンを開けようとする。俺はそれを必死に防いだ。見せられるかこんなフリフリのランジェリー。


「もう、今は女の子同士なんですから、いいじゃないですか」

「それとこれとは話が別です。というか何か楽しんでないか?」

「そんな事無いですよ」


 何着か試着しながら、ダイモンと始めて会った時を思い出していた。そういえば、彼女は最初から悪戯好きというか、突拍子もない事を言うタイプだったな。


 下着を買い揃え、パンツとアウターシャツ、カジュアルなジャケット等を購入する。スカートを勧められたが断固として拒否した。


「まぁ、これだけじゃ足りないけど、私のを貸して上げます」

「そんなに外出するつもりは……」

「ああ、私とずっと部屋に二人でいたかった?」

「外出、します」

「はいはい」


 紋芽の遠慮が無くなって来た。俺も慣れたのかダイモンと同じ扱いだ。胡桃の時もそうだったが、朝顔のメンバーにはちょっと緩すぎるな、いかんいかん。


 エレベーターで最上階に上がる。最上階に部屋は三つだけで、そのうちの一つが彼女の住居だ。帰り着くなり、夕食を宅配しようとしていた為、止めさせて俺が作る事になった。何でも自炊はほぼ出来ないらしい。俺は一人暮らしが長いので得意分野だ。幸い冷凍してある米があったので炒飯を作った。簡単に作ったものだが紋芽は大層喜んでくれた。


「先、お風呂どうぞ」

「じゃ、遠慮無く」


 何かこの遣り取りにドキッとした。同棲てのはこういう感じなのかもな。交代で風呂に入り、後は寝るだけ。そこで問題が起こる。ベッドが一つだけしか無い。


「一緒に寝る?」

「寝る訳無いだろ」


 彼女も雰囲気に当てられていた可能性がある。冷静にツッコミを入れ、マットレスを借りてリビングで寝た。これが一週間か。悲しくなってちょっと泣いた。


 翌日、浦和の処理に戻らなければいけない紋芽に合鍵を渡された。出掛けてもいいが、あまり目立つ行動はしない事。ゲームがしたければ、予備のヘッドギアを使って良い事。お金が無くなったらちゃんと言う事。お前は愛人を囲うおっさんかっ!


 紋芽が出掛け、暇になる。いや、やる事はあるな。まずは洗濯だ。自分と紋芽の分を一緒に洗ってしまう。さらに掃除。それが終わったら冷蔵庫の中身を確認し、足りない物をスーパーに買いに行く。周囲の視線が気になる。化粧なんて全くしていないが、流石に俺が作ったアバター。滅多に見ないレベルの美人だ。なるべく愛想を振りまかないように無表情に徹する。


「ぷはっ」


 家に帰り着くと大きく息を吐いた。男共の視線が凄かった。特にお尻のあたりをよく見られた気がする。体のラインが出るパンツは失敗だったか?


 夕食の下準備をした。今日は手捏ねハンバーグ。選択が肉関係になるのは許して欲しい。そういうのしか作った来なかった。タネを寝かせている間、洗濯物を取り込む。うむ、暇になったな、ゲームするか。


 おかえりなさい、らっきょ様。


 ログインすると、アバターを確認する。女性のままだ。少し落ち込みながら、フレンド欄を開く。誰もいない。まだ皆群馬なんだな。

 そういえば、レベルが三十になったんだった。クラスチェンジが出来るはず。ファストトラベルでさっさとクリカラに飛ぶ。この街の雰囲気を俺は好いている。神殿に向かい、クラスチェンジの神官に話し掛けた。


「ここじゃ出来ないのですか?」

「はい。二次強化は西の大陸でのみ行えます」


 それはショックだ。どうするか、一人で新大陸に行くのもなぁ。

 結局、ヨーン森で少し経験値稼ぎをして終わりにした。夕食も作らねばならないので、あまり長居は出来ない。ログアウト。


 ヘッドギアを上げると、目の前に女神がいた。いや、紋芽だ。ドキッとするからやめて欲しい。


「おかえり、早かったな」

「副長が優秀でした。判子だけ押して返って来た」

「それはなにより。ハンバーグ寝かせてるから焼くわ」

「え、何。作ってくれるの?」

「掃除と洗濯もしたよ。もうちょっと洗濯物は小まめに洗いなさい」

「洗濯……」


 紋芽が赤くなっていた。何だよ恥じらいの感情があるのかい。


 その後、食事をして、風呂に入って寝る。昨日と同じサイクルだ。だが、寝る前に紋芽が明日の予定を聞いてきた。


「そりゃ何もありませんが」

「じゃあ、付き合って下さい。デートじゃないからね?貴方のスキルに関する調査をするつもり」


 そんなわざわざデートじゃありませんと言う必要があったか?彼女はそれだけ言って寝室に引っ込んだ。しかし、二人でお出掛けか。


 何だよ。もしかして嬉しいのか?俺。

 内心、この状況をちょっと楽しんでいる自分がいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ