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25.朝顔は夕闇に咲く 弐




「おらおらおらおーら!」


 テルがラッシュを掛けている。ダイダラボッチに取り付き、ひたすらに殴り続ける。


「おわ!」


 振り払われたら保奈美の出番だ。頭上に巨大な岩の大槌を構えている。


巨岩の災い(ミョルニル)


 巨岩ハンマーは流石に危ないと感じたのか、ダイダラボッチが縮地で逃げた。ハンマーはクレーターを作って空の地面を殴る。


「背後を取らせないように動いてるな」

「あの巨体で器用な真似を……」

「体を捻る動作が出来ないんだろう。背後は完全な死角だな」

「仕方ない、私が誘い出すから……」

「いや、俺がやる。胡桃は右前肢を執拗に攻撃してくれ、一本折れればこちらの勝ちだ」

「ふふ」


 胡桃が突然笑い出した。


「なんだよ」

「いや、ゲームと一緒だなと思ってな」


 俺は返事をせずに両手を上げて肩を竦める。ちょっと恥ずかしかったのを誤魔化した。もう既に胡桃をタリだと認識していた。連携に心配はしていない。


「雷装」


 黄金色の闘気を全開にする。さらに雷装。


「雷装、だと?」

「終わったらな、ちゃんと話すよ」


 テルと胡桃の前でこのスキルを見せるのは始めてだ。もう彼らに隠すつもりはない。最初から全開だ。雷の力を得た俺は一足飛びにダイダラボッチの胴体まで飛び上がる。さらに空歩で奴の頭上を取る。


「牙突!」


 棍の先を龍気で固め、突き刺す。しかし胴体の守りは思いの外硬く、弾かれてしまった。振り払おうと風魔法の追撃を往なしながら、胡桃とは反対側に降り立つ。


「こいつ外気を重ねやがった!」


 節を抜いたと思ったが、もう一枚奥に外気を重ねていた。巨体のくせに小賢しい技を使う。挟まれたダイダラボッチは縮地で距離を取ろうとする。させるかよ!


「テル!保奈美!跳ばせるな!」

「分かった!」

噴き上がる五梁柱(ウーリャンツー)


 保奈美の魔法が発動し、五本の炎柱が俺達を囲むよう出現する。それに怯んだのか、縮地はキャンセルされた。さらにテルが組み付き、ダイダラボッチの巨体を持ち上げた。


「浮いたぞ……」

「おりゃあああ!」


 俺がドン引きしてる間に、バックドロップの要領でダイダラボッチをひっくり返す。


「あいつ、胸にカラータイマーでも付いてるんじゃないか」


 ボヤく俺の目の前、ダイダラボッチは直ぐ様後肢と前肢を交差させ、こちらを警戒しながら起き上がる。予想通りその行為によって胡桃を見失った。しかし、警戒はしているようで、足元は闘気を厚くしているようだ。


「ほら、来い!」


 挑発を入れると、左前肢を振り上げる。


「二の太刀 水鶏(クイナ)


 浮いていない右前肢を胡桃が斬りつけた。袈裟斬りで入った太刀筋が膝下から跳ね上がる。対人向けの技か。しかしそれが上手く外気の隙間を縫い、前肢を深く傷付ける。畳み掛けるならここだな。一拍で接近し、呼吸と共に片手を押し出す。


「発勁!」


 新しく獲得したアビリティだが、習得した浸透勁にスキルダメージが上乗せされ、さらに強力になっているようだ。

 奴の右前肢が逆側に()()()


「断ち切れ!胡桃!」

「任された……三の太刀 黒兎」


 胡桃が納刀状態から居合いを放った。太刀筋すら視認出来ない程の剣速で、真一文字に振り抜く。

 ダイダラボッチの脚が切り飛ばされた。


 ロァオオオォォ


 ダイダラボッチが悲鳴にも似た叫びを上げ、たたらを踏んで後退する。よし、これで楽になるだろ。流石にあの脚で縮地は……。


「マジかよ」


 ダイダラボッチが叫びながら変態していく、前肢の間、胴体部分から鋏を持った脚が生え、背中部分に翼が生える。


「第二形態よ!気を付けて!」

「蜘蛛なのか、ヤドカリなのか、鳥なのか、はっきりしろ!」


 保奈美の忠告に悪態で返しながら距離を取った。ダイダラボッチが浮いたからだ。


「あの翼、羽ばたいてないな」

「魔法的な力で浮いてるのか」

「もぎ取ってやる!あぐっ」

「テル!」


 テルが翼に取り付こうとして、はたき落とされた。あの翼も腕のように自在に動かせるって事か。


「長期戦はまずいぞ、もう日が暮れる」

「分かっているが、攻め手に欠けるな。脚を折れば、胴体に届くと思ったが」



 西を見れば日が山並みに消えていくところだった。夜の戦いはあちらが圧倒的に有利だ。俺達も人間である以上、夜の闇には抗えない。万事休すか、一度撤退するべきか。


「這いつくばらせればいいの?」

 

 声は上空から聞こえた。空を仰ぎ見れば、先程沈んだはずの太陽が大地を照らさんと神々しく輝いていた。いや、違う。これは闘気だ。闘気がまるで太陽のように燦々と輝いている。


 大代 紋芽がそこにいた。

 

「紋芽どうしてここに?」

「主が出たと聞いて飛んできたよ。二十分も掛かっちゃった」


 浦和にいた筈だ。二十分で到着するのは規格外すぎる。俺達が唖然とする前、紋芽さんが降り立った。深紅のライダースーツのような戦闘服を着ており、栗色の髪がよく映える。綺麗だ。

 ダイダラボッチが鋏を突き刺して来た。必殺のそれを紋芽さんが片手で止める。よく見れば障壁のようなものが発生している。


「テルは?」

「あっちに飛ばされたけど、大丈夫よ。あの子頑丈そうだし」

「そう。それはこいつに倍返しするとして」


 鋏の先を押し込もうと、脚と翼で必死に足掻いているが、びくともしない。


「貴女お名前は?」


 紋芽さんは胡桃に名前を聞く。


「鞍望 胡桃」

「胡桃さん。こいつが斬れるの?」

「斬れる」


 短いが確信のある言葉。


「分かった。じゃあ届くところに落とす。ビー。ショートテレポート、蹴術、自重四倍をセット」

[コマンド承認。ショートテレポート、蹴術、自重四倍、をスロットにセット]

「オン」

[スキルオン]


 合成音声のような声が響き、紋芽さんが消えた。ダイダラボッチは抗力を失い、つんのめる。その胴体上部に彼女が現れた。片足を上げ、振り下ろす。踵落としだ。金属が軋むような大音響が響く。

 テルの殴りでさえ物ともしなかった奴の外殻がひしゃげ、脚が跳ね上がり、胴体が地に落とされた。


「今!」


 胡桃の闘気が膨れ上がる。それは紋芽さんにも匹敵するような大きさだ。紋芽さんが太陽なら、彼女は月。満ちた闘気の器。


「鞍望流奥義 天地知塵」


 何も分からなかった。気付けば、胡桃は刀を鞘に納めており、ダイダラボッチは……。


【榛名魔境の主 ダイダラボッチを倒しました】

【互換性がグレードアップしました】

【レベルが上がりました】


倉松 匡太郎 Lv30


ジョブ 探索者


筋力   51→55


頑強   45→47


知恵   30→32


器用さ  49→53


敏捷   40→42


魔法抵抗 41→43


運    14→15


スキル 


互換性Ⅲ


空歩Lv2 覚醒Lv2 龍気


重心移動Lv3 天柱落Lv3 身体能力向上Lv5 健康Lv3


雷装Lv2


頑強Lv5 健脚Lv4 体力増強Lv4 体捌きLv2


槍術Lv5 棒術Lv5 挑発Lv4 交渉術Lv1


鑑定Lv4


アビリティ


両手突き 打ち払い 投槍 上段突き 発勁


下段突き ハーフスイング 三連突き 牙突



 手元にメダルが届く。またエピックがある。これは嬉しいな。さらに互換性のグレードが上がった。次は何の互換性を取るのか。


「やったな」


 一人立ち竦む胡桃に声を掛けようとして、保奈美とテルが走り込んで来て胡桃に抱き着いた。


「やったじゃない!」

「うおーすげー技だったー!」

「ちょ、やめ、待て、分かったから」


 胡桃も満更でもなさそうで笑みがこぼれている。


「倉松さんお疲れ様でした」


 紋芽さんが先に声を掛けてくれた。あっちの三人に混ざると面倒だと思ったのかな。


「大代隊長もお疲れ様です。浦和はいいんですか?」

「安心して下さい。終わってから来ましたから」

「それは何より」

「ところで、あの三人と、貴方も含めて随分仲が良さそうですが、何かあったんですか?」

「あー、それは……」


 なんと言って誤魔化すか、俺が苦悩を始めたその瞬間、頭の中にアナウンスが響いた。


【互換性の調整の為、体に負荷が掛かります。安全の為、強制的に意識を絶ちます三……二……】


「え、ちょっと」

「倉松さん?」


【ブラックアウト】

 

 俺は意識を失った。




 俺は夢を見ていた。小さな頃の夢だ。父さんと母さんに連れられて、みなとみらいの大観覧車に乗っている。後ろを見れば一面横浜の街、前を見れば、大海原、その先に蜃気楼のように映った街並みが見える。


「ねぇ、あそこにも街があるよ!」

「あれは千葉だな。東京湾てのはこう輪っかみたいになってるのさ」


 父さんが腕で丸を作ってる。


「えーでも海の向こう側だよ?」

「それじゃあ今度行ってみましょうね。向こうから横浜が見えたら、間違い無いでしょ?」


 母さんが頭を撫でてくれる。そうか千葉は海の向こうにあるのか。幼い俺は千葉が外国なんだと思っていたのだ。


 暫く眺めて、俺は二人の顔を仰ぎ見る。おかしいな。よく見えない。瞼を擦ってもう一度見てみる。すると二人はもういなかった。観覧車の中には俺一人。二人はどこに行ったのだろうか。後ろの籠を見れば、そちらにも誰かが乗っているのが見えた。思いっきり手を振ってみる。するとその人が気付いた。女の子みたいだ。栗色の髪のお人形さんみたいな女の子だ。その子が何か言っている。


 お き て


「はっ」


 白い天井だ。ゆっくりと横に目を向けると、腕に刺さった点滴が見える。


「……」

「前橋市の病院です」


 声は反対側から聞こえた。女の子、では無く。紋芽さんがカーテンを開けて顔を覗かせていた。


「俺は一体、え?」


 聞いたことの無い声が声帯から出た。いや、正しくは現実では聞いた事の無い声だ。思わず体を触る。喉仏が無い。ささやかだが胸がある。股間にある物が、無い!


「落ち着いて聞いてください。あの後、倉松さんが倒れた後、保奈美にだけ事情を説明して、私が抱えてここまで来ました。てっちゃんと鞍望さんにはバレていないはずです」


 紋芽さんの声が聞こえる、しかし、頭に入って来ない。


「まず、確認です。貴女はらっきょさんですね?」

「そう……です」

「そう。見つけたのが私で良かった。それと、大事な話です」


 そう言葉を切ると、紋芽さんが優しく俺を抱きしめてくれた。なんだ?なんで俺は抱きしめられている?


「貴女は女の子になりました」


 女神のような人が悪魔のような一言を呟いた。


 

ご安心下さい。この話はボーイミーツガールです。

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