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異世界帰りの元勇者は現実世界でも天才でした。  作者: 坂元たつま


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下の勇者と電磁の刃(アンダーグラウンド・バトル)

マサトは、香坂サヤが確保した「5分間の監視停止」という極限の時間の中で、王宮の地下第三層、王家の宝物庫跡を目指していた。彼の次元知性は、周囲の環境データを瞬時に処理し、敵の配置、武装、そして次の行動を予測し続けていた。

 闇の戦闘プロトコル

拘束場所である宝物庫跡の旧跡前には、ISTOの特殊部隊員が3名配置されていた。彼らは現実世界の最新技術で武装しており、この異世界では最強の兵器と化す。

マサトの脳内シミュレーションは、彼が異世界で培った全ての戦闘経験を呼び起こしていた。魔力は失われたが、彼の**「最適解を導き出す知性」と「反射速度」**は、現実世界のいかなる訓練をも超越していた。

(敵の武装は、電磁パルス(EMP)ライフル。命中すれば、体の自由を奪われる。さらに、彼らのヘルメットには暗視装置が搭載されている。こちらの視覚優位性は低い)

マサトは、通路の隅の暗闇に張り付いた。彼は、この世界の**「常識」と「物理法則」**を利用した、単純かつ完璧な戦術を選択した。

まず、マサトは通路の天井にある、古びた配水管を狙った。彼が手にした剣は、ラッセルから渡されたアウラ王国の王族が使う魔力強化された剣であり、魔力がなくても鋭い刃を持つ。

カシャン!

マサトが剣を投擲し、配水管の継ぎ目を正確に破壊した。長年使用されていなかった配水管から、錆びた水が一気に噴き出し、通路の床を濡らした。

特殊部隊員たちは、突然の水の噴出に警戒を高めた。彼らの暗視装置は、水蒸気と水滴の反射によって視界を大きく乱された。

「何だ!?視界が!」

その一瞬の隙を見逃さず、マサトは動いた。

ドォン!

彼は、噴き出した水しぶきの陰を走り抜け、先頭の隊員に肉薄した。

マサトの剣は、もはや魔力を纏わないただの金属の刃だったが、その速度と正確性は、常人の域を超えていた。彼は、隊員の首筋を狙うのではなく、彼らのヘルメットと首の連結部分にある通信機器を正確に破壊した。

「グッ!」

通信を絶たれた隊員は混乱し、EMPライフルを構えようとした。しかし、マサトは相手の行動を秒単位で予測していた。彼は、隊員のライフルを掴み、その重みをテコにして、隊員の体を通路の壁に叩きつけた。

ガンッ!

硬い装甲が鈍い音を立て、最初の隊員は意識を失った。

 科学の対決と、感情の予測

残る2名の隊員は、事態を瞬時に把握し、マサトに向かってEMPライフルを連射した。

バチッ、バチッ!

マサトは、彼の次元知性が計算した**「反射角度の最適解」**に従い、通路の角と、床に溜まった水たまりを、盾として利用した。

彼は、地面を蹴り、壁を垂直に走り上がった。銃弾はマサトの足元、水たまりを叩き、強烈な電磁パルスを発生させた。しかし、マサトはすでに空中におり、電磁パルスは地面を走るだけで、マサトに直撃することはなかった。

その代わりに、電磁パルスは通路の天井に走っていた古い電力線をショートさせた。

バチバチッ!

地下通路の照明が完全に落ちた。完全な闇。

ISTOの隊員たちは、暗視装置を頼りにしていたが、その装置自体がEMPの影響で一時的に機能不全に陥った。

「システムダウン!視界を失った!」

この時、マサトの次元知性は、周囲の音の反響と空気の僅かな振動を解析し、二人の隊員の位置を完璧に特定していた。魔力は失っても、彼の脳は最強のレーダーとして機能していた。

マサトは、残る二人に、もはや剣を使わなかった。彼は、この世界の科学では理解できない、異世界の戦闘術を用いた。

彼は、一人の隊員の背後に音もなく回り込み、頸動脈に異世界の秘孔を突くように、手刀を打ち込んだ。

「アッ…」

二人目の隊員は、音もなく崩れ落ちた。

最後の隊員は、混乱の中でライフルを乱射した。マサトは、その銃口から放たれるEMPを避けながら、隊員の腕を掴んだ。そして、彼の身体の関節の構造を計算し、最も簡単に無力化できるポイントに、体重と慣性を集中させて一本背負いを決めた。

ガシャン!

最後の隊員は、天井の低い通路に叩きつけられ、沈黙した。

戦闘時間は、わずか28秒。香坂サヤが確保した5分間の猶予の中で、マサトは最初の関門を突破した。

 マリアの解放と、転送ビーコン

マサトは、特殊部隊員が警備していた扉を開け、内部へ踏み込んだ。

部屋の中央には、王家の古い紋章が描かれた台座があり、その奥に、マリア王女が、高周波シールドの檻のような装置の中に拘束されていた。

「マリア様!」

マサトが駆け寄ると、マリアは涙をこらえた笑顔を見せた。

「マサト様!やはり、あなたは生きていてくださったのですね…!」

マサトは、拘束装置を覆う高周波シールドを剣で斬ろうとしたが、剣は弾かれた。

「ダメだ。このシールドは、この世界の魔力障壁とは違う。現実世界の周波数で稼働している」

その時、マリアは静かにマサトに語りかけた。

「マサト様。この装置の解除コードは、王家の紋章に隠されています。そして、この部屋は、次元の特異点そのものです」

マサトは、部屋の中央にある紋章の台座に目を向けた。その紋章は、彼のネックレスと同じデザインだった。

「この部屋が、王都の特異点!?」

マサトは、紋章の周りの装置を解析した。そして、それがISTOが設置した転送ビーコンであることを理解した。このビーコンこそが、ISTOの次の本格的な部隊を、王都の中心に呼び寄せるためのアンテナだった。

(ビーコンを破壊すれば、ISTOの計画は一時的に崩壊する。しかし、それを破壊する前に、マリア様を救出する必要がある)

マサトは、王家の紋章の台座に手を触れた。彼の次元知性は、紋章が発する微細な周波数から、解除コードの**「論理的な配列」**を読み解き始めた。それは、この世界の科学では理解できない、古代の魔術的な暗号だった。

 偽りの指令と、香坂の葛藤

その頃、地下研究室で待機していた香坂サヤの通信機に、ノイズ交じりの音声が入った。

「サヤ!応答しろ!マサトはどこだ!すぐに研究室へ戻れ!」

それは、**偽のマリア(リディア・ヴェルナー)**からの通信だった。

「リディア…」香坂は、その声に強い憎悪を覚えた。リディアは、香坂が異世界にいた時、香坂の最も大切な研究成果を横取りし、ISTOでの地位を築いた張本人だった。

「早く戻れ、サヤ。私たちが作ろうとしている**『次元の平和』**は、あなた一人の感情で崩壊させるわけにはいかない。マサトの知識は、我々が管理すべきものだ」

香坂は、静かに答えた。

「リディア。あなたの言う平和は、**『支配』**よ。マサトは、あなたが知っている迷人とは違う。彼は、愛という、あなたが理解できない力で、次元の壁を破った。私は、もうあなたの管理下には戻らない」

香坂は、通信機を叩き壊し、マサトの救出成功を信じて、人工魔素炉のデータを保護する作業に戻った。彼女の5分間の猶予は、残りわずかとなっていた。

 解除されたシールド

マサトは、紋章の古代の暗号を解読し終えた。その解除コードは、驚くほど単純なものだった。それは、**「王女の心臓の鼓動と完全に同期した、勇者の心拍数」**という、感情的なトリガーを必要とするものだった。

マサトは、剣を置き、拘束装置のパネルに手を触れた。そして、マリアの鼓動と、自分の鼓動を、次元知性によって完璧に同期させた。

カチッ。

高周波シールドが解除され、マリアはマサトの腕の中に飛び込んだ。

「マサト様…!」

「マリア様、ご無事ですか!」

しかし、二人に感傷に浸る時間はなかった。マサトは、解放されたマリアを連れ、転送ビーコンである紋章の台座に、最後の剣を叩きつけた。

ガシャーン!

転送ビーコンが破壊され、高周波のノイズが地下通路全体に響き渡った。ISTOの追跡計画は、一時的に阻止された。

「急ぎましょう、マサト様!偽りの王女が、王都で軍隊を動員しています!」

マサトは、マリアの手を引き、地下の暗闇を駆け上がった。彼の次元知性は、地上での偽マリアとの対決と、その後の行動の**「次の最適解」**を計算し始めていた。

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