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異世界帰りの元勇者は現実世界でも天才でした。  作者: 坂元たつま


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次元の揺らぎと、偽りの王女(ディメンション・クライシス)

マサトと香坂サヤの研究が最終段階に入り、人工魔素炉の小型化と次元の扉の安定化が目前に迫る中、彼らが最も恐れていた事態が、現実のものとなろうとしていた。ISTOによる追跡部隊の侵入である。

地下研究室で次元接続シミュレーションを行っていたマサトは、装置の異常な反応に気づいた。

「香坂さん!データを見て!アウラ王国の魔素濃度が、広範囲で不安定になっている!ただの気象現象ではない、これは人為的な次元の揺らぎだ!」

マサトの次元知性は、その揺らぎのパターンが、ISTOの**「特異点強制起動プロトコル」に酷似していることを即座に解析した。ISTOは、マサトが特定した三箇所の特異点のうち、最も不安定な辺境の火山地帯**を標的に、強引に次元の扉を開こうとしていた。

「半年という予測より早すぎる!彼らは人工魔素炉のプロトタイプを解析し、次元航行に必要な時間を短縮したんだ。おそらく、先遣隊が来ている!」香坂サヤは顔色を変えた。彼女はISTOの非道なやり方をよく知っていた。

「先遣隊の目的は、俺たちの場所を特定し、本格的な追跡部隊を迎えるための転送ビーコンを設置することだ。それを阻止しなければ、王都モーゼは危険に晒される!」

マサトは、すぐにラッセルへ連絡を入れた。

「ラッセル!火山地帯の特異点だ!ISTOの部隊が侵入する!すぐに逆位相共鳴装置を起動させろ!」

 王都の異変と、偽りのマリア

しかし、ラッセルからの応答は、マサトの予想とは全く異なるものだった。通信から聞こえてきたのは、緊張感のない、穏やかなラッセルの声だった。

「マサト、落ち着け。火山地帯の異常は、通常の魔素の乱れと判断された。そして、それよりも重要なことだ。マリア様が、王都の広場で、全軍の指揮を執ると宣言された。 何か、緊急の軍事行動をされるようだ」

マサトは、その言葉に違和感を覚えた。マリアは、王として冷静沈着であり、マサトとの戦略会議なしに独断で全軍を動かすようなことはしない。そして、何よりも彼女の心は、マサトの側にあり、無謀な行動はしないはずだった。

「待て、ラッセル!マリア様は今、どこにいるんだ!?」

「…マサト、どうしたんだ?マリア様は、今、ここにいる」

その時、ラッセルの声の背後から、もう一つのマリアの声が聞こえてきた。その声は、優しく、しかしどこか冷たい響きを持っていた。

「ああ、勇者マサト。お久しぶりね。久しぶりに、あなたと王都の皆に会えて、本当に嬉しいわ」

マサトは、全身に寒気が走るのを感じた。

「香坂さん…!これは、マリア様ではない!マリア様の心拍数は、俺の解析では常に穏やかだ。この声の周波数は、喜びと、同時に激しい敵意を隠している!」

マサトが、本当のマリアの居場所を尋ねようとした瞬間、通信がノイズと共に途切れた。

香坂サヤは、事態の深刻さを即座に理解した。

「ISTOの先遣隊は、火山地帯から侵入したのではない。彼らは、王都の中枢を狙ってきたんだ。最も危険な特異点、**『古代遺跡の地下』から。そして、彼らは『変装』**という、最も卑劣な手段を使った」

「偽のマリア…!」

マサトは、真のマリアが、すでに偽のマリア、すなわちISTOの特殊部隊によって拘束されている可能性が高いと判断した。そして、偽のマリアは、王女の権限を使い、王都の軍隊を混乱させ、マサトの動きを封じようとしている。

 偽装された王女と、真実の場所

マサトと香坂は、地下研究室の出口を封鎖し、状況を再構築した。

「偽のマリアは、おそらく**『特殊な光学迷彩』か『高精度な変声機』**を使っている。魔力を持たないISTOの技術は、その再現度が異常に高い。ラッセルやソフィアさえも、騙されているかもしれない」

「問題は、本物のマリア様がどこにいるかだ」

マサトは、再び**マリアの「愛の波動」**を感知装置に接続した。偽のマリアの声を聞いた後、本物のマリアの波動は、微かだが、極度の不安と、助けを求める強い想いを示していた。

「香坂さん!波動が、王宮の地下深くに集中している!しかも、特殊な高周波シールドで閉じ込められている!ISTOの技術だ!偽のマリアが、王都の皆を欺いている間に、本物のマリア様は、王宮の地下、俺たちの研究室に近い場所に拘束されている!」

ISTOの狙いは、マサトの研究成果、そしてマサト自身を捕らえることだった。彼らは、王女を人質に取り、マサトを呼び出すつもりだった。

 迎撃プロトコル

マサトの次元知性は、この状況で最も効率的かつ安全な行動を瞬時に計算した。

最適解オプティマル・アクション

1. 偽装: 偽のマリアの支配下に置かれた王宮内の軍隊と接触することを避ける。

2. 救出: 地下通路の構造を解析し、香坂の知識を使ってISTOのシールドを突破し、マリアを救出する。

3. 反撃: マリアを安全な場所に移した後、王都の特異点に仕掛けられた転送ビーコンを破壊する。

「香坂さん、地下通路の構造は?」

「ISTOの機密データと照合する。王宮の地下には、古い秘密の排水路がある。それを使えば、監視カメラを避け、マリア王女が拘束されていると思われる区画に接近できる」

マサトは、研究室の壁に隠されていた、異世界帰還後にラッセルから預かっていた剣を取り出した。それは、彼の魔力は失われていても、彼自身の**「勇者としての覚悟」**を示すものだった。

「俺が、マリア様を救出する。香坂さんは、研究室に残って、俺が地下に入った後、排水路の監視システムを5分間停止させる手配を頼む」

「承知したわ。でも、気をつけて、榊原くん。相手は、ISTOの最精鋭。彼らは、あなたの感情的な弱点を突いてくる」

「知っています。だが、俺はもう逃げない。マリア様との約束は、必ず果たす」

マサトは、研究室の扉を静かに開け、闇に包まれた地下通路へと、単身で潜入を開始した。

 迷人の過去と、王家の罠

一方、王都の広場では、偽のマリアが、王女の持つ権限を使い、軍隊を召集していた。彼女の目的は、王都を封鎖し、マサトが王宮から逃げ出すのを阻止することだった。

広場に集まった兵士たちの前で、偽のマリアは優雅に演説していた。その姿は、本物のマリアと寸分違わない。しかし、その瞳の奥には、冷酷な**「現実世界」の知性**が宿っていた。

偽のマリアの正体は、ISTOの特殊作戦部門の最高責任者、リディア・ヴェルナー。香坂サヤの元同僚であり、かつて次元航行技術の開発を共にした人物だった。

リディアは、ラッセルに命じて、王都の全ての交通を遮断させた。

「ISTOは、王家の秘密を知っている。この世界は、迷人の知識がなければ、魔王に滅ぼされていた脆い世界だ。我々が管理しなければならない」

リディアは、マリアを拘束した地下の部屋の、王家の古い紋章を見つめた。その紋章こそが、マサトが以前、ネックレスの解析で見つけた**「次元の楔」**の術式そのものだった。

王家は、次元の歪みを利用する術式を、古くから知っていた。

ISTOが本当に狙っていたのは、マサトの「人工魔素炉」だけではない。彼らは、アウラ王家が持つ、「次元の扉を開閉する古代の知識」、そしてその知識を持つ王女自身を、永遠に支配することだった。

マサトの孤独な戦いは、彼自身の過去、そしてこの異世界の歴史そのものと、対峙することになった。

 闇の中の攻防

マサトは、香坂の停止させた監視システムの隙を突き、王宮の地下通路を駆け抜けた。彼の次元知性は、周囲の空気の流れ、遠くの足音、そして微かな金属の音までを解析し、敵の位置を特定した。

(拘束場所は、地下第三層。王家の宝物庫の旧跡だ。警備兵は3名。ISTOの特殊部隊の反応だ。武装は、この世界の武器ではない、現実世界の電磁パルス兵器だ!)

マサトは、異世界の剣を抜き、闇の中で待機した。彼は、異世界での戦闘経験を、今、この現実世界のテクノロジーを持つ敵に対して、再び発揮しなければならない。

彼の脳内には、無数の攻撃シミュレーションが展開されていた。

(通路は狭い。電磁パルス兵器の射角は限定される。初動で一人を無力化し、残りの二人は、通路の角を利用した反射光を使った撹乱で対応する。成功確率は、98.9\%)

マサトは、香坂の**「5分間の監視停止」**という時間制限の中で、マリア救出と転送ビーコン破壊という二つの任務を遂行しなければならなかった。

王都の地下で、異世界の勇者と、現実世界の兵器が、静かに火花を散らす準備を始めていた。

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