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異世界帰りの元勇者は現実世界でも天才でした。  作者: 坂元たつま


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兵器化への誘惑と知恵の防壁(ウェポン・オブ・ディメンション)

マサトが異世界への微細な情報伝送に成功した翌日、彼の研究室は異様な熱気に包まれた。

ISTOのトップ、総括理事・エドワード・ギルマンが、アメリカ本土から緊急でT大学に乗り込んできたのだ。その隣には、武装した私設の警備チームが控えており、マサトの研究室は完全に隔離された。

ギルマン理事は、香坂サヤの報告書と、マサトの「次元接続理論」の断片を基に、彼の研究の真の価値を嗅ぎ取っていた。

 兵器化への誘惑

ギルマン理事は、マサトの前に座ると、一切の挨拶もなく本題に入った。

「榊原マサト君。君が昨日行った実験についてだ。あの『微細な次元の窓』の技術を、軍事分野に応用する。これが、ISTOの決定だ」

マサトは冷静に応じた。「私は、この技術をエネルギー問題の解決のために開発しています。軍事利用は私の目的ではありません」

「目的など、もはや関係ない」ギルマンは、冷酷な笑みを浮かべた。「君の技術は、世界を変える。例えば、あの『次元の窓』を、核弾頭の転送に利用すればどうなる?敵国の首都の上空に、一瞬で核を出現させられる。あるいは、それを拡大し、**『局所的な空間断裂兵器』**として利用すれば、地球上のあらゆる防御システムは無力化される」

ギルマンの言葉は、マサトが異世界で使っていた「空間断裂」という、最強の魔法を彷彿とさせた。彼の「知恵」は、この世界の最強の**「兵器」**として認識されたのだ。

「ISTOは、君の『次元航行』の研究を、軍事研究プロジェクトとして、無制限の資金で支援する。君には、世界を救う前に、この世界の抑止力となってもらう」

それは、マサトにとって最も避けたい未来だった。彼の力が、再び戦争の道具にされる。

隣にいた香坂サヤは、口を開くことを許されず、ただ静かにマサトを見つめていた。彼女の表情は、苦悩と、過去の記憶に苛まれていることを示していた。

 知恵による防壁

マサトは、即座にギルマン理事の提案を拒否すれば、研究が凍結され、自分がISTOの地下施設に隔離されることを計算した。彼の目的は、研究を継続し、次元航行の技術を完成させること。

(拒否はできない。ならば、論理的に不可能だと思わせるしかない)

マサトの次元知性が、この状況を打開するための最適解を導き出した。

「ギルマン理事。ご提案は非常に魅力的です。しかし、あなたの仰る『兵器化』は、現在の私の理論では不可能です」

ギルマンは眉をひそめた。「なぜだ?君は空間を操作できるのだろう」

「私の行った実験は、**『情報の伝送』**です。物質、特に核弾頭のような高密度の物体を転送するには、エネルギーが根本的に不足しています」

マサトは、ホワイトボードに向かい、猛烈な速度で数式を書き始めた。それは、この世界の物理学と、異世界の魔素理論を融合させた、**『転送に必要な次元エネルギーの臨界点』**を示すものだった。

「現在のT大学の設備では、物体を転送するために必要なエネルギーは、$10^{20}$ジュール、すなわち、地球全体が消費する一年分のエネルギーに相当します。これを兵器として利用するには、全人類を犠牲にする覚悟が必要となる」

マサトは、**「技術的な不可能」**という、最強の防壁を提示した。彼の数式は完璧で、ISTOのどの科学者にも反論の余地を与えなかった。

「さらに」マサトは続けた。「次元の窓の安定性です。この窓は、**『送り手が対象に抱く、強い感情(共鳴)』によって初めて開かれます。これは、異世界の魔法(神域召喚や次元接続)の基礎です。私が昨日、異世界に波動を送れたのは、マリア様への強い想いがあったからです。核弾頭に『愛』**を込めることはできますか?」

マサトは、彼の**「感情的な弱点」を、逆に「兵器化を阻む、技術の安全装置」**として利用したのだ。

 監視者の転身

ギルマン理事は、マサトの論理と、その数式の完璧さに反論できなかった。彼らが求めているのは、すぐに使える兵器であり、全地球のエネルギーを必要とする非現実的なものではない。

「…ふむ。わかった。兵器化は、当面見送る。しかし、君の次元エネルギー蓄積の研究は、兵器利用に転じる可能性がある。引き続き監視を続ける」

ギルマン理事が退室した後、研究室にはマサトと香坂サヤだけが残された。

香坂は、マサトに近づき、静かに言った。

「見事だったわ、榊原くん。あなたの『感情』が、ISTOの欲望を食い止めた。あなたの知性は、私たち迷人の最大の武器ね」

「あなたの過去の経験が、俺にこの方法を選ばせました」マサトは答えた。「ギルマン理事は、俺の感情的な弱点を利用する前に、俺の科学的な論理で潰せると判断した。これが、この世界の戦い方です」

香坂は、深い溜息をついた。「私は、この組織の矛盾に耐えられずにいた。だが、あなたは違う。あなたは、ISTOのシステムの中で、希望を創り出そうとしている」

香坂は、マサトに、一枚の紙を差し出した。それは、T大学の敷地内に存在する次元特異点の詳細な座標と、過去の発生履歴が記された、ISTOの最高機密情報だった。

「これは、私が長年かけて収集した、ISTOの**『次元の管理』の全てよ。この情報があれば、あなたは転移の最適解をより早く導き出せる。…私を、あなたの真の共同研究者**として使って」

香坂サヤは、自らの過去の過ちを乗り越え、マサトの「世界の変革」という目標に賭けることを決意した。

マサトは、その機密情報を受け取り、静かに頷いた。彼の孤独な戦いに、ついに信頼できる仲間が加わったのだ。異世界でマリアたちと共闘した時のように、彼の知性は、再び最大限の力を発揮し始める。

彼の次の目標は、ギルマン理事に提示した**「次元転送のエネルギー臨界点」を、香坂の持つ機密情報と、マリアのネックレスの力を使って論理的に覆す**ことだった。

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