表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界帰りの元勇者は現実世界でも天才でした。  作者: 坂元たつま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/38

女神の涙と再会への一歩(ティアーズ・オブ・ディメンション)

マサトの問いは、香坂サヤの胸に突き刺さった。彼女は一瞬で冷静さを失い、その動揺はマサトの次元知性に完全に捉えられた。彼女が長年隠し続けた過去、すなわち、彼女自身がかつての**迷人まよいびと**であったという真実を、マサトは論理的な推論だけで暴き出したのだ。

「…あなたが、どこまで私の過去を推測しているかは知らないわ」

香坂は、顔を覆い隠すように片手で額を押さえ、深く息を吐いた。その仕草は、これまでの冷徹な科学者ではなく、過去の重荷に耐え続けてきた一人の人間のものであった。

「そうよ。私は迷人だった。2001年に転移し、2004年に帰還した。あなたが『勇者』と呼んだものと同じ立場よ」

香坂は、研究室の窓際に立ち、夜の闇に浮かぶ東京の光を見つめた。その光は、マサトがマリアに語った「星空のようだ」という言葉とは裏腹に、彼女には冷たく、無機質なものに見えていた。

「私がいた世界には、『女神』と呼ばれる存在がいたわ。彼女は、私たち迷人に力を与え、魔王を討伐するよう求めた。私は、その要求に応え、魔王を討った。しかし、帰還の代償として、私の愛した故郷(異世界)は、女神の力で完全に封鎖された。二度と、誰も行き来できないようにね」

香坂の声は震えていた。

「ISTOは、私を回収した後、私の知識を利用して、**『次元特異点の管理』と『迷人回収プロトコル』を確立した。目的は、あなたのような『超越者』の知識を、この世界の技術発展のために利用すること。そして、私が経験したような『次元戦争』**を、この世界に持ち込ませないこと。それが、私が与えられた使命であり、過去の償いよ」

彼女の過去は、マサトの未来の鏡だった。マサトはマリアの命を守ったが、香坂は故郷を永遠に失った。

マサトは、静かに問うた。

「では、俺の問いに答えてください。あなたが持ち帰った知識は、本当にこの世界の発展に役立っていますか?それとも、ISTOの権力維持に使われているだけですか?」

「…両方よ。技術は発展した。だが、知識を独占しようとする組織の欲望もまた、肥大化した。ISTOの真の目的は、次元特異点を制御し、迷人をリソースとして利用し続けること。彼らは、次元転移を**『未来の資源』**と見なしているわ」

香坂は、マサトに向き直った。その瞳には、諦念と、わずかな希望が入り混じっていた。

「だからこそ、私はあなたを監視する。しかし、あなたを止めない。あなたが、私にはできなかった**『次元航行の自由』**を掴み取る唯一の希望だからよ。ただし、ISTOの目を欺かなければ、あなたは私もろとも潰される」

 次元航行への最初の成果

マサトは、香坂が自分と同じく**「管理からの解放」**を望んでいることを確信した。彼は、香坂を信じ、そして利用することを決断した。

「協力、感謝します。香坂さん。それでは、共同研究者として、あなたの知識が必要です。私が今、直面している問題は、**『次元接続の安定化』**です」

マサトは、即座に裏の研究の進捗を共有し始めた。

「このネックレスは、私の帰還の際に放出された魔素エネルギーを、極めて小さな**『次元のくさび』**として保持している。この楔は、異世界とこの世界が、まだ完全に断絶していない証拠です」

マサトは、自ら開発した超低周波シールドと、ネックレスの魔素波動を組み合わせた実験装置の解析結果を提示した。

「この楔を、この世界の次元特異点と共鳴させることで、理論上は**『微小な次元の窓』を開くことが可能です。ただし、持続時間は0.0001秒**。物体を転移させることは不可能ですが、情報を送ることはできる」

香坂は、マサトの理論の緻密さに言葉を失った。彼女が数十年間かけてISTOで研究してきたことを、マサトは数週間で超越していた。

「情報を…?どんな情報を送るつもりなの?」

マサトは、胸元のネックレスをそっと握った。

「私が、あの世界で最も大切にしていた人物、マリア様へ、**『私は無事に帰還した』という、わずかなメッセージを送りたい。それが、次のステップに進むための、俺の『覚悟』**の証明です」

 届いた波動

その日の夜。

マサトは、香坂の厳しい監視の下、地下の特異点に近い研究室で、最初の次元航行実験を開始した。

実験炉が稼働し、マサトのネックレスが共鳴を始めた。ネックレスの魔素と、特異点の空間の歪みが接触した瞬間、装置から白い光が閃光を放った。

「マサトくん!エネルギーレベルが危険域よ!すぐに停止して!」香坂が叫ぶ。

「大丈夫です!これは、マリア様の魔素が、この世界の理を一時的に書き換えている!計算通り!」

マサトは、その0.0001秒の間に、自らの心臓の鼓動と脳波を、最も強力な**『情報パケット』に変換し、次元の窓を通じて異世界へと放出した。それは、言葉ではなく、『生存の証』**としての、マサト自身の生命の波動だった。

閃光が収まると、装置は静まり返った。実験は、成功した。

【異世界・アウラ王国】

マルクス戦役から二年。マリア・フリードリヒ・アウラは、王宮の自室で静かに湖の絵を描いていた。彼女はもう、かつてのような強力な魔法を使うことはできないが、人々のために、王女としての責務を果たしていた。

マサトがくれた、あの約束の剣は、彼女の部屋に大切に飾られている。

その瞬間、マリアは胸に強烈な**『波動』を感じた。それは、まるで、失われたはずの愛しい人の鼓動**が、遠い場所から響いてきたような感覚だった。

マリアは、胸を押さえ、そっと目を閉じた。頬を、一筋の温かい涙が伝った。

「マサト様…あなたは、生きていらっしゃるのですね」

彼女は、マサトとの再会という、かすかな希望を、二年間、肌身離さず持っていた。そして、今、その希望が、遥かなる次元を超えて、彼女の心に届いたのだ。

【現実世界・研究室】

マサトは、静かにネックレスに触れた。ネックレスは、わずかに温かい熱を帯びていた。

「…届いたはずです」

香坂は、マサトの顔を見て、彼の確信に満ちた表情に、反論の言葉を失った。

「次は、あなたの番よ、榊原くん。ISTOは、すぐにあなたが次元の歪みに興味を持っていることに気づくでしょう。彼らの次の行動は、あなたの研究を、軍事利用へと誘導することよ」

マサトは、窓の外の夜空を見上げた。

「わかっています。俺の**『知恵』が、この世界で最も危険な『兵器』**だと。次は、この研究を軍事利用させないための、論理的な反撃を考えます」

マサトの戦いは、さらに複雑で、危険な局面へと入ろうとしていた。彼の最終目的である「マリアとの再会」と「世界の変革」のため、彼はこの知恵の戦いを勝ち抜かなければならない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ