#06 アイテムボックス!
バネバネのチャリンコミサイル!
ゴブぞうの育成。
まずはそれを目的にすると決めたら、やるべき事がはっきりしてきた。
「〈ウナギ食いてえ〉」
いつかウナギが食べられると信じ、ゴブぞうは黙々とスライムを狩り続けた。
ところで、ゴブぞうのような【書】の魔物が戦闘に敗れるとどうなるか、説明してなかったよな?
実は、負けたら消滅とかそんな重いペナルティはない。
でも戦闘不能ではあるので強制的に【書】に戻り、【書】の魔力でHPに余裕が出来るまでは休憩するという流れだ。
ちなみに俺は、いわゆる体力値を言うときにわざわざHPというゲーム的な値で説明している。
実はそれには、ちょっとした理由があるんだ。
それは、俺がホワイトルからもらったスキル【ステータス】の画面には体力という似て非なるパラメータがあるからなのである。
▽
体力は、いわゆる防御力、つまり守りに直結するようだ。
いや、完全に前世でのゲーマー経験に基づく憶測だがきっとそうに違いない。
また、そういう意味ではHPやMPは表示されないのが俺の【ステータス】スキルの欠点なんだ。
さあ。ゴブぞう。
こんな俺でもこれから長い間、頑張れ!
そして俺やマスターに、ラクをさせてくれよな。
「よし、じゃあ今日はこのくらいにしよう。ゴブぞう。たまにはお前に贅沢させてやるぞ」
「グルールググゥ?」
そして俺はパープの町にたまたまあったウナギ屋で、ゴブぞうにウナギを奢ってやった。
「〈ウナギうめえ!〉」
「はは。現金だな、コイツめ!」
「ゴブぞうの食欲はとどまる事を知らないチ。ほどほどにしないと、味をしめるチよ?」
「ギュルル~」
みんなでウナギ御膳を食べる中で、ベビドラだけはお茶漬けを啜っていた。
安上がりなやつ!
ま、だからこそマスターに大切にされてる特別な魔物なのかも。
なにせベビドラは、ウィスプよりずっとレアな魔物らしく、見つけるにはとんでもない歳月を要したらしい。
ベビドラは、ベビードラゴンの略。
マスターはそう言うが、つまりいずれはドラゴンに進化するんだろうか?
そもそも、見た目が変わるほどにテイムした魔物に変化があるのか、それすら謎だ。
▽●○●○
初心者の洞くつ。
余りにもサクッと紹介しすぎて、どこにあるのか説明してなかったな。
実はパープとタムソンの、ちょうど中間地点にあるんだ。
だからタムソンほど遠出しなくて良いし、たまに道場に通うにも最適な場所にあるって感じだ。
「しかし【アイテムボックス】、このスキルは神ってんな!」
生き物でなければ、そこらの土ですらグラム単位で収納する超絶収納空間スキル。
ひと言で表すなら【アイテムボックス】スキルはそんな存在だ。
しかも、スライムとはいえ結構な頻度で薬草をドロップしてくれる。
それを手軽に、大量に保存できるのが【アイテムボックス】という神スキルなんだ。
まあ最初こそ薬草を地道にストックしても、レベル3ゴブぞうでは【書】にこまめに戻し回復する必要があるレベルで弱かった。
だが今のゴブぞうのレベルは7。
アルファベットで表されたランク表示こそ変動はないが、明らかにレベル3より強くなってる。
▽
「おっ。またまたスライムの魔核をゲット~。やったぜ」
「グッル~」
また、忘れちゃならないのが魔核だ。
魔核になるとアイテム扱いになるらしく、【ボックス】に収納可能になる。
それを知ってようやく、前に受けたポイズン・トードの依頼を消化したほどだ。
え、忘れてただけだろって?
まあまあ。依頼人によっては本当、こっぴどく怒られる場合もあると思うと、無期限の依頼で良かったとは俺も安心してんだ。
え、しかも魔核じゃなく胃袋だったろって?
まあまあ。実際、そうだけどさ。
ニオイ消し魔法が【ボックス】の中じゃ常に効いてるから、うっかり腐ったリンゴを入れても連鎖的にカビるとかもなくて、また安心してんだ。
「レイジ。たまには依頼もこなさんと、またルルちゃまに怒られるチ」
「お、おす。マスター」
ルルちゃまっていうのは、グリーン・ロックの受付嬢であるルルエナさんの事だ。
実はルルエナさんは剣士でもあるらしい。
だから冒険者でもあると思うんだけど、ランクまでは知らない。
ま、おっとりしたルルエナさんの事だから、甘めに見てもCランクだろ。
▽●○●○
「ブ~。残念でしたね、レイジさん」
「Bランクですって? 流石に冗談でしょう」
「〈ウナギはAランクか?〉」
「こらぁ~。レイジは失礼チ、ゴブぞうは天然過ぎるチ」
なんだかんだで【書】が通訳してくれる限り、ギルドにも魔物がいてオッケーらしい。
って、今はそんな話じゃないか。
「レイジさん、最近は妹さんにべったりですけど……良いのですか? ジルくんのパーティーでもお仕事があるのでは」
デリケートな話題に、思わず背筋がびくってなった。
ああ、なんだか俺が悪い事をしたみたいで、腹が立つ。
「違うんですよ、ルルエナさん。実はジルとは……」
「おーい、ルルエナさん。相変わらずレイジくんと仲良しだね」
なんつー爽やかな勇者なんだよ!
「わあ、ジルくんだ。どうしたんですか?」
全くどうでもいいが、なんでルルエナさんってジルには「くん」、俺には「さん」で呼び分けるんだろう。
▽
「どうしたも何も、レイジくんが心配に決まってるじゃないですか!」
うん。いかにも勇者って感じで正論ぶってるけどな、追放したのはお前だ、お前。
「ジル。あのさ……」
「ジルくんって、優しいんですね」
ぱぁ~としたお花畑が見えるぞ。
俺には分かる。ルルエナさんの頭上辺りに注目するのがコツだ。
「いやあ、そんな事はないけど。おっと、そろそろ次の依頼に行かないと。レイジくん、キミも頑張れよ!」
「な、なんだと」
言うだけ言って、颯爽とジルは去ってしまった。
追放されるまでは良いヤツに思えてたのに、なんでだか急に全発言が腹立たしい。
「あ、あのー。レイジさん?」
わなわなしてる俺を見かねてか、ルルエナさんがじっと俺の顔を覗き込んだ。
なんだよ、励ましなんていらないぜ?
「はっ……!〈汝、女神に選択を迫られる。望む世界を心に決めよ〉」
「ル、ルルエナさん?」
なんだ?
ルルエナさんが見たこともないほどに冷たい表情になって、でもそれでいて神々しい感じで何か言ったぞ。
▽
「ご、ごめんなさい。私、何かまた変な事を?」
「えっ、あ、いやあ、その」
「ふむ。〈予言の女神に愛されし乙女〉、まさかアナチャだっチとは」
俺がしどろもどろになっているそばで、マスターが謎の的確っぽいフォローを入れてきた。
「予言の女神……。すみません、私には心当たりがありません」
ルルエナは申し訳なさそうにマスターに謝った。
どうやら本当に全く心当たりがないらしいのは、表情を見れば一目瞭然だ。
「ま、まあまあ。知らない事は知らないで良いじゃないですか。な、マスター?」
「ふむ。まあ、時と場合によるっチ」
なんでそんなタイミングで深みある感じを出すかな?
まあ、なんでもテンポ良くしたがる俺が微妙なのかも。
「ふふ。マスターちゃんは優しいんですね」
ルルエナさんはマスターに向かって天使、いや、それこそ女神みたいに微笑んだ。
(キレイだ……)
うっかり見とれてしまった俺だが、一拍間を置いてから重要な事に気付いた。
――ルルエナさん、マスターを名前だと思っているッ!?
▽
まあ、いっか。
「よし、マスター。夜も遅いし、明日に備えて俺たちは寝ましょう」
「うむ。ルルちゃまも早く休むチよ」
「ふふっ。ありがとうございます!」
気付くと、ゴブぞうもベビドラも勝手に召喚を解除していた。
な、なんか俺たちって魔物の扱いヘタ?
とか思ってしばらく悩んでたけど、どうやらテイマーってそんなものらしい。
「魔物を制御しすぎると、単純にアタチャたちの魔力が足りないチ。あれくらい自由にさせるのは、そこまで考えて作られたテイマーのシステムだチ」
「へえ。そうなんですか」
感心しつつ、俺たちは眠る事にした。
ん、俺の客室は元からシングル部屋だ。
不死だからな。いわゆるキワモノ扱い。
よって今は、俺が布団でマスターをベッドに寝かせてる。
くー。泣けるだろ?
ま、でも別にそれだけだ。




