#07 テイマー女神の過去
食べ放題とかの文化が行き渡れば平和?
マスターはいつも早起きだ。
俺もコンスタントに6時には起きるが、その頃にはベビドラと共に既に何かオリジナルの体操をしている。
「おはようございます、マスター!」
「うむ、おはよっチ」
「ぎゃぎゃる~」
え、俺も体操に参加するのか、だと?
しないけど。
だって体操だよ?
体操って、体の固い人がやるヤツだよ。俺、不死だから体の柔らかさ関係ないし。
「うなしっし、はっみゆみ。……よし、おしまいっチ」
謎の掛け声はマスターの癖みたいなもので、体操すると思わず出てしまうらしい。
そんなマスターだが、前に雨無垢の森で言っていた事を俺はほんのりと気にしていた。
そう、マスターは本当に女神なのか、という事をそろそろ俺は探っていく事にしたのさ。
▽
「あの、そう言えばマスターって百歳の新米女神なんですよね?」
「うむ。いかにもだチ」
「もし良かったら、昔の武勇伝の一つでも聞かせてもらえませんかね?」
なんか微妙に聞きたいのはそれじゃない気もするが、まあ、いいか。
「う、うむ。武勇伝だなチ。えっと……」
あるらしい。
「そうそう。あれはちょうど、九年前のこんな季節だったチ」
ちょうどって言う割に九年って中途半端だな、とは思ったが、細かいツッコミを入れたらキリがないのでざっくりまとめる。
マスターがベビドラをテイムして半年。
その頃、とんでもない悪い魔物が出てきて、それをやっつけたらしい。
おしまい。
(短いし大まかすぎる!)
俺は心の中でツッコミを入れたが、ざっくりまとめなくてもやたら長いだけでほぼこんな内容なのだ。
▽
魔物の名前はザンコック。
残酷からマスターがもじって付けた名前らしいが、女神の権力なのか今ではそれがヤツの公式な名前らしい。
見た目は黒くて大きいゴブリンだそうだ。
だから俺、そいつはゴブリンだと思ってる。
でもまあ、九年前のベビドラが苦戦したらしいから強いのかな?
九年前ならベビドラがレベル2とかだったオチな気がしないでもないが。
「アタチャがこんな姿になったのも、ザンコックのせいなんチ」
「へ、へえ」
マスターが今の姿になったのは俺が雨無垢の森で見つけるちょっと前らしく、つまり九年がかりの因縁みたいだ。
そうなってくると、見た目がゴブリンなだけで実はかなり厄介なヤツなんだろうなと思えてきた。
▽
「というか、もしかしてザンコックって雨無垢の森にいません?」
「どうして分かったチか?」
そ、そうなんだ。
じゃあ俺、そんなにヤバいゴブリンに遭わなくて超ラッキーだったんだな。
まあ、不死だからどうでもいいけど!
「アタチャもザンコックも、元は雨無垢の森の奥で仲良く暮らしていた友だちだったのチ」
だが、ザンコックはやがて魔物の仲間を求めるようになる。
そして自らと同じくらい強いワイバーン、ガルーダ、そしてゴーレムで魔物四天王を結成した。
そしてマスターは、ザンコックたちに雨無垢の森の奥から追放され、女神の力を封印された上に中途半端な場所に野晒しにされていたのだ。
▽
「じゃあ、マスターって俺と同じじゃないですか!」
「え、何がだチ?」
理由は雲泥の差があるが、俺もまたパーティー追放されたという意味ではマスターの気持ちは痛いほど分かるのだ。
「こらぁ~。いつアタチャが四天王になったのチ?」
「えっ、違うので?」
違うらしい。
よし、それじゃあ今日もスライム狩りに出発だ。
「気にならないチか。残りの四天王の居場所」
「えっ、別に近寄らないから大丈夫す」
食事を終えたらすぐに出発できるよう、俺は着々と旅支度を整えていく。
まあ、ほぼ【アイテムボックス】に必需品をぶっこむだけだがな。
「初心者の洞くつに、ゴーレムがいるチよ」
▽
はい?
いや、いやいやいや。
聞いてない、聞いてないですけど。
「マスター、冗談はよしてください。かれこれ十日は狩りしてるのに、全然現れないじゃないですか!」
そう。俺はかれこれ十日は狩りしてるのに、全然現れないのだ。
「で、でもいるのチ。気配があるチ」
「えー、気配ですか。じゃ、きっと気のせいですって」
うん、気配じゃあな。
幾ら女神様だろうと、気配だけで何もかも分かるわけないっていうか。な?
というわけで、朝食を食べ歯を磨いた俺は、マスターが睨むのも構わず初心者の洞くつに出発した。
「うむ。まあ、なんとなればベビドラである程度はなんとかなるチがな……」
マスターも渋々、着いてくる事にしたようだ。
▽●○●○
うん、いつもの洞くつ。
いつものスライムだ。
「ぷるんっぷ」
瑞々しさと愛嬌のある鳴き声で、なんだかんだ倒すのが惜しいスライムたちを最終的にはカネのため、ゴブぞうで蹂躙していく。
「ググッグル~」
いつだか忘れたが、新たなスキル【パワー・チャージ】を獲得したゴブぞう。
最近じゃあスライムなんて一撃みたいだから全く意味を成さないが、自分自身の攻撃力を増加させるらしい。
「うむ。やはりゴーレムは昨日辺りから確実におる。レイジ、帰るチ」
「いや、マスター。考えすぎですって!」
「ゴガガーゴ……ギゴ……ガゴガガ」
「いや、マスター」
「レイジ! 後ろだ」
俺はゴーレムに背後から押し潰された。
▽
「……」
本当にね、俺って不死だけど今は紙みたいにペラペラで発声器官が機能しないんだ。
まあ、暫くしたら自己再生でなんとかなるけどね。
「〈愚かな不死者め。なぜに絆の女神を助けるのだ〉」
どうやら【書】の謎に粋な計らいでゴーレムの言葉も分かる。
ちなみに【書】は無敵チート持ちらしく、俺が紙になってもしっかり本だ。
ただな、言葉が分かったって今、俺は紙だから発声器官が機能しないんだ。
「〈よくもご主人様を! ウナギ食わせろー〉」
ご、ゴブぞう。
どんだけウナギ食いたいんだよ!
▽
「ギギガ!」
うわっ。紙になっちゃうかもしれない勢いでヤツの拳がゴブぞうに直撃した。
うん?
ああ。さっき俺に対してはゴーレムのヤツ、なぜか全力でボディ・プレス。つまり体落としだったよ。
ゴブぞうは敢えなく戦闘不能になり、【書】に戻った。
「うむ。よし、ベビドラ行けチ!」
すかさず、マスターは翼の杖でベビドラを召喚した。
「〈ミュス様。お茶漬けはまだですかのう〉」
ベビドラがしゃべるの、初めて聞いたなあ。
そして、お前はお茶漬け派なのかよ。あと口調が老人!
「ベビドラ、ゴーレムの弱点は水と思うけど出来ることあるチか?」
指示でなく質問ですか。しかも微妙に長い。
「〈お茶漬けなら水分ありますけど〉」
う、うん。そうだけども。
▽
ちなみに今までのマスターとベビドラの会話は、ゴーレムからの途轍もない猛攻を掻い潜りながらで行われていた。
ベビドラだけでなく、マスターも相当の身のこなしだ。
まあ、そうでなかったらザンコックだかパンケーキだかに裏切られるでは済まなかっただろうけどね。
「ふう、ふう。……ベビドラ。我が左腕に宿れチ」
「ぎゃ~る~」
マスターがそう指示を出すと、マスターの左腕とベビドラが同化した。
「す、すげえ」
胸辺りまで紙から戻った俺は、思わず感動の声を上げた。
いやあ。実際、テイマーって神職業だな。
極めれば極めるほど何でも出来る、それをマスターはこうして姿で示してくれる。
「あ、俺はあくまで【魔物使」
ぐしゃ。
ふう。声帯が一時的に死ぬからやめて欲しいのだがな。
「ベビドラ・バーストぉ!」
竜の形をした未来型の銃みたいになったベビドラの口にエネルギー粒子みたいなのが集まる。
それがやがて光線となってゴーレムに発射された。
そんなゴーレムはめっちゃ遠くまで吹き飛んだわけだが、その光線こそがベビドラ・バーストなんだろう。
紙の俺も、風圧で舞い上がれたので目にする事が出来た。
なんか知らんが紙でも目は機能してたからだ。




