#04 最低騎士はケンカ腰
カニクリームコロッケはコロッケと違いモノマネ出来ないという時代がいつまで続くかだよね!
バーヌ・ゾッヒエ。
そう言えばアイツは今ごろ、どこで何をしてるんだろう。
俺にそんな疑問が降って湧いた。
ただ、一瞬でその疑問は消えた。
知らない事を延々と気にするほど、時間の無駄もない。
「マスター。マスターはパーティー追放とかされた事……ありますか?」
「アタチャはパーテーなんて馴れ合いを嫌う、孤高の存在だチ。ベビドラがいれば、寂しくないチ」
それはそれで、ゴブぞうなどがカワイソウだ。
ちなみに今の時点で【魔物の書】には、ゴブリンとスライムが満席とウィスプが一匹のみだ。
「あっ、もしかしてマスター」
俺はそこで、マスターの寛大な慈悲に気付く。
「残りの魔物は、テイマーとして俺に任せてくれるんですか?」
「えっ。う、うむ。実はそのつもりで【書】を与えたんチ。大切にするチよ」
なんとなく挙動が不審になった気もしたが、まあ気のせいだろう。
調子に乗った俺はマスターに更なる交渉を持ちかけた。
「つーか、テイマーってなんかダサくないですか。俺、名乗るならもっとイケてる肩書きが良いです」
「ふむ。好きにするチ」
▽
マスターには、あっけなく了解を取り付けた。
ただ、職業の名前ってそもそも適当に名乗って良いのか?
こちらでは冒険者ではあるが、勇者や魔導師みたいな肩書きらしい肩書きって俺、持ってない。
「マスター。戦士とか騎士みたいな職業に就くには、どうしたら良いので?」
「知らないチ。じゃあ、まずテイマーって何だチ?」
えーー!
心の雄叫びは、俺の中では宿に響く勢いだ。
「で、でも、雨無垢の森ではテイムで通じましたよね?」
「なんとなく察する。それも女神の使命チ」
じゃあなんでテイマーは分からないんですか、マスター!
だが確かにテイマーという固有名詞は森では使わなかった気もする、と思い出した俺は明言を避けた。
『ご主人様。だったら魔物師なんてどうです?』
▽
流れをぶった斬り、【書】が現れた。
「おい、【書】よ。なんで呼ばないのに出てきた?」
『それは、俺様が呼ばれないと出てこれない契約じゃないからですぜ』
契約オプション的なヤツかあ。
なーるほどね!
「じゃあ、それはいいや。ところで魔物師って?」
『へえ。テイマーがダサいなら横文字でなく漢字で行きやしょうかと』
頑固親父どころか任侠みたいなところあるな、コイツの物言い。
だがそうは思いつつも、コイツが俺の【書】。巡り合わせなので、成り行き上で仕方ないのだ。
「魔物師か。魔物師、魔物師……。なんか足りないかな」
『いっ。意外と辛口ですな!』
「よし、決めた。【魔物使い】。それが俺の職業だ!」
▽●○●○
「いぇりひひ。騎士様、騎士様あ。こんな所に金持ちそうなガキがいますぜ」
雨無垢の森でのマスターとの出会いから三日ほどしたある日。
俺が散歩してたら、そんな声が聞こえてきた。
パープの町のすぐ北、パープ平原っていう町名をそのまま付けたっぽいエリアでの事だ。
「お、マジじゃねえかあ。けけ、こいつァも売っちまえばいいよ。人さらいにもコネが出来てな」
先ほどとは、また別の声だ。
岩陰からなので姿は見えないが、どうやら明らかに良からぬ事が起きていた。
しかも、声の一つには聞き覚えがある。
(バーヌか?)
幾らか声が掠れた感はあるが、騎士様と呼ばれたであろう人物の声は、なんとなくバーヌを思い出させた。
「騎士……バーヌも確か、そうだった!」
「ん? お前、今、何か言ったか?」
「いえいえ、騎士様ですよね?」
油断。敵対しそうな人たちの近くで、俺はデカい声で独りごとを言ってしまったのだ。
▽
「なんだなんだあ、驚かせるなよレイジ~」
岩陰から出てきたバーヌ。
しかしパーティーから追放されて月日がそう経過してないにもかかわらず、彼の風貌は激変していた。
おでこに謎の切り傷が横一文字に深く刻まれ、顔はげっそり痩せてしまっている。
更に不精ひげとでも言うべきヒゲが乱雑に生えていた。
あと、騎士なのに馬が見当たらない。
「なんか、お前……変わったな」
「けけ。そういうテメエは、相変わらずチュニックだな。ギャハハハ!」
テメエなどと言葉遣いまで異常に汚くなった、なんとなく哀れなバーヌを見てしまい俺は思わず目を反らした。
まあ、テメエは【書】も言うけど。
「おっ……と。テメエ、今の俺にやってはならねえコト、やっちまってるよお」
何かは良く分からないが、どうやらケンカを売ってしまったようだ。
▽
「ジルもツシュルもラパーナもそう。どいつもこいつも、俺に会うたび目を反らしてさあ。ただ、追放仲間のテメエだけはやっちゃダメだろー!」
なんだかもっともにも思える理由で、バーヌは襲いかかってきた。
愛用の槍だった白銀の槍をまだ使っている辺り、哀愁を見た気がしながら俺は刺殺された。
おしまい。
「いや、おしまいじゃねえから!」
バーヌが気持ち悪いほど動かないので、俺が後ずさって腹から槍を引き抜いた。
「わざとは、やめろよバーヌ。不死でも痛みはあるって知ってるだろ?」
グジュグジュと自己再生しながら、俺はバーヌに説教してやった。
「知ってるからなんだ。俺の苦労も闇も知らないテメエなんかが……」
ちなみに自己再生は魔法ではない。
この間の、雨無垢の森でのポイズン・トードのように、
「痛みなんざ語ってんじゃねえよお!」
解毒と同列。
不死チートのオプションだ。
▽
あれ、と思い見下ろすと、なんとまた槍が俺に刺さっていた。
「だから、耐えれるけど痛いっての! アホが」
思わず拳骨でバーヌの頬を殴った。
もちろん、槍はまた腹に刺さりっぱなしだ。
「騎士様に何をする!」
従者にしては盗賊感が満載の小柄なバンダナ男に、今度はナイフを刺された。
全く、やめてくれよな。
ノドには声帯があるから、
「キサマ、不死ト知ッテノ所業、許シガタイ」
「ひ、ひいい」
とまあ、こんな感じでアンデッド感ある発声になっちゃうんだぞ。
「抜いてやろう」
わざと痛いやり方で、バーヌは喉からナイフをぐりぐりと抜き取った。
感謝できかねるぞ!
▽
うーん、感動の再会を少しは期待していたのだが、俺とは違いどうやらバーヌは、いわゆる腐ってしまったらしい。
もうね。腐るなら不死になってからにしろって話だよね。
ゾンビ的な。分かりにくいかな?
「死なないからって調子に乗るなよ!」
槍でずんずん乱れ突きしてくるバーヌの傍らを、セレブっぽい少年が駆け抜けてパープの町に入っていった。
(おい、助けくらいは呼んでくれよ?)
明らかにコイツらに絡まれていた少年は、しかし助けなど呼ばなかったっぽい。
(誰も来やしねえ……)
散歩なので、マスターもいない。
ベビドラさえいればなあ、と俺は思った。
「けっ。おい、あと小一時間は憂さ晴らしさせてもらうからな、レイジい」
アホ竜とか言ってごめん。
お前は使える。
「騎士様をバカにした罰だ。食らえナイフ殺法」
だからテレパシーを察知してくれ。
「苦しめ、わめけ。こんなザコだらけの平原、誰も来ないぜ。ギャハハハ」
テレパシー能力なんてねえけどな。
▽
「仕方ない。おーい、ウィッシュ!」
本当、仕方ない展開になったので俺は遂に魔物使いの本領を発揮する事にしたのだ。
「〈呼ばれて飛び出てシュシュシュシュー〉」
昆布太郎サイドの世界の、しかもシニア世代しか知らないはずのセリフっぽいギャグと共に、それは姿を現した。
「うおっ、ウィスプ……だと?」
バーヌも驚くレア魔物。
ウィスプのウィッシュだ。
「しゅしゅ、しゅーしゅー!」
ホワイト・フレイム。
いきなりの上級魔法をウィッシュは唱えた。
白い業火が、バーヌと盗賊を焼き尽くす!
「よーし、ウィッシュ。逃げるぜ」
「しゅー」
そう、上級魔法なんて嘘だ。
下級魔法、フレイム・ミスト。
白くて炎っぽい、ただの目くらましだ。
こうして俺は、グリーン・ロックに帰った。
バーヌらが追ってくるかとも思ったが、どうやら来る気配はなかったのだった。




