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死なずの魔物使い~失業したからテイムしよ~  作者: 桐谷瑞浪
第一章 魔物使いと幼女神
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#03 鬼火をテイム!

たくあんを朝、食う人だ。

 トレントたちから命からがら逃げ出した俺たち。

 とは言っても、不死の俺には失う命なんてないがな。


「不死身だなんて、素晴らしいですチ」

「いやあ、それほどでもありますよー!」


 素晴らしいテイムぶりに、幼女相手なのに思わず俺は敬語になった。


「あ、あれ。アホりゅ……じゃなく、ベビドラは?」

「翼の杖チ。本当はこっちの【まどーしょ】にいてほしいのに、入れるからって杖にいるのチ」

「へ……へえ。まあ、なんだ。マスターも大変なんだな!」


 俺はこの時から、ミュスをマスターと呼ぶようになった。

 単純に「テイムって面白そう!」という好奇心がくすぐられ、俺は冗談半分でこの幼女に弟子入りしようと考えたのだ。


 ま、内心では未だにミュスって呼び捨てなのは後々、語る事になるかもな。


 ▽


 雨無垢の森の入り口。

 比較的、平和なその場所で俺は色々と指導を受けた。


 まず、マスターが【まどーしょ】と呼ぶのは、どうやら魔導書であるらしい事が判明した。


 というか、【魔物の書】というタイトルの下に小さく「注意:魔導書につき取り扱いに気を付けること」と書いてあるのだ。


「魔導書なんて、どんだけテンプレ要素なんだ」

「て、テンプ……? 天ぷらは【まどーしょ】にはいないチ」


 無理もない。テンプレなんて俺が昆布太郎してた世界の、せめてもの気休め定番。


 ネット小説を書く物好きでさえ、しゃかりきに検索しねえと辿り着かない、いわば趣味の領域。


 要は〈テンプレという名の幻想〉と俺は思っている。


 なぜなら俺はテンプレましましのハイ・ファンタジーを毎日四千文字書いて、二十万文字の作品を八つも書き上げたのに一つも書籍化されなかったからだ。


 だから俺は、――。


 ▽


 っと、そんな過去の話はやめだ。

 何より、無駄に暗くなるしな。


 この頃には雨がやんできた。


「マスター。俺にも【書】って使えるかな?」

「うむ。アナチャでも使い方はとっても簡単なのチ」


 どうやらマスターはアタシをアタチャ、アナタをアナチャとしか言えない滑舌のようだ。


 で、【魔物の書】の基本は確かに俺でも簡単だった。


 まず、【書】を開きます。


『おうおう、テメエごときに俺様が扱えるかね』


 なぜか頑固オヤジの口調で話しかけてくるので、適当に会話します。


「マーモル。ゴブリンを1体呼び出して」

『あ? マーモルじゃねえ、俺様は【魔物の書】。それ以外の名前は受け付けてねえ』


 グーグルのノリでオッケーマーモルとは返してくれないので、素直にちゃんと命令します。


「大将。ゴブリン一丁、熱々でな」

『テメエ、なんだかさっきからボケをぶっこんでない?』


 ▽


 ラーメンのように注文するくらいのボケは西洋ファンタジー世界にも通じ、【書】に封じられたゴブリンがポンっと現れた。


「グルルィイ」


 グーグル、ゴブリン語を教えて。


『誰だテメエは、と聞かれてるぞ』


 どうやら【魔物の書】が通訳してくれると知った俺。


「レイジ・マクスガム。不死の冒険者だ」

「〈はあ? フシってなんだ。オラはウナギが食いてえぞ〉」


 こ、こいつ。

 〈ゴブぞう〉という名のこのゴブリン、ゴブリンの癖に随分、セレブな口を効くじゃねえか。


 俺はその時、そう思ったね。


 ▽


「【書】の使い方は完ぺきです、マスター。早速テイムしに行きましょう」


 ゴブぞうと、それなりに交流を深めて自信を付けた俺はマスターにいよいよテイム指南を願い出たわけだ。


「うむ。ではアナチャにその【まどーしょ】は預けるチ。大切に使うチよ」


 ここで本格的に、俺は【魔物の書】をゲットした。


『よろしくな、ご主人様』


(ご主人様、か。少しは執事らしい一面があるのかも)


 雨が上がったため、俺たちは再び雨無垢の森に入った。


 森の外にも魔物はいるが、個体数は圧倒的に森に多いのだ。


「うおっ。トレントに食われたのに、もう湧いてる」


 さながら、そうした点はRPG。


 俺には分からないご都合主義が作用し、そこには雨が降る前と同じ、スライムとゴブリンの棲みかがあった。


 ▽


「じゃあ、スライムでもテイムしますか」


 俺が【魔物の書】を開こうとすると、マスターに諭された。


「テイムの仕方を教えてからチよ。それに、スライムはもう満席チ」


 満席。


 そう。【書】には、同じ種類の魔物は最大で3体までしか入らないのだ。


 ちなみに、種類自体は際限なく入る謎の仕様。


 そこもまたご都合主義で、【書】のページ数が勝手に増えるらしい。


「じゃあ、テイムの方法を教えてください。マスター!」

「うむ。よろしいでチ」


 テイムの仕方も、至ってシンプル。

 相手を弱らせ【書】に封じる。


 どこぞの〈モンスター収集ゲーム〉みたいなルールだ。


 ▽


「おしっ。じゃあゴブリンを……」

「ゴブリンも満席チ。それにほら、あんな所に〈はぐれウィスプ〉がいるチ」


 はぐれウィスプ。


 とっさにマスターはそう命名したが、ウィスプという鬼火の魔物は、本来なら雨無垢の森には生息しないらしい。


「ウィスプはレアだチ。テイムしがいがあるチねえ」

「はは、どうも」


 まあ、「ウィスプがいなかったら、なぜ森に入らせたになる所だった」のは不問とした。


 レア魔物。


 そう聞いてガキの頃の、昆布太郎少年だった頃のコレクター魂に火が付いちまったからな!


 ▽●○●○


 ウィスプは鬼火だが、謎の原理で目だけは付いている。

 その表情は、怒り一色だ。


「しゅうう、しゅしゅう」


 燃え盛るウィスプの音に鳴き声じみた主張が隠れてるような気がしながら、俺はゴブぞうを戦闘に出した。


「〈オラにウィスプと戦わせるのか。ガッツだけはあるな~〉」

「えっ。ゴブリンってやっぱりザコなの?」


 急に不安になり、しかし俺自身も戦うという選択肢だってあると一瞬で不安を払拭した。


「魔物で戦うルールなんぞない。行くぞ、ゴブろう」

「〈オラはゴブぞうだ〉」


 テイマーすら戦う新しいスタイル。

 俺はがっつり燃やされ、ゴブぞうは、こん棒でぺちぺちウィスプを叩いた。


 見た目は鬼火だが、物理攻撃はしっかり有効らしい。

 おそらくどこかにある、ウィスプの魔核にダメージが通ればオッケーなのだ。


 ▽


「しゅっ。しゅし……し……」


 ウィスプの燃え加減が弱まってきたので、ここぞとばかりに俺は【書】を開いた。


「ウィスプよ。ウェルカム・トゥ・ザ・ブック!」

『ご主人様。ぶっちゃけマジうるせえ』


 しかしウィスプはすうっ、と【魔物の書】に封じられた。


 どうやら封じた魔物からは魔核をゲット出来ないらしい。

 まあ、殺してしまわないと魔核は排出しないから当然だけどな。


「マスター。テイム完了でえーす!」

「う、うむ。かなり肉弾戦だったチが、まあ良いチ」


 こうして【書】に、めでたく初のウィスプが収められたのだ。


 ▽●○●○


「ふう。マスター。俺、なんか疲れました」

「慣れないテイムで大変だったであろうチ。さあ、宿で休むチ」


 マスターを連れ、グリーン・ロックに戻るとルルエナさんが笑顔で出迎えてくれた。


「あら、お帰りなさ……って、可愛らしいお嬢様。レイジさんって妹さん、いらしたんですね!」


 なんとなく、妹で通す事にした。

 今後はマスターもこのギルドを宿にするらしく、2人分の宿代を取られるより家族扱いにしてもらうのが得策と考えたためだ。


「宿代は2人分ですからね~」


 現実は、厳しい。


「うむ、あれは……Aランクのジル・ケアンだチ」


 更に現実は厳しいと思い出す。


(そうだよな。同じギルドに属する以上、ジルとはこれからも毎日のように会う)


 なぜジルたちがちっぽけなグリーン・ロックにこだわるのかは分からない。


 というより、思えば俺はジルの事を全然、知らないのだ。


 出身がどこで正確な年齢が幾つで、結婚してるのかも、そもそも好きな異性すら知らない。


「おや、レイジくん。キミも今、帰ったのかい」


 平然と話しかけてくるなんて。


 追放への怒りが冷めない俺は、ずんずんと二階に昇った。

 客室が二階にあるというのと、ジルの顔を見たくなくなったためだ。


「くそっ。バカにしやがって」


 テイムで見返してやる。

 この時から、俺はジルをライバルとして見なすようになった。


「レイジ。待つのチ」


 階段を上手く昇れないマスターは、ベビドラに掴まり飛んできた。


 こうして、俺とマスターの波乱の共同生活は幕を開けたのだが、この時、俺はある重大な事実を思い出した。


「ポイズン・トード狩り忘れたああ」

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