#06 テイマーのエリート
ボクは投げましぇええん。ラノベが、しゅきだからあっ。
Aランクのテイマーだけあって、やはりどんどんと魔物を倒していくゼル。
一般的なテイマーは、マスターみたいにテイム用のアイテムに一匹の魔物を封じる場合がほとんど。
ゼルもそれは例外ではなく、むしろ【書】の機能の高さに驚いていた。
「よっぽどキミの師匠は高名な方なんだろうね。名前を聞いても構わないかい?」
俺は「俺の脇にいる幼女だ」と答えたい衝動を押さえた。信じるはずがないし、マスターもこんなエリート揃いの場所では超エリートであるという正体をバラしたくないのだ。
「ミュス・カパキだ。知ってるか?」
ゼルは「知らない」と言えないエリートのご多分に漏れず、「あー、なるほど、なんとなく顔くらいは分かるかも」などとボカし気味に答えた。
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エリートっていうのは、自らの優秀さを守り抜きたいばっかりに、他人の才能にまで気付いてられないものだ。
ミュス・カパキなどというのは、女神の名に適当にマスターが即興で名字を付けただけの、誰にも分かるはずないフルネームだ。
しかしそれゆえに、名前を聞いて分かった気になってしまうゼル、という滑稽な図が生まれてしまうのである。
「まあ、いいけど。ゼルはすごく才能があるから、これからもどんどんケルベロスを強くしていくんだよな?」
俺がそう聞くと、意外にもゼルはゆるゆると首を振った。
「知らないのか。ケルベロスはBランクの魔物だ。育てきってしまい、もったいないから連れ回しているだけで、そろそろもっと強いダゴン辺りに乗り換える気だ」
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乗り換える。まるでスマホみたいな感覚で気軽そうに言うので俺は面食らった。
「なんだ、そうなのか。育てた愛情とかは、割り切れるんだな……」
俺は元の世界での、潰れるまでなるべく誰も見捨てない商事会社と、トップだけを拾い上げて書籍化を目指す小説投稿サイトをどちらも思い出した。
それぞれに俺は面白さを見つけていて、たとえば商事会社は、やはりアットホームで仲間意識が強く、排他的でもあるけど腐れ縁ならよっぽど見捨てない根性もあった。
小説投稿サイトは趣味でも手軽に始められる。とにかく敷居の低さでユーザーを獲得していくという、ビジネスビジネスした仕事という点を見れば単に機械的な選民でもない。
「いや、ボクはAランクにしては甘いとよく言われる。愛情だの絆だのは、実は分かるよ。ボクは少なくともね」
そう呟くように告げるゼルの表情は、心なしか郷愁みたいな懐かしむ顔のように見えた。
きっと本当に、ケルベロスとの掛け替えのない日々を思い出したのだろう。
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俺たちはゼルと共に城を進んで行った。
とてもBランクとは思えない身のこなしでサクサク敵を倒していくケルベロス。
その勇姿には、レベルなどのデータだけでは計測することが出来ない、地道な戦いの積み重ねがあるように思えた。
「ゼル、どうしたらそこまでのテイマーになれるんだ?」
俺はゼルに尋ねた。
俺は魔王を倒したら【書】が消えてしまう。
しかしそのことを抜きにしても、テイムとレベリングの単調な繰り返しだけでAランクになれるほどテイマーは簡単じゃないのだろうと考えたからだ。
「そんな大したモンじゃないよ。常にどうしたらケルベロスの力を最大限に引き出せるか、それをほとんど一日中、考えてあげるだけさ」
大したモンじゃないわけがない。そんな事を本当に心がけているなら、そりゃケルベロスもゼルに着いて来てくれるはずだ。
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俺はゼルの戦いぶりを見て、自らの魔物の扱いに取り入れられそうな部分がないかを学ぶことにした。
実際の俺の戦いは、育ってきたナルキアや代理でテイム風味にしているベビドラが勝手にしてくれるから、安心して学習できる。
せめて【書】が消えるまでは、俺も少しでも最高のテイマー職を目指したいのだ。
「もうすぐムダラーと戦うような気がする。見てごらん、あの大きな門にみんなが集まってる」
ゼルが指差す方に、城門並みに大きく頑丈そうな門があった。
またしても力を合わせての一仕事を英雄たちは強いられるらしく、門を動かせるだけのメンツが集まるのをレッシュたちが待っている状況のようだ。
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「よし、そろそろもう一度やってみよう」
俺やゼルが来たところで、レッシュの合図を皮切りに門をその場にいるみんなで動かすことになった。
「うーん、うーん」
みんな唸りながら、腰をしっかり入れて懸命に大きくて重い扉を押していく。
しばらくそうしているとギギ、と軋む音がして少しだけ扉が動いた。
「気を付けて進みなよ。魔王がいたら即死級の魔法が来てもおかしくないわ」
ツシュルの助言に、その場にいた三十人ほどの英雄はうなずいた。
この速さでここまで来れるなら、俺みたいにベビドラやゼルという強みがないならAランクの中でも飛びきりのエリートということだ。
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慎重に、何人かが率先して扉の開いた隙間から顔をそろりと覗き込ませた。
「暗くてよく見えない。誰か、光源魔法を頼む」
ツシュルがメイク・シャインの魔法を部屋に向けて唱える。すると、外側からは想像も付かない光景が広がっていた。
「氷河だ」
誰かが呟いた。
そしてそこは屋内のはずなのに、確かに紛れもなく大小さまざまな氷の島が浮かぶ地。
氷河とは言うが、広がるのは海としか思えない果てしない世界。どうもこれは城内に作られた異空間らしい。
「足場を安定させたい。魔導師は氷魔法で足場を更に固めてくれ。もっと良い魔法があるならそれでも構わない」
ジルの冷静な指示に、場にいる魔導師たちや、遅れて合流した魔導師たちがめいめいに様々な魔法で足場を足していった。
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やがて浮かんでいた氷の島は、門を中心にかなりの範囲がひと繋ぎとなった。
氷、岩、大木……。それぞれの魔導師が得意とする領域で作られ、第一印象以上に混沌とした世界に作り変えられたのだ。
「見ろ。あれが噂に聞く魔王ではないか?」
ジジイ――ファイ・ターデス――が遥か上空を、いつの間にか手に入れたらしい新品の斧で指し示した。
見るとそこには、翼で顔を覆ってはいるが飛び出した骨や、隠してもチラリと見える巨大な眼球からするに明らかに魔王ムダラーが降臨していた。
しかし動き出す様子はない。まるで眠っているかのようにただ静かに一点に佇んでおり、むしろおとなしすぎて何を考えているか分からない怖さがある。
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その時、弓矢の名手という女戦士のセーモ・ラエッソが力強く弓を引き絞った。
その距離は何メートルなんて生易しいものではなく、常人ならば無益で無謀な行いでしかない。
「食らえ!」
目視しただけでも、五百メートルは離れている距離を矢が飛んでいったか見えないが、どうやら一発で命中したらしい。
うおお、という雄叫びと共にムダラーは墜落していった。もしかして、もう倒してしまったのかもしれない。
「急ごう。ヤツが本調子になる前、混乱している今こそが好機!」
油断しないレッシュの号令で、一丸となり英雄たちは魔王を倒すために走り出した。
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氷が割れるかもしれないなんて誰も気にしない。仮に割れたとしても、魔導師が魔法でなんとかしてくれるかららしい。
「闇に帰れ。この炎の剣でな!」
いの一番に魔王のところに着いたレッシュが右腕を業火で包み、飛びかかる格好でムダラーに斬りかかった。
強いゆえに、レッシュもジルも多くの技を持たないのだろう。現に俺は、ジルの技はライト・ブレイドしか見たことがない。
そして炎剣が直撃したところに、間髪を入れずジルのその技、ライト・ブレイドが決まった。
人類最強かもしれない二人の最強の連携。爆風が巻き起こり、なんなら巻き添えで味方までやられるのではないかという状態だ。




