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#05 シャード

ポケットを叩くとビスケットが2つ。なるほど、それはビスケットが割れています。

 ずん、とキーくんは倒れた。斧も溶けてなくなったジジイはただのパンチでキーくんを倒したのだ。


「おっ、ゴブぞうの封印が解けたみてえですぜ。レイジさん」


 キーくんは気絶しただけっぽいが、マスター・オーガの状態なのが「封印されたゴブぞうの解放条件」であるキーくんの死を緩和したのかもしれない。


 もしくは慢心したキーくんが勝手に条件を緩めたのかもしれないが、とにかく俺はゴブぞうを呼んでみた。


「〈ウナギ食いてえ〉」


 何も変わらないゴブぞう。


 別にゴブぞうの封印を解くために俺が戦っていたわけではないので、単なるラッキーパンチですらない。


 だがまあ、棚から牡丹餅的にゴブぞうは手持ちに復帰したのだ。


 ▽


「ワシは運命を操られておった。シャードという魔力の破片によって、魔物に従う操り人形となり、キージュプラをこんな運命にしてしもうたのじゃ」


 シャードというのは聞き慣れない言葉だが、どうやら運命に関係するらしいということは俺にも分かった。


 色々な人と関わり、知力が少しは上がったのだろうか?


「シャードはもう、アンタの中にはないのか?」


 シャードが運命を操るなら、魔物の意思でジジイが俺の敵になったりするかもしれないと俺は想像して質問した。


「シャードの支配は永久には続かん。せいぜい1日で効力がなくなる。永久に相手を支配するシャードはエクス・シャードと呼ばれ、シャードとは区別されるのじゃ」


 ただ一方的に操られていたとは思えないほどの知識に俺が驚いていると、マスターが一階から戻ってきた。


「シャードの話が聞こえたチが、シャードがどうかしたチか?」


 ▽


 マスターたち神々にはシャードは常識らしい。

 というのは、シャードは元々は神が作った超常的な道具であるようなのだ。


「マスター。シャードって……」


 俺はシャードについて聞きたいことが山ほどあったが、キーくんがむくりと起き上がるのが見えたので会話を中断した。


 彼の姿は少年に戻っていた。よほどジジイのパンチが痛かったのだろう。


 いや、どうやら違うらしい。鬼刺しがキーくんの近くに落ちている。

 なるほど、と俺は合点がいった。どうも鬼刺しが体から離れ、マスター・オーガの姿を保てなくなったようだ。


 キーくんは、鬼刺しを拾うでもなく放心状態だ。


「ここは、どこ?」


 しかも声色もなんとなく違う。もしや、ただのジジイ・パンチで人格まで元通りになったのだろうか?


 ▽


 話を聞いてみると、やはりキーくんは鬼刺しの人格ではなくキーくんに戻ったようだ。


「怖いよ。なんか向こうに魔物がいっぱいいるし」


 それもそのはずで、二階はキーくん専用の部屋でもなんでもない。


 単に階段がある部屋がちょうど、超人レベルのジジイたちが気兼ねなく戦える程度のゆったりした大部屋なだけで、通路や他の部屋には魔物がわんさと現れていた。


「怖くないぞい。ワシがちょっくら、安全な場所まで送り届けてしんぜよう」


 ジジイがキーくんのためにと申し出たところで、迂闊にもキーくんは鬼刺しを拾ってしまった。


「……くくく、危ない危ない。しかし久々に表に出られて、さぞ満足だったろうよ」


 元のイヤな感じが強めのキーくんに戻ってしまった。


 ▽


 そしてシャードというキーワードで、キーくんはジジイのことを思い出したようだ。


「あの時は世話になったな。今と違い、操られていたお前は目が死んでいたから思い出せないでいたぞ」


 そう言うなり、キーくんは再び鬼刺しを自らに突き立てようとした。


「やめるんじゃ!」


 ジジイが止めた。すんでのところで、その腕を掴みマスター・オーガへの変身をさせなかったのだ。


「ならばお前の体でも構わないが?」


 するとキーくんは刃の向きをジジイに向け直した。


 力の入れ加減を急に変えられ、ジジイは危うく鬼刺しが刺さってしまうというところで体ごとで避けた。


 ジジイは心底、キーくんの正気を戻せないのを悔しそうにしている。


 ▽


「しかし、シャードか。良いことを聞いた。まだアレがこの世界にあるなら、……くくく。これからの楽しみが増えた」


 キーくんは猛烈な速さで俺の脇を通りすぎ、どこかに行ってしまった。


「……」


 ジジイは悔しげな顔のままで、うなだれて無言で立っていた。


「元気出せよ、ジジイ。操られてのことなら、別にアンタは悪くねえ」


 俺なりに励ますと、ジジイは無理した笑みをニッと俺に向けた。


 口角が不自然に上がりすぎ、普段からあまり笑わない人なのだと分かる。


「ありがとよ、若きテイマーくん」


 そう礼を言ったジジイはジジイで、キーくんのことは諦めたのか、魔王がいるであろう上の階を目指して城の攻略に戻っていった。


 ▽


 その後マスターの話でシャードについて、少しずつ分かってきたことがある。


 シャードは若草色の結晶で、シャードを使いたい相手を念じながら砕くとその相手を支配することが出来てしまう恐ろしい道具だ。


「人間たちの縁結びのつもりで作られたのチが、神の中にいた裏切り者に持ち出されてしまったのだチ」


 裏切り者の神。そんなヤツがいたなら、確かにシャードを人間の世界にもたらしていても不思議じゃない。


 シャードなんて便利グッズは人間たちには喉から手が出るほど欲しいはずだ。だけどそれが、悪い人間という可能性だってある。


「悪用されてしまうかもとは既に神々の間の心配事だったチから、持ち出したのが裏切り者の神と分かると尚更、神々は不安に思っていたチよ」


 裏切り者の神は人間に成り済ますのが得意だったらしく、今も行方が知れないらしい。


「裏切りの神ジガラグ。どうしても探しかたさえ分からない、困った神なのチ」


 ▽


 しかもジジイは魔物に支配されていたと言っていた。つまり魔物にさえシャードの存在は知れてしまっている可能性は、とても高い。


「ふむ。だけど、やっぱりアタチャたちも魔王のところに急ぐチ。シャードの心配をしたって、ここには無いモノを心配することだから意味がないチね」


 マスターに促され、それもそうだなと俺はレベリングも兼ねてナルキアを召喚し、戦わせまくった。


「ヒュコー……ヒュオオオン!」


 幾つか新しいスキルも覚えてきており、野生のAランク魔物なら余裕をもって勝てそうな感じだ。


 たとえば種を物凄い勢いで飛ばす【シード・ガン】は地味さに反してかなり強い。


 また、カウンター技である【水仙の返し】は、植物っぽさのあるナルキス族ならではの柔軟なカウンターで相手を翻弄する。


 ▽


 ナルキア以外の、C~Dランクの手持ちは城の魔物とは余りに実力差がある。


 そのため、たとえ瀕死のAランク魔物相手でも攻撃が効かずに倒せない、という状況になってしまう。


 ぐんぐんとナルキアだけが成長を遂げていく。


 やむを得ないわけではあるが、やはり見ていてナルキアしか戦えないのはテイマー職として微妙だなと我ながら思う。


「ナルキス使いなんて、度胸あるね。Aランクは使わない主義かい?」


 とあるAランクのテイマーに尋ねられ、俺は素直にこう答えた。


「いや、俺が雑魚テイマーなんでAランク出せないんです」


 ▽


 傍らにはケルベロスという三つ首の犬を携え、Aランク・テイマー――ジルに似た雰囲気の銀髪ロン毛男――はへらへらと笑い出した。


「失敬、失敬。いや、キミが着ているのは神が身にまとうという「祝福の衣」だろう? それでCランクというのは不思議な人だね」


 ゼル・クアンという名前らしい。ジル・ケアンに名前までそっくりだ。


「ふふ。よく言われるよ。なにせボクはジル・ケアンに憧れて冒険者になったのだ」


 Cランクと知りながら、道中を一時的な仲間として共に戦ってくれるらしい。


 素直に、頼もしい限りだ。

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