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#04 キーくん対Aランク

新キャラ増やして話を破綻させたくないマンだったけど、渋々進化した。

 城の階段を昇り二階に辿り着くと、そこには、なぜかキーくんがいた。


「くくっ。ようこそ、お前ならここにノコノコ来ると分かっていたぞ」


 なんか知らんけど、俺は確かにそういう分かりやすい性格はしているので一旦、そのまま受け止め、挨拶だけした。


「おう。でもまあ、久しぶりだな」


 バタバタして、ランマに行って帰ってバタバタしてなので実際、それなりに久しぶりだ。


「ゴブリンを出せ。コイツらの命が惜しいなら……な」


 そう脅してくるキーくんの足下には、隊列の中にいたAランク冒険者たちが十人程度、ごろっと転がっていた。


「くく。テイマーならテイム出来るほどに痛めつけてやったよ。やっぱり人間はいい。ランクなんて言う次元ですぐ調子に乗る」


 ▽


 それは魔物でもそんなに変わらないぞ、とツッコむべきか俺は迷っていたが、不意にキーくんは鬼刺しを自らの胸に突き立てた。


「な、何をする気だ?」


 俺は思わずそう聞いた。キーくんの体は確か、鬼刺しが支配しているだけで単なる人間のはず。

 だからナイフを胸に刺すなんて、自殺にしかならない。


「くくく。本物のキーが抵抗したとでも思ったか? 残念だが、これは鬼刺しのもうひとつの使い方」


 キーくんはその言葉と共にむくむくと筋肉が増し、ツノが生えてきた。すごい急激な成長期でないなら、何らかの変身ということになる。


「マスター・オーガだ。鬼刺しが鬼刺しである所以はゴブリンごときを封じるのが本来ではない。こうしてボクがようやく馴染んだ体で、鬼刺しに封じられていたボクの本当の姿を取り戻したんだ……」


 ▽


 オーガですらAランクなのに、何個も上の上位互換っぽい響きだ。


 風格も段違いな気がするし、キーくんと呼ぶには幼さがなく、もうすっかり成人式をずっと昔に済ませた魔物という風貌なのである。


「そこまでだ。キージュプラ・イダーカルシ!」


 俺が会ったことない、しかしリーダーっぽい威厳のある甲冑ジジイが階段を駆け上がって来た。


「ぜえ、ぜえ。あ、ち、ちょっとタンマな。動悸息切れが加齢で半端なくての」


 さっきまでのジジイの威厳は、肩で息してるので消し飛んでいった。


「……ファイ・ターデスじゃ。覚えておるか?」

「知らないね。仮に覚えていたとして、魔物に記憶されて嬉しいなら狂った人だ」


 ▽


 両者の気迫は凄まじい。


 ジジイ――ファイ・ターデスとかいう戦士風の老人――もジジイで、Aランクにしても下手したらジルやレッシュの強さを軽く凌駕しているように思える。


(見かけ倒しで、あってくれるなよ?)


 俺は両手を組んで、神仏に祈るポーズをした。


「えっ、オヌシ戦わんのか?」


 ジジイにびっくりされたが、俺は余りに格上に挑む無謀さは魔王で学んだので懲りているのだ。


「どうぞ、どうぞ」


 俺は気さくに、戦う役目を譲った。かなり気さくだったからか、むしろ怯えながらジジイは戦いに向かっていく。


 そこからは俺には見えなかった。光と音のイルミネーションみたいに、バチバチ言って火花が散りまくりなのしか目視不可の状況なのだ。

 つまり、とんでもなくスピードがありすぎて互いの腕捌きが見えないのである。


 ▽


 明らかにムダラー以上の戦闘能力を持つキーくんを相手に、ジジイはよくやってると思う。


 時々、キーくんから距離を取るたびにジジイの姿がはっきり見える。

 どうやら斧使いのようで、大斧を豪快に振り回しては再びキーくんとバチバチ不可視の戦いに入る。


 斧なんて当たるだけでも生傷が出来そうだが、マスター・オーガの皮膚は金属並みに堅いのかまだ傷ひとつない。


「マスターみたいな名前で、紛らわしいな」


 そんなしょうもないことを考え、しかしマスターは名前ではなくミュスという幼女を俺が慕ったというキモい結果としての呼称だと俺は改めて意識した。


(それこそしょうもない思考か)


 ▽


 マスター・オークのキーくんの身のこなしは、前に俺が斧豚の町の地下で見た時よりも数段キレが増している。


 いや、見えないんだから段もへったくれもない。人間離れしたその動きが出来るジジイのほうが、なんなら人として異常だ。


 ジルの動きなら目で追える。ライト・ブレイドの威力は凄まじいが、素人目に見て「めちゃ速い」と分かる、見える動きだ。


 しかしとにかく、軌道が見えない怪物同士の攻防は次々に生まれる衝撃波がえげつなく、ただ見守るのも命懸けだ。

 現にマスターは階下に避難した。


 一方の俺は不死チートでなんとかなる範囲だから問題ない。徐々に薄くスライスされて、動画ならモザイクをかけるしかない状態になってるだけだ。


 ▽


「おお、キリが無いのう。なれば秘伝の奥義を味わうが良い。……地獄鬼暗断!」


 微妙にジジ臭い名前の、ジジイの必殺技が出た。やはり太刀筋は見えないが攻撃は当たったらしい。

 キーくんの頭が割れ、動きが鈍ってきた。


「魔物とて呼吸する。頭だけどうにかすれば倒したも同然。いや、しかし良い準備体操になったわい」


 頭は再生した。


「くくくくくく。面白い、面白い人間だ」


 そしてキーくんはそう言いながらニヤニヤしながら、仰仰しく両手を天に掲げた。


「きぃいえええい!」


 幾つもの炎の玉が上空に打ち出され、それが弾けながらもやがて全て、ジジイに向けて追尾する動きで進んでいく。


 この技が恐ろしいのは、俺でも見えるが多すぎて避けようがないということだ。


 ▽


 ボボボボ、と燃えていくジジイ。

 甲冑は熱で溶け、もはや半裸のジジイと化した。


 前に似たような経験があるのか、下着代わりのジャージ・ズボンだけは超耐熱性らしく、ジジイはジャージ・ジジイになった。


「鬼は鬼を殺し、殺し合いの果てに生き延びた個体が新たな鬼として種を残す。その繰り返しの果てに編み出されたこの【鬼の気まぐれ燃え尽きコース】は、どんなに強い鬼でも死ぬ。なぜならボクは最強の鬼。ランクなんかでは測れない本気は、これからたっぷりと見せてやろう。おっと、その前にお前のその肉体が耐えられずに消滅してしまうかもな。くくく……くくくくく!」


 微妙に長い説明口調は、小説ならレビューが貰えない減点ポイントだ。


 しかしこの後、この数倍は長いジジイのクソ説教がキーくんに繰り広げられたのだが、そればかりは割愛する。


 ▽


「――、じゃから出来ればワシも本気を出したいのだがの……ところでオヌシ、本当にワシを覚えてないのかの?」


 キーくんは沈黙している。あるいは話が長すぎてドン引きしているかだが、そこまでは俺には分かりかねた。


「キージュプラ。いや、オヌシの体に居座る最強のオーガよ。ワシは本当は、オヌシを倒す資格などない。オヌシに鬼刺しを渡したのはワシじゃ」


 なんだか【書】の件といい、昼ドラみたいな人間模様しか見えない。

 いや、昼ドラなんてウェブ小説以上に下火になっていたっけ。そうなる前に良い夢を見れて餓死して、俺はもしや幸せだったのか。


「くく。まさか本当に狂った人だとはな。ならば自らの罪を棚上げした罪も含めて、キーの恨みに焼かれるが良いわ!」


 ▽


 さっきより隙間なく、しかも幾つかの層に分かれて更に大量に巻かれた火の玉はその時点で隙間なくジジイを囲み、その後はただ勢いよく爆裂した。


「むわあああーーっ」


 ジジイは跡形もなくなったのか、忽然と姿を消した。


 俺は鳥肌が立った。ただただ恐怖するしかない、マスター・オーガの有り余る死の暴力。

 冷や汗も止まらない。


 俺が知っている残念なキーくんはそこにいない。単なる魔物、しかも絶大なる力を持つ魔物がそこにいた。


「本物の戦士はの、死を乗り越える力を持つのじゃ」


 ジジイの声がした。見ると、キーくんの背後にジジイがいるではないか。


「ワシほどになると、炎も斬れるのじゃ。盲点じゃったろうか?」

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