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#02 集いし英雄たち

デディケート・シフト!

 俺は道すがら、思わぬ人物と再会した。


「あらら、もしかしてあなたもレムバダに?」


 ツシュルだ。ちょっと見ない間に装備を新調したらしく、魔法使いの風格がある立派な茜色のマントを羽織っていた。


「ああ、これ。頑張って貯金してたお金を崩して買っちゃった。だって、私は魔王をこの手で葬り去るために戦ってきたんだから」


 ツシュルは同じく新調したらしい杖から結界らしき光を迸らせながら、ニヤリと笑った。


「この結界の杖で魔王を倒してみせる!」


 名前もそのまんまだが、結界でどうやって攻撃するのか、すごく謎だ。


 何にしても移動しないと始まらないので、俺はツシュルと仮のパーティーを組んだ。


 ▽


 そしてマスターもパーティーに加わった。

 俺はグリーン・ロックで「行ってきます」と言ったはずが、なぜか、いるからだ。


「なんでいるんです、マスター?」

「いいじゃない。あなたの妹さんでしょ、だったら全く戦えないんだから、後ろの方~で静かにしてれば誰も迷惑しないって」


 俺はツシュルに言いくるめられる形となり、マスターとの3人パーティーになった俺たちはレムバダへの遠い道のりを歩み始めた。


 というか、ルルエナさんにマスターを妹ということにしたばっかりにツシュルまで勘違いしている。


 が、まあ道中に支障はないだろうと判断し、俺は特に訂正しないことにした。


 そして俺たちは、恐ろしくパープ平原の魔物ばかりが延々と出没する、異様に安全な街道を進んだ。


 ▽


「拍子抜けね。私はこの方面に来たことないから、こんなにショボい道中だとは知らなかった」


 俺はもう何匹かBランクをテイムする予定だったので、ゲームみたいに「ラスボス直前の雑魚は強い」のパターンが見えないこの道のりには、かなり落胆した。


 つまり、俺の手持ち最強は未だにナルキアだけなのだ。


 仕方なしに、せめてレベリングだけでもと常にナルキアを出し続けたが、所詮はパープ・クオリティ。どうにも育たず、レムバダに着くまでそんな調子だった。


「着いちまった……な」


 レムバダとは城だ、と初めて分かった。

 いかつく武骨な、黒曜石で出来た城門に「レムバダ」をキリル文字に似た字で焼き付けてあるのが目に入ったのだ。


 ▽


 俺たちは、二人がかりで城門を押したがビクともしない。


 遠目に見て城なのは分かったが、いざ近付くとただひとつの門以外に入り口はなさそうで、それ以外は登りようがない高い塀だし、更に上側は通り抜け出来ないように結界が張られているらしい。


「お前の結界で打ち消す、とか無理か?」


 Cランク魔物には何匹か飛行可能なヤツがいるので、俺はツシュルにそう聞いてみた。

 上空に飛び、結界を相殺出来るならそれがベターだからだ。


「そうね。試しても良いけど……どうやら来たみたいよ。ラッキーね!」


 来た、とは何かと思ったが、よく耳を澄ますと遠くから足音が聞こえてきた。


「Cラン、地獄でも見に来たか?」


 聖剣団の先頭にいるのはジルではなく、レッシュだ。


 ▽


 聖剣団は思いのほか大所帯で、70人ほどの冒険者たちがみっしり集団行動のために隊列を組んで歩いてきた。

 冒険者集団というより、傭兵軍団と呼ぶべき統率だ。


「この人たち、全員Aランクなんですか?」


 覚えるには些か多すぎるが、実際に手合わせしたらしいレッシュからお墨付きのAランク揃いのようだ。


 口々に「なんだテメエ」「アホ発見」など罵詈雑言を浴びせられる俺。

 やはり、Cランクなのはレッシュでなくても気に入らないのだろう。


「ふむ。テイマーもいるチね」


 マスターに言われて気付いたが、魔物を連れ立って歩いていく者も何人かいる。


 Aランクのテイマー。

 ほぼ確実に俺より格上だ。


 ▽


 ジルは隊列の最後尾にいた。

 勇者ともあろう者が、しんがりを務めるのは珍しいけど、いかにもジルらしい。


「レイジじゃないか。それにツシュル。そちらは……二人の子か?」


 そんなわけはないと俺は無駄に慌てて否定したが、ツシュルが満更ではない表情をしてきて俺はドキリとした。


 だけど、気のせいかもしれない。

 その恥ずかしげな表情はほんの一瞬だったし、ルルエナさんもツシュルもなんて、とんだハーレムだ。


(同人ファンタジーのテンプレじゃあるまいし)


 俺は、元の世界でいかにもオフィシャルなサービスとして行われていた小説投稿サイトを同人雑誌と読んでいた。

 なぜなら集まるのは、ウェブという手軽なサービスにホイホイ釣られる同人雑誌レベルのワナビーだからだ。


 ▽


 そんなんでプロになれるわけがない。

 それは確率的にそれほど厳しいからであるが、人は不思議なことに、狭き門になると「ウチに限って」の感覚を失う生き物だ。


 インディーズでデビューを目指すバンドマンと一緒。自信がないとか、本当にやむを得ない事情で表舞台には立てないとかいう有象無象が、通常の社会とはまた異質な斜めな社会を形成していた、あの世界。


 いや、あれは斜めな社会とかいう特殊な類いのモノでもなく、単に社会人の趣味向けという建前のアングラかもしれない。


 匿名掲示板とかより高尚に思えるだけで、やっぱり人気不人気で格差は生まれる。

 テンプレなら人気が取れるなんて単純じゃないところも似ている。どんなに形式ばって仕切っても、不人気な雰囲気なら誰の目にも止まらないで浮かばない。


 俺がそんな回想に耽っている間に、ツシュルはしれっと隊列の中に入って行った。


 ▽


 しかし俺は俺で来てしまった以上、はい底辺ですと帰るわけにはいかない。

 それにランクアップも懸かっているのだ。最高ランクが揃い踏みでは、折角の報酬もただ無益ではないか。


「後ろからこっそり着いていきましょう、マスタ……あれ?」


 マスターはなんと、隊列に混じっていた。どこかの女騎士に肩車されてウキウキしているのが見える。


「ピクニック気分かよ。イカれてるね」


 かくいう俺もそうだから人のことは言えないが、人のことだから言えてしまうのも、また人間だ。


 そして隊列が崩れていくのが見えた。門が開かないので、一丸となって門を押し始めたのだ。


 ▽


「少しずつ開いてきたぞ。やる気あるヤツからどんどん入れ!」


 軽いノリでしかない案内の声は緊張を解くための気遣いかもしれないが、やっぱりちょっと軽すぎるような気がする。


 しかし「うおー」という怒号と共に、もう隊列など関係なく我、先にと魔城レムバダに雪崩れこんでいく英雄たちの姿がそこにあった。


 遅れて、というか最後の最後に俺も門を通り抜けた。


「ゲギギャゲルギャギギ」


 鬼人の魔物、オーガの群れがお出ましだ。


「ナルキア、来い!」


 オーガは確か、Bランク。妥協していられないので、奇をてらわずナルキアを召喚したのだ。


 あわよくばテイムするつもりで戦うが、オーガはどうにも命パワーの調節がシビアでテイム出来なかった。


 レムバダの魔物はテイム出来ない特殊な魔物なのかもしれない。


 ▽


「へえ、Cランクの割にはやるじゃん」


 テイマーが寄ってきた。

 ケンカを売られるのかと思っていたら、肩をトントンと叩かれただけだったが、連れ立っているのがサイクロプスという一つ目の巨人だから全然安心感がない。


 まだ城前広場に過ぎない現在地からやや前方に城がある。


 城に入る前からBランクと戦わされるのだから、城内はやはりAランク、下手したらSランクさえ、ひしめいていても不自然ではない。


 だが、もう「なるようになれ」しかない。賽は投げられたのだ。


 Aランク冒険者たちの胸を借りつつ、実戦経験を通して少しでも生存率を上げていけばきっと大丈夫なはず。


 不死とは言え、敵は十分に強いからそのくらいの覚悟で行こうと俺は腹を括ったのだった。

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