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#01 聖剣団

明太子うまい。

 雨無垢の森を出る頃に、俺とゴブリダルの合体は解除された。


「ッハァ、……ハァ」


 俺はがくがくと崩れ落ち、ゴブリダルも攻撃されてもないのに満身創痍で【書】に戻った。


『ぐおっ、俺様にまで熱が伝わる。こんなモン、焼けながら動いてんじゃねえか』


 こんなに【書】が仰天するほどの発熱は代償が大きく、合体は易々と使える必殺技じゃなさそうだ。


 体力の消耗どころか肉体が綻びるレベルの代償。

 これは今後もお世話になるとしても、おいそれとは使えない切り札という他ない。


「レイジ、ありがとう……そして、ごめんなさい」


 いつかのように女神に戻ったように見えるマスターの前で、俺の意識は途絶えた。


 ▽


 次に目覚めた時、俺はグリーン・ロックの客室で全身包帯巻きのミイラみたいになっていた。


「ちょいと自己再生も効きが悪いみたいだったから、そうさせてもらったチ」


 確かに体の節々が痛み、不死の自己再生はあまり意味を為していないように思えた。


(本当、どうやら不死チートの価値が暴落しかしてねえぜ)


 いつかそうなるような気はしていた。


 どんなに神々から与えられた力だとしても、底辺で餓死した俺がもらえるチートなんて、何らかの副作用とか能力の限界とかがあるに決まってる。


 そしてやっぱりそうで、何らかの原因で能力の限界が見え始めたってだけだ。


「その包帯には回復効果のあるポーションが塗り込まれてるチ。あと何日かすれば元気満天のはずチよ」


 マスターはマスターなりに、状況説明も兼ねて見舞ってくれていた。


 ▽


 そしてマスターは小耳に挟んだらしい情報を俺に教えてくれた。ジルたちのことだ。


 現人神ハウレイに会えたジルたちは、魔王ムダラーと戦うためにはパーティーという単位では人手が足りないと神託を受け、聖剣団という戦団を結成したようなのだ。


「アナチャも参加するチか?」


 マスターに聞かれ、俺は答えに詰まった。

 なぜなら俺はCランク冒険者。手持ちの強い魔物もまだまだ少なく、バーヌの体を借りなくてもAランクくらいはあるかもしれないムダラーと戦うには心許ない。


 しかし相手は魔王。

 いずれ戦わないとどうにもならない存在には違いない。


「マスター。俺、強くなりたいです」


 俺は強くなって、ジルたちの足手まといにならない立派な魔物使いになりたいと願った。


「でも、聖剣団は魔王の居場所に向かい始めたみたいチよ?」


 ▽


 なんという、せっかちなヤツらだ。

 俺がやる気を出して修行しようというのに、もう魔王に勝てる気でいやがる。


 それに相手は魔王だ。バーヌみたいに乗り移る対象が強いほどアイツのパワーが増すなら、最悪の場合はジルたちですら全滅するほどの強敵になる可能性はないわけではない。


『だけど魔王が明日にでも本気を出したらどうする』


 ランマに旅立つ前、俺はジルにそんなことを言ったのを不意に思い出した。


 ひょっとしたらジルのヤツは、俺の言葉を深刻に受け止めた結果、急いでいるだけなのではないだろうか?


 しかしマスターにそう問いただすと、「それだけはないチ」ときっぱり否定した。


「ハウレイとかいう人間は現人神を名乗るだけあって、神託とか言う予言は物凄く当たるのだチ。もしかしたら予言の女神を超える、すごい予言の達人かもと言われているのチ」


 ▽


 もしかしたらとか、かもとか混じり気味なのがとても気になる。


 ハウレイに会い、神託が信頼に足るかどうかを確かめないことには俺は納得が出来ない気持ちになった。


「魔王を倒すのは、聖剣団として集団で受けた依頼になるらしいチ。参加して魔王を誰かが倒した上で生きて帰れば、冒険者ランクが二つも上がるチよ」


 魔王討伐という難易度の高い内容なだけあり、見返りも大きいのだろう。


「じゃあ、俺も行ってきます」


 予言の真贋より、目の前の見返りだ。

 生きて帰れば良いのなら、何も最強である必要もない。


「よーし、待ってろよ魔王!」


 俺には聖剣団の居場所までは分からないので、単身でレムバダに向かうことを決めた。


 ▽


 レムバダの詳しい場所は、ルルエナさんから目印となる赤丸が書き込まれた地図をもらったので問題ない。


 俺が「高そうな地図ですけど、いいんですか?」と聞くとルルエナさんはにっこり笑ったきり、何も言わなかった。


(どんな気持ちだったんだろう……)


 ところで俺は、底辺は底辺でも元の世界と今の世界では根本的な過ごし方を変えてきた。


 どんな天才でも間抜けなことは絶対にあり、道を誤ればどんな最強の達人でも地獄に行くという現実を、実は元の世界の頃から勤め先やニュースなどでイヤと言うほど見てきた俺。


 そういう意味では、俺は〈「現実は天才すら達人すら当てにはならない運ゲーという一面がある」と分かっているというチート〉を持っているのと同じだ。


 ▽


 たとえば「現実の厳しさを知った上で、それでも夢を与え続けた敏腕の詐欺映画監督」を俺は週刊誌を読みながら追い続けて来た。


 彼は頭が良く、時代にも上手く乗れているからこそ輝いていたが、一歩でも道を間違えた瞬間に単なる詐欺師。破産で済めばマシという深い闇を抱え、その初老の男は一時の富豪気分を満喫していた。


 なぜって、天才とまではいかなくても秀才なら世界中に本当にたくさんいる。

 でも結構な確率で、そんなヤツほど自分を見失うことがあるのだ。不思議なもので、「隣の芝生は青い」とかいう物凄く単純な人生の罠に、ある日突然すっぽりと落ちるのだ。


 心を強く持て、とか簡単に言う人を笑おうが真に受けようが、真っ向から否定しようがそれは「どれかが正解」というわけでもないのと同じ。


 世の中には人間ってたくさんいるから、はっきり言ってしまえば誰の代わりもいないとも言えるし、いるとも言える。


 全てが真実で現実。あとは時の運なのだ。


 ▽


 後は、思い立ったが吉日。


 たとえそこにどんなリスクがあるとしても、天才でもなんでもないなら動いていくしかない。

 そうすることが可能である限り、どんな凡人でもそうすべき時はやって来るのであり、俺は今がその時だと考えたのだ。


 そしてこの世界で俺が変えた生き方というのは他でもない。


 チャンスがあるなら、天才や達人と友達になろうという態度を、俺はジルたちとの冒険の中で育んだのだ。

 そんな風に思えるようになったのは、やっぱりジルがDランクの俺をパーティーに加えてくれた、あの出来事があったからである。


 そう。別に当てになろうがなるまいが、なれるなら仲間とか友達とかになってみれば良い。実はそんなとても簡単なことが俺の大きな変化だ。


 ▽


 元の世界での俺は、天才とか達人とかいう人たちは、たとえ地獄を見る時があっても期待も大きく、だから平均的に見れば勝ち組であり、俺なんかとは一生、交わることのない世界で暮らしている存在でしかなかった。


 いや、それも俺が決め付けていただけだ。


 少なくとも日本は芸能文化や教育文化などが開けているほうだから、そうした界隈に君臨するヤツらはファン・サービスを半ば義務付けられていて、だからイベントの段取りを知った上で頑張って追っていけば割と知り合いくらいには、なれなくはない文化がある。


 それを知った上で、会っても恥ずかしくない心の準備が、何か俺の劣等感で勝手に無かっただけなのだ。


 まあ、今は芸能の追っかけをしているのではなく、戦いの地へと向かっているわけではある。


 けれどもそこには、やっぱりジルたちを始めとした最前線の戦士たちが、研鑽の上で華々しく集いて一丸の歩みを進めていく。


 俺はその光景を想像し、思わずその熱気や非日常ぶりを想像した。

 そしてそこにいる俺は単なる観客ではなく、一人の戦士なのだ。

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