#03 占いを開く者?
過ぎたるはなお及ばたるがたるし。
念のため客室に「しばらくジルと遠くに行きます」と置き手紙をした俺は、ジル、そして別の依頼を終えて合流したラパーナと共に新天地に向かい旅立った。
まずはいつものパープ平原。
俺たちはレッシュがよく目撃されるという北のランマ神和国を目指す。
そのため、俺はゴブぞうを出せない状態が続く。
それはやはり、いつ倒せるか分からないキーくんより、頑張れば見つかるレッシュを探すのが先決だからだ。
「魔物だ。各自、構えて!」
ジルの合図に、俺は迷わずゴレムンとウィッシュを繰り出した。
(スラすけ……)
俺はいまだに、目の前で弾け飛んだスラすけがトラウマになっていた。
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名前 ゴレムン
種族 ゴーレム(C) レベル2
技能 怒りの拳、カイザー・ボルト
腕力 B 体力 B
知力 C 魔力 C
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名前 ウィッシュ
種族 ウィスプ(D) レベル3
技能 フレイム・ミスト
腕力 D 体力 D
知力 B 魔力 D
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これが今のコイツらのステータス。
一方で俺はレベル2の魔物使いになっていて、価値が3になるまでは魔物を召喚出来るようになった。
価値っていうのは、ランクごとに決まっている、魔物ごとの「魂レベル」だ。
ランクDは価値1。
ランクが上がるごとに価値は1ずつ増えるから、ランクDのゴブリンやスライムなどは合計で三匹までなら召喚出来る。
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マスターに聞いたわけではなく、道中で俺が色々と試して発見した内の一つだ。
「ジュバアアア」
俺は目の前で叫ぶジャッカルを、ゴレムンの通常攻撃で弱らせてテイムした。
発見したもう一つは、俺が魔物使いとして成長したためか、Dランク魔物がテイム可能になる命パワー、つまりHPの基準値が高くなったようなのだ。
つまり、テイムが格段に簡単になった。
また魔物に手加減をさせるように命じることで、ゴブリンでなくてもテイムのための調節が出来ることも分かった。
「れ、レイじいは、もしやあの【魔物使い】でいらっしゃるのですか?」
相変わらず俺をレイじい呼ばわりのラパーナだが、ようやく俺の素晴らしさを実感してくれたようだ。
▽
俺は調子に乗った。
「ふっ、まあね」
そしてその隙にヤドカリ鳥に噛まれた。
ヤドカリ鳥はパープ平原にしかいないという、珍しい魔物だ。
単にDランクで肩身が狭いだけということらしいが、見た目はほんのり希少性がありそうだ。
なにせ、ヤドカリにクチバシが生えて翼があるのである。
ジャッカルを【書】に三匹テイムしきった俺は早速、ヤドカリ鳥のテイムにかかろうと、ウィッシュに指示を出した。
「ま、待つのだー!」
キーくんより幼い、むしろマスターくらいの男児がよたよたと駆け寄ってきた。
「はわわ、あ、危ないですよ」
基本的には心優しいラパーナは、少年を守ろうと走り出した。
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しかしジャッカルが不意を突き、草が生い茂った茂みから飛び出して来た。
「ジュバアアア」
「きゃあああ」
ラパーナはあくまで吟遊詩人。
戦闘補助の歌をたくさん知ってはいるが、油断すればDランク魔物にすら殺されかねない軽装備だ。
「しまった。ゴレムン、なんとか出来るか」
「待て。ボクが行こう」
俺を制して、ジルが加勢に向かうもやや遠い。
(まさか死ぬのか、Aランクが……?)
俺は不死だから盾役くらい出来るが、足だけは速いラパーナは思ったより遠くにいる。
▽
「手を前に出すのだ」
幼児が何か言い出した。
しかもなぜかラパーナはそれを真に受け、両手をぐんと張り出した。
「ヒュイイイ」
ラパーナは手を出しただけなのに、ジャッカルはどこかに逃げて行った。
と思ったら、ちょうどラパーナが手を出した先には巨大な魔物に見える岩があり、それを見たジャッカルは逃げ出したらしい。
「なんだか知らないけど、助かったわよ坊や」
ラパーナは幼児を力いっぱいに抱き締めた。
うらやま……いや、なんでもない。
幼児はプータ・バルソスという無駄に立派な名前で、しかも【占い師】という職業を持つらしい。
▽
ジルは勇者らしい愛の眼差しで、プータの頭を優しく撫でた。
「その若さで……お父さんお母さんがひどいのかい?」
よくある話でもないが、たまにある話だ。
何も悪いことをしてないのに、孤児とか被虐児。そんな子どもたちが底辺だった俺より酷い生活を強いられる。
周りは周りで一体、何をしているんだと思わず神経を疑うが、そんな子どもに限って鬼のような人に拾われて冒険者にさせられる。
そんな地獄の二重苦は、仮に少数ではあってもゼロではない。
「違うのだ。拙者は天才ゆえに特別に冒険者と認められた、特別な冒険者なのだ」
そう言い切ったプータの肩に、先ほどのヤドカリ鳥が止まった。
「キュアアア」
普段はうるさく聞こえる鳴き声だが、プータになついたからか妙に微笑ましい感じがした。
▽
パープ平原の魔物は他にヘビこうもりがおり、俺はヤドカリ鳥とそいつをフルコンプした。
なぜか先ほどはヤドカリ鳥をテイムするのを止められたが、単にプータとヤドカリ鳥の間にシンパシーめいた直感が働いただけのようだ。
「おぬしはヤドリ。よろしく頼むのだ」
プータにヤドリと名付けられたヤドカリ鳥は、よく見ると他の個体とは違いクチバシが少し左に曲がっていた。
ただ、それが奇妙にも個性的で決して悪くはない。
「占い師なんて、スゴいな。ルルエナさんもたまにスゴい予言をするけど」
俺はいつかルルエナさんに言われた言葉を思い返していた。
『はっ……!〈汝、女神に選択を迫られる。望む世界を心に決めよ〉』
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あれはおそらく、女神ホワイトルとの会話で迫られた、昆布太郎に戻るかどうかの決断なのだろう。
ものすごくタイムラグはあったけど、つまり当たったのだ。
「ルルエナ・ユーソイ。予言の女神に見出だされ剣に愛された孤独な天才。なるほど、拙者に似ているな」
俺はフルネームなんて言ってないのにズバズバと剣士であることらしき仄めかしも交えて占ってきたコイツを怪しみ始めた。
「ははあ、わかったぜ少年。グリーン・ロックにこっそり入り浸って、オトナたちの話を盗み聞きしてただろ」
しかし頑なにプータは俺のその言葉を否定した。
「拙者は占いを開く者。そのように誤解を受ける窮地を乗り越え、本当の神の声、すなわち神託を後の世に占うべく旅をしているのだ」
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なんだか偉く高尚な発言だからか、ジルやラパーナはプータを信じるとか言い出した。
「神。その存在をそこまで人生の中に見ているなら、キミにはきっと本当に素晴らしい未来があるだろうね」
ジルなんて、そんな調子でベタ誉めだ。
その癖、なぜか俺にプータをおんぶさせて平然としている。
やはりジル。
強いには違いないし、パープ平原の魔物なんて剣すら使わずパンチだけで粉砕していたけど、微妙に人にはデリカシーがない。
まあ、俺もないから何も言ってやれないけどさ。
「さて、そろそろ次のフィールドに出発しよう!」
やたら爽やかなジルに従い、俺たちは先に進んだ。
▽
占いが出来るプータを迎え、俺たちは山を越える事になった。
ユラカラ山。
木々は少なく、所々に樹林地帯として点在するくらいだ。
まあ俺としてはプータを親元に送り返すべきと主張したが、パープ平原だとしても無傷な時点で、ジルとしては仲間にしたかったらしい。
「変態的な価値観だな!」
「人聞きが悪いよ。ボクは老若男女、全ての人を等しく評価したに過ぎないのさ」
なんか爽やかさで押し通ろうとしていて、しかも俺は止めるほどの立場にない。
Cランクのぺーぺーなので、結局はジルに従う俺なのだった。




