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シェルフィの帰り道【外道式自己防衛術w】

大資材庫の明かりが落とされる。

でもすぐに真っ暗闇とはならなくて、やや緑がかった不思議な暗さが辺りを覆う。


先代とソドムの両方から得られた補完情報だと、“蓄光素材”による残光現象なのだという。特に魔術を使ったものではなくて、普通に自然素材を利用した技術だそうだ。


なかなか自然も侮れない。


来た道を逆に進み、再び踏み切り近くまで進んだ辺りで、あたし含めて全員が異変に気づく。

と言っても、あたし以外はその原因すら感知看破しちゃってるから、異変とも言えないのかもしんないけど……。


その異変。トンネル内に一定間隔で響いて来た振動。

振動はやがて“カタンカタン”という何かを叩く音となり、“カタタタタン、カタタタタン”と大きく変化していく。


「む、路線を移動してくる物体か。かなり小型だな」

「ゲッ、“不確定対象”を感知。王都の鉄道車両とは形態が合致しない」

「というか、この場所でソレって、危険なの決定してない?」


キグルミックと同調状態のあたしにも、接近してくる物が大体は分かるのね。

でも線路の幅と同じくらいで、走って来るというよりは“転がって”来ると言った方がいいような物に思い当たる物がない。


しかも、かなり小さいのよね。

電車の情報は先代に貰ったけど、高さと長さが二メートルも無いような車両なんか全く当てはまらないし……。


「ふむ、対象の情報を追加だ。ほぼ円柱形の車輪のような形態だな。このような形態の“生命体”が、この惑星に居たとはな」

「ちょっ!、いきものぉ!?」

「ゲッ、……」


近づいてくる音は“ガタンガタン!”と、貰った記憶にある電車の走るものと大差ない。何となく硬質の、金属音な走行音よ。

これで来るのが、生き物?


「一定間隔の心音、やや不定期の呼吸器音。駆動器官はタンパク質特有の“軋み”をたてている。仮に生命体でなかったとしても、かなり組成は生命体に近いと言えるな」


だから逆に、形だけで機械とは言えないわけね。


で、こんな会話をつっ立ったままやってるわけでも無いわけで。

あたしは踏み切りを渡ってエレベーター側の通路へ。バルカンは少し戻って大資材庫側の通路へ。やって来る“モノ”を挟み撃つように、迎撃モードはとっくに完了してたりする。


そして待つ間もほとんど無く。

線路から響くのみだった音がトンネル内全体の反響に変わり、ソレはやって来た。



聴覚を変換した疑似視覚じゃくなくて、暗視という視覚で直接見たソレは、本当に大きな一個の車輪だ。

ちょうど線路の幅に収まる形で、転がるように走っている。


でも完全に車輪だけってわけでもないか。

左右に倒れないような、補助輪的なアンテナが後ろの方に伸びていた。直線構造の線路では使う意味の無さそうな感じだけどね。

この形は、印象だけで言うなら、部屋のホコリをコロコロ回転する粘着テープで取る“アレ”に似てる……かな?


「ゲッ、何故ここに来る?」

「へ?」


未知のモノへの警戒に集中するあたしとバルカンを置いて、ソドムだけが違う反応を見せた。

けどそれを聞く前に、車輪のソレが走る以外の行動を始めた。


補助輪がコンクリっぽい床を叩いて、反動で車輪を宙に浮かす。

跳ねた車輪が線路へと落ちる間もなく、円柱形の形が“解けて”、四本の太い紐となる。それは更に細く短く縮んでいって、変化が終われば完全な人型となっていた。


「あ……!」


どうまとめてたのか分かんないけど、着地の瞬間“ぶわり”とスカートがひるがえり、見慣れた布地をチラ見せさせるたけで優雅な感じに爪先が床を掴む。


カツツンっと控えめな着地の音とともに、あたしたちの射界レンジの外ギリギリに着地したのは──


「わたしこと『イシスコンダラー』、ぶらりと途中で止まる事無く、定刻どおりに只今登場です」


妙な枕詞はともかく、それはまさしく世界一物騒なメイド様。


イシスさんでありました。



◆  ◆  ◆


「あらあらまあまあ、“コレ”をシェルフィ殿が?」

「偶然ですけどね」


遥か上から“ゴウンゴウン”と重量感のある音が響いて来る。

それは森の大地に偽装したエレベーターが降りて来る音で、片道だけでも結構長い時間がかかる。


その間、あたしが……というより逆の流れで入手した“物”を、落とし主に返す事にしていた。


スライムの魔物かと思えば、小さな小さな、女性の足の小指へと変じてしまった物。魔鍛冶師さん曰わく、オレイカルコスという伝説の金属の元となった生き物であり、それを身体の素材にしているイシスさんの“一部”。


単に人の小指だけだったのなら、知らない遭難者の一部としか言えないけとさ。あんなインパクトを残してのってなると、もう連想できる人は一人だけだからねえ……。


「よくこんな小さな物が見つかりましたねえ。てっきりもう何かのエサになったか、……野生化したものと諦めてましたのに」

「あー、それは間違ってなかったかも?」


しっかり野生化シテマシタカラ。


魔物をエサに強く生きてました。なんて言っていいかどうかも分かんないので、言葉は濁して見つけた事だけを伝えておいた。

ただ、イシスさんにしても渡されてそのままくっつけてお終い。とは行かないようなので、一旦魔鍛冶師さんに処置してもらわないとな感じらしい。


「偶然で好ましいことがありましたが、今回わたしが地下経由で来たのは別件でして。御主人様(マスター)から追加の伝言を承ってきました」

「はあ……、はい?」


さあ驚いた。

壊れたイシスさんは王都の方で身体を直していたそうで、無事それも終わったので戻ろうという時に、魔鍛冶師さんからあたしへの伝言を受けた。

同時にこの施設を使ってるのも魔鍛冶師さんから聞いて、ならば王都から直通のこっちへ、と移動して来たのだそう。


あたしが施設を使ったのは午前半ばからの半日未満なわけで、そんな短時間でイシスさんは移動して来たということになる。


「通路内を飛べばもっと早かったのですが……、それはダメだと注意されまして。自重し鉄路に準じて走って参りました」


……あれを自重デスカ。


あたしの視線に何を感じたか、イシスさんは小首を傾げて少し不思議そーな表情をした後、合点がいったというジェスチャーの後に発言。


「解説致しましょう。〈イシスコンダラー〉とは、わたし事イシス・E・ケイの地上殲滅移動形態を指す名称であり──」

「それちゃいますって!」


先代直伝のツッコミスキルに開眼したあたしだった。



◆  ◆  ◆



「射撃テスト?、地上で?」

「そうです。低コスト高威力のサーマルガン〈カシオペア〉の実射テストで、御主人様(マスター)が地下では完全なテストができないだろうと後から気付きまして、その指南を任されましたのでわたしが来ました」

「はあ……」


エレベーターが到着し、地上へと帰る中でのイシスさんの説明。

実は先代からは『それ違うそれ違う』と脳内ツッコミが連発中である。


確かに弾体その物がプラズマ化しての発射機構は、素材としてのコストは激減だと思う。火薬の類は自然放置で劣化する物だから、場合によっては時間経過で火がつかなかったり勝手に爆発したりもするし。

要は消費期限があるものだから。


サーマルガンは高電圧で通電しての、揮発可能な物質ならば素材には拘らない物。だから普通の銃器のような心配は無縁となる。


でもね、まず物質が物体を辞めるような高電圧を気軽にって発想がおかしい。

更にそんな物を常時維持させようって技術がおかしい。


そう先代が吠えてんのね。脳内で。

まあ、科学が通じない魔術利用のもんなんだから、早々に諦めればいいのにと思うけど。

簡単に拘りを棄てれないってのがオタクなのだと、また吠える先代だったりする。


「細かい原理はわたしも知りませんが、機能の威力の半分も試せない内にテストができなくなるだろうと、屋外で試せる方向を指示するように言われました」


確かにそのとおり。

通常弾頭の構造でのテストは、威力の低い方から二段階目で……、壁に大穴開いたし。


ただねぇ、確かソドムから貰った情報の中にさ、今回のテストが危なすぎるから地下でやってる。な内容があったのね。

それを地下でも危なすぎるから地上でって、なんか矛盾しているような?


「安全を確約するデータがあるので大丈夫ですよ」

「人の思考を読まないでください」

「……読んでませんよ。おかしな事を言いますね、シェルフィ殿は」


だったら目を逸らさないでほしい。露骨に泳がさないでほしいんです。


でと、とりあえず地上到着。


イシスさんの指示によると、特に移動はせずにこのまま試射をするらしい。


「ええと……御主人様(マスター)の指示によるとぉー……」


本日のイシスさんは、お店に立っているように“何時もどおり”なメイド服。

でも様々なコンセプトのデザインで、同じジャンルの服と言うのも悩ましいのも事実なメイド服


故に、今日のメイド服の説明をしなければなんないのだろう……ね。


まず、色は黄色。それも山吹色な感じで、布地のせいか太陽の下では光沢で金色と見える感じでもある。

次にデザイン。前に聞いたようにイシスさんは手足が変形して色々な形になれるせいか、ほぼ手足は生剥き出しとなっていた。タンクトップというか肩出しワンピというか、アキバ系布薄コスというか、そんな感じの無理矢理メイド服という出で立ちなのだ。


ぶっちゃけちゃうと、ヘッドドレスだけが浮いてます。

それだけで今日もメイド服ですよ、と言い張ってるようにしか見えません。


というか、魔鍛冶師さんの指示のメモ、もう零れるでしょうなくらい開いた胸元から出したよね。

谷間に指突っ込んで引き抜いたよね。


それもうバニーさんのスキルだから。


キャバ嬢のスキルだからね!


「本場の某喫茶も、実態は健全系イメクラだそうですからねえ……」

「やっぱり思考読んでますよね?」

「いえいえ」


そう否定しつつの指差し確認。それは──


「あちらの方向ならば問題ありません。との事です」

「え……?」


イシスさんが指し示した方向は、まるで世界はそこで終了だ、とでも言われそうな大絶壁。

晴れない雲に覆われて、地平線を拒絶するよう立ちふさがっている、『赤の壁』だった。


「この方角ならば、特に被害が無いそうです。まあ、あまり高度を狙うと岩の落下範囲が広がるので、水平射撃に近い感じで、とのことです」


んーと、確かに赤の壁付近には人家も無い。でも最近知った情報もあるから一応聞いておこう。


「最近あの近辺を移動した時にね、山崩れがあるって聞いたのよね。それは平気なの?」


イシスさんが指す方向は、ほぼその話の場所なのよね。

たから心配といえば心配。だって、ノッコ親方が言うんなら、そこには定期的に木商ギルドの人間がいるかもなわけだから。


「もう夕方近くなので、人の出入りは無いでしょう。多少の落盤も、あの山脈でしたら影響はありません。それに──」

「?」

「あ、いえ、日が落ちたら命中結果の確認が面等となります。あまり問答している暇は無いのですよ」

「あ、そうでした」


確かに、これから漁港へ戻る事も考えたら時間がない。

さっき同様、戦闘起動と武装を展開。今度は発射電圧もチャージ済みなので、砲展開からわずか二秒で発射可能となる。


「時間の都合もありますから、最大段階からの逆進行でまいりましょう」

「ゲッ、磁界砲身、最大展開」


ソドムが言ってた最長射程で最大威力の発射から。このモードだけは通常砲身が更に発射に適した形態を取らなければならない。

約二メートルの砲身が竹を割るよう三つ叉に割け、それぞれが細くなりつつ伸びて行く。それでも伸びきっての長さは六メートル程度。しかも砲身というよりは三枚の鉄板という感じ。


でも、実は砲身はもっと伸びている。

各砲身の先端からは針金状のガイドレールが伸びているの。しかも、三本が螺旋を描いて絡みつつね。


その中には磁力によって筒となった見えない砲身が形成され、ガイドレールから離れてもなお長く長く、目標に向けて長大に伸びていた。


「ゲッ、発射展開を確認、記録」

「目標の指定をしますよ」


イシスさんの言葉と同時に、不可視光で描かれる“的”が山肌に表れる。

何十キロも離れているというのに、それはダーツの的のように、文字や数字をブレさせる事もなく描かれた。

ソドムの補正つきとはいえ、それをキグルミックの“肉眼”で見ているあたしもあたしか、どこか“常軌を逸してるなあ”な感想の元、最大の気合いをもって引き金を、引いた。


“ガキン!”


そう幻の衝突音が鳴り、遠く山肌の的の中心、そこに見事に弾痕が生まれる。

一瞬で放射状のヒビが走り、だが思ったより破壊の痕跡を残さずに一射目が終わった……と思えた。


「あれ?」


小さく開いた弾痕から、何故か土煙りが溢れている。

なんかこう、まるで“向こう側からこちら側へ、誰かが風を送っているような”。

そんな感じの違和感。


その不思議の答えが欲しいから、半分無意識にイシスさんを見てみれば、何故かイシスさんが満面の笑みで頷いてたりした。


『グッジョブ』、そんな言葉が聞こえそうなポーズ付きで。


……え?



◆  ◆  ◆



赤い岩肌の絶壁に、赤い髪の少年が張り付いていた。

少年は言わずもがなの、アルバロセット・ドゥ・ログナルドである。


アルバのいる位置は、高さは約三メートルほど。僅かな凹凸を足掛かりに、ゆっくりと、岩壁を包容するように上へ上へと移動していたのである。


最初は地面の上で、目標と思える箇所を中心に左右に小刻みな動きを見せていた。

それは目標、つまり魔剣から感じる魔力が完全に岩の中なのかの確認だ。


移動する毎に微妙に変化する感じから、魔剣がやや上方にあるのを確認し、ならば、可能な限り登って近づいてみようとしていたのである。

無理ならば、後日またそれ用の装備を整えようと思いつつ。


が、その予定は少々変更しざるを得ない事となる。


アルバにとっては背後。そちらから“ドッカン”と冗談みたいな爆音が鳴り、ほぼ同時に真上からも“ドッカン”と爆音が鳴り響いたのだ。

ぐるりと赤の壁に円周状に囲まれるこの場所である。同様の音が鳴れば、それは背後でも赤の壁が原因なのだとまでは、アルバにもすぐ分かった。


「若、異変です!。至急降りてください!」


背後からの爆音は多少の鳴り方を変えて続いている。

“ガゴゴゴガラン”やら“ドゴン!ドゴン!”と、遠方ながらも明らかに重量感を連想させる衝突音。

岩肌に張り付くことで背後を見れないアルバにも、その原因が赤の壁なのだろうと思うのは容易かった。


そしてそれを裏付けるように。


「うっわ、ウッソおぉだろう!」


頭上からも僅かな微震を伴ってくる圧迫感。


大量の空気が吹き下ろされる感触と共に、アルバへと向かい膨大な岩石の雨が降りかかろうとしていたので……あった。




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