シェルフィの帰り道【本日帰還】
ムスペラド王国、“熾火”級国内情報報告書。
書類No.7620616xr000257。
タイトル:【南方域の局地的災害レポート、その一】
報告担当:【特殊調査専門部隊、硫黄隊隊長クリムリード・シュー】
王国暦762年、碧穂の月中旬、ムスペラド王国南方域のスートフォグタウン西域、赤の壁にて、中規模の災害が発生した。
災害の詳細は赤の壁の一部の崩落で、大絶壁となっている位置より突出した部分が大きく崩れる事によるものとなる。
これにより現地にて〈千湧泉〉と称される地域の三割が瓦礫に埋まる事となったが、不幸中の幸いか近郊のスートフォグタウン自体には被害は皆無であった。
地元民の証言によると、崩落が起きる寸前に爆発音が複数回聞こえたそうだが、地形に影響の出るような、大規模魔術が使用された形跡は無い。
念の為、仮想敵国によるテロの可能性から、王都より専門の調査機関である〈硫黄隊〉が派遣されているが、地形からの痕跡や魔術行使後などの残留痕跡も無かった結果から、単なる自然崩落であると結論された。
災害の規模としては、崩落の中心である南域部に、隣接している街道の一部まで落石が到達した状況となっているが、二次的な崩落や落石自体は鎮静化しているので、一部の再整地のみで街道機能は復帰する模様。
また、北域部の絶壁でも小規模な崩落が起きているが、こちらは規模も小さく人家と接する地域ではないため、人的及び施設的な被害は皆無である。
南域部同様に二次的な災害の形跡も無いので、特に早急な調査を必要とはしない。
なお、災害現場においての未確認情報ではあるが、複数名の冒険者による私的な調査が行われていたというものがある。
しかし冒険者ギルドからの依頼とは合致せず、現地であるスートフォグタウン担当の貴族による直接依頼も発行されていない。
未確認情報に合致する冒険者パーティーの現地情報も皆無であり、担当の判断において、この情報の信憑性は低いものと結論。
今後は有力な追加情報を得られなければ、省略するものとする。
以上。
◆ ◆ ◆
「──という、報告が上がって来おった」
『ま、概ね予定どおりだな』
ムスペラド王国、王城内の一室にて。
現王であるウェイランは、タマゴ型のモニター越しに魔鍛冶師と対面していた。
「あの赤の壁が大崩落とか、大惨事なんじゃがのう……」
『そぉかあ?、人死には出してない筈なんだが。後あっちにある温泉街も問題ねーだろ?』
「そういう意味じゃ無くてのう」
身内の一人の保護を優先した結果、地形を変えるのも当然という態度に頭痛を感じるウェイランである。
『ああ、山崩したのはなあ、“それはそれで必要だった”っつーのもあるから、そう気にしてもしょうがないぞ~』
「……全く、魔鍛冶師殿は何もかも承知であるか。本気で神か魔王のようであるな……」
『神も魔王も、時代によっちゃあ平気で死ぬし殺されんだ。んなもん、人の傲慢の呼び方変えたくらいの意味しかねーぞ』
「他人の勝手で翻弄されるよりは、神にでも祀ったもんに翻弄される方が気が楽なんじゃい!」
魔鍛冶師の言葉に、つい素でぶっちゃけてしまう一国の王であった。
◆ ◆ ◆
漁師ギルド・南基地からミスリルウッドタウンへと続く小街道。
その重要性の割に普通の街道より作りは細く、そのくせ地下施設関連の流れからか、やたら整備されきってる小道。
キグルミックのテストも終わり、積み荷もとっくに完了しぃので、翌日早朝、あたし達は漁港を出発した。
実は漁港を囲う防壁的な垣根が未修理な部分も残ってたりするんだけど、日常業務が復活した漁師さん達の息抜き作業になるからと、そのまんまで済ませることになった。
余計な仕事が息抜きって?、な感じなのだけど、たまに何時もと違う仕事があったほうが精神面での憩いになるのだそうだ。
どこまでも脳筋だよねー。
というか、妙に華やかで趣味な感じの垣根だったけど、もしかしたらそんな内情の産物だったりスルノカナ?
な疑問は残ったけど、追求してどうなるな感じなので忘れる事にした。
そんな感じで。
帰りは行きに比べてかなり大所帯となった同行者だ。
増えたのは実質イシスさんだけなんだけどね、ソドム自体、意思疎通が漁港に行ってからだし。
感覚的には倍となった気分だったりする。
更に大所帯っぽいのは見た目の方が大きい。
先頭はあたし、キグルミックに乗った状態で、徐行形態なのもあって車高も高いから“やたら”目立ってたりする。
後ろにはウィンチでワーゲンを繋げ、その後ろには更に荷車が繋がりと、まるでカルガモ親子の行進みたいな状態だからねー。
もうちょとした隊商な感じだし。
イシスさんは空いたスイマーの座席に座ってる。
美人なメイドさんが、オープンで野晒しな状態での移動で野盗の格好の餌的な扱いだけど、最後尾にはバルカンが警戒モードであるいてるし、最前列は戦車モドキのキグルミックなわけで、まあ、これで襲ってくるようなら逆に褒めてあげたい気分になるよねぇ。
しかも、ある意味メイドさんが一番過激な戦闘してたりするしぃ。
「ところでね、イシスさん。本当にあの“テスト”、平気なのかなあ?」
「おや、突然どうしました?」
「いやね、こう、目の前の風景が変わってたりするから……気になって?」
「まあ御主人様の御指示どおりなだけですから。気にしても手遅……、いえ、しょうがないというものです」
「イイナオシタ」
「幻聴でしょう」
んー、だってさあ。
結局、試射は合計で四発したのね。
最大なのは最初のだけで、後は砲身を通常に戻しての、弾頭サイズだけを変更してのものだった。
結果としては岩壁に弾痕が四つ並んだのね。
威力は弾頭変更で比例するように変化はしたんだけどねぇ、何故か飛距離はそう変わらなかったのよねぇ。
あー、あと命中精度も落ちることは落ちた。でもそんなに大きくって感じでも無かったのよ。
性能のチェックをしていたソドムの言葉だと、サーマルガンの特性としての影響なのだそう。
見た目スカスカの感じなんだけどね、あの砲身の密閉度はとても高い。生成される磁界の砲身も、最終的に放射状に拡散はするけど、そうなるまでの直進精度が高密度過ぎるんだってね。
だから弾頭の発射寸前に発生する衝撃波が、的の寸前あたりまで伸びる気圧差のトンネルのようになるんだって。
密度を持ったプラズマ状態の弾頭は、そのトンネル内を誘導されるように、高い精度の命中率を保つのだそう……よ?
なら完全に命中するじゃんな感じに思えるけど、そのトンネルが維持されるのは本当に一瞬。でも弾頭は進む為の負荷があるわけで、その一瞬で到着は終われない。
結果、着弾点に誤差も生まれるわけね。
自分で言っててよく分からないけどさ。
でまあ、話を戻せば。
そんな誤差付きで四つ並んだ弾痕は、最後の射撃が終わった時点で、とうとう“山”を割っちゃったのだ。
そうなった事で、あたしにもどういう状況だったのかが良く分かった。
あたしが的にした岩肌は、赤の壁の巨大な岩盤本体じゃなくてね、出っ張りみたいに伸びていた“薄い板”な感じだった。
弾はそれを貫いて、背後にある本当の岩盤へと当たってたの。
空いた弾痕から吹き上がっていた土煙りは、向こう側での破壊の余波が戻って来ていたわけ。
それがどういう結果となるかは、あたしにはサッパリなわけなんだけどね。
軽ーい地響きも感じられるし、もうもうと噴き上がる粉塵とかで、夕焼け空があっという間に夜へと変わったしで。
普通、そんな状況ならパニクるよね。
だからあたしもパニクった。
「へーきですへーきです」
なんてイシスさんは棒読みな返事しかしないし。
「ゲッ、現象は派手であるが“この程度”の結果ならば問題無い。むしろ好都合」
とか変に冷静な……、いや訳わかんない返事をソドムは返すしで。
一晩過ぎて改めて思うと、なんか変な違和感だったのよ。
で、目の前の風景は、そんな内心をより増強してくれるのです。
「ソドムの言うとおり、地形の変化はあったが、それでこの地方の気候に変化が起きるほどでは無いぞ。むしろ予測するとすれば、五年後くらいにはミスリルウッドタウン北側が穀倉に適した気候へ変化する可能性もある」
「いやなんか、その過剰にプラスな発想もね……」
なんかもう、終わった事にしたい空気に満ちてるよ。
答えの出そうもない問題をグダグダ考えていれば、案外時間はすぐ過ぎる。
体感よりもかなり早い時間で、前方にミスリルウッドタウンの外壁が見えてきた。
「そう言えば、街の石材も元はと言えば赤の壁だったっけ」
街を囲む防壁は、仄かに赤みのある岩を積み上げた物。
それは昔に、ワザワザ赤の壁から切り出してきた物だって聞いてる。
今回の崩落で出た岩とかも、やがてはそういう建材になるのかなあ?
まあ、あたしも少しはプラスに考える事にする。
もしかしたら同じような事するバイトが誕生したかも?
……いやいや、環境破壊のバイトってのも物騒だね。
もうちょい、身近な事を考えよう。
この荷物を届けた後とか。
漁港を出てからここまで来る途中に、帰還の知らせとして信号弾を打ち上げておいた。
外の警備をしてる自警団なら当然気づいたろう。だから門のあたりには物資を引き取る人達がいるはず。
多分、休む間もなく荷の分別のお仕事になるかも?
ほら、まだ遠くて北門も針の穴な感じだけど、結構ワラワラ集まってるっぽいし。
まだ日も高い。お昼近いけど、今日はまだまだ終わらない。
だから買い出しが終了しても雑用に終われるよねぇ。
でも。
とりあえず。
うん、一段落だけはついたよね。
こうして。
なんか色々とあり過ぎた感が半端ないけど。
あたしにとって、街以外での初めてのバイトが、
無事?終わったのでした。




