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シェルフィの帰り道【しーくれっとえりあ】

漁港の朝は美味しい。

朝、と言っても、それはあたしにとっての朝であって、漁師さん達には一仕事終えての休憩とか、これから休むとか、または次のシフトへ入る人達との情報交換な連絡時間に過ぎないんたけどね。


なんせ24時間操業ですから。


ともあれ、あたしも昨日は一日中キグルミックのメンテナンスをして、今日は朝から本格的な武装チェックに入る事にしている。

これが無事終われば、早ければこのままミスリルウッドタウンへ帰るし、遅ければ明日朝一での帰還な感じだろうか。


なんか街で厄介事とかあるようだけど、予定を遅らせている分、避けられる感じになってるそうだし。

というか、なんなんだろうね。厄介事って?


が、その前に、あたしにとっての問題は今の朝食だ。


「おや、どうしたの?。今日はあんまり食べないね」


漁師さん達で溢れかえる食堂。皆の胃袋を支えるシェフの一人であり、わざわざ給仕までしてくれるメイシャさんの料理を前にして、あたは戦慄していた。

魔物騒ぎによる食害も終わり、商品兼日々の食材である魚介の制限も解除。なので売り物にならない雑魚や加工のしようの無い、または日持ちしない食材を利用してのレシピが大氾濫していた。

いや、漁港ではこれが日常だったんだっけ。


具体的に言えば『活料理』。刺身盛りは基本として、加工済みでの余り物の内臓類を使用した物もある。寄生虫の問題はあるそうだけど、そこらの問題を解決する方法も確立していて、問題無く食べられるのだそうだ。


ああ、漁港の朝は美味しい。


でもちょっと怖い。


マスが普通に穫れるので魚卵、つまりイクラも大量に穫れる。

海並の広さであれ完全な淡水で、周期による産卵時期もなく、年がら年中卵を抱えるメスからイクラも年がら年中穫れるのだそう。だから加工技術もとっくに完成してる。

先代曰わく、塩や醤油に似た調味料漬けの瓶詰めも普通にあるので、冷蔵するより日持ちはしないが王都でもそこそこ知られた商品なのだそうだ。


もっとも、イクラ軍艦巻きは無いそうだけどねー。


こちらでイクラを使うのは、タラコスパならぬイクラスパが一般的。

ペペロンチーノ風に仕上げた冷製パスタに、タップリとイクラを乗せたものが漁師さん達にも人気の料理ということで、あたしにも山盛りで出されたのだ。


うん、美味しい。

イクラは生臭さが強いと思ったけど、この漬け物、イクラだけじゃなくて刻んだ茴香(フェンネル)も一緒に漬け込んであるのね。だから臭いは案外大人しい。

花の咲いたやつもあって、赤と黄色の明るい色合いがパスタを見た目でも良くしてる。


塩と辛パプリカ(カイエンヌ)だけの単純な味付けをイクラの旨味とフェンネルの甘い香りが彩り、更にパスタの小麦の甘さも引き出していい感じなのが実に好い。


……好いんだけど。


実はあたしは知っている。

このパスタ……、どんだけカロリーあるんだろう……。


いやね、一日の消費カロリーが異様に高いオッサン達なら平気なんだろう。そこは良く分かる。とんでもないコレステロールも全部が全部悪玉で血管内に籠城するわけでもないし。善玉ならば身体中まんべんなくエネルギーを供給する重要物質だし。


でも、そんなエネルギー、あたしの中に入れたらさあ……。

あたし、オッサンの半分以下な身体だよ?

……いや三分の一くらいだよ?


加えて……。


「朝の“メインディッシュ”はこれからなのにねぇ」


いや残念そうに言いつつも、メイシャさんや。その人の頭が二つくらい乗ってそうな“大皿”(“ディッシュ”)のやつ、更に食べさせる気まんまんじゃん。

ていうか、ここに置く以外の選択肢無い立ち位置だよね?


案の定、パスタ皿をチョットずらして置かれた料理はっ、ああっ、香りからして美味しそうなっ……!


ダチョウの卵大の巨大なカニ爪が二つ。と思えばそれは、ちゃんとした一匹のカニで、爪の半分も無い胴体が見えなかっただけで、二つの爪の間に隠れてしっかり皿に乗っていた。

このカニ、名を〈シャカシャカマラカスカニ〉という、異世界関係者が命名したのが丸分かりなカニである。その名の通りの生態で、爪を振ってシャカシャカ鳴らす威嚇音が特徴。

で、五センチ大の小さな物は山ほど穫れるが、ここまで大きいのは月に数匹穫れるくらいの希少な物なのだそうだ。


生、焼き、蒸し、揚げ。干物以外ならどんな調理でも美味という、保存性皆無な肉質を除けば最高の素材なのだという。

が、この性質のお陰で、王都でも食した者はいないという、珍品!


そんな魔性の記憶を垂れ流してくれる先代。うううっ、擬似的に再現される味の記憶まで……っ。


「どうする?、こっちの丸焼きカニは“熱々の半生”が売りだから、食べないなら漁師(おっちゃん)達に回しちゃうよ?」

「ううう~~っ」


ああっ、漁港の朝はっ、腹が立つくらい美味しい!



◆  ◆  ◆



「ゲッ。今朝起床時の行動予定ではエネルギー摂取を四割に下げるとの事だったが……」

「言わないで!」

「我が定期チェックを開始してからの最高値を示し……」

「言ーーーわないで!!」

「……ゲッ。“鉄甲姿躰”(キグルミック)『ヘッジホッグ』の行動チェックに支障は無いので、予定どおり、完全融合のチェックを始める」

「はいはい」


食事を終えて今日の予定をバクセンさんに伝え、あたしはキグルミックに乗って漁港から北へと移動。本当はあたし自身が受領するために来るはずだった、キグルミックを隠してた場所へとやって来た。


「バルカン、問題なさげ?」

「周囲に敵性の動体反応は無い。人間大の熱源も無い。問題は無いだろう」

「はぁい、ありがとー」


ソドムが派手に移動したせいで倒木が多い。植層は法の森と変わらないけど、ここいらのは普通の木々だから、ミスリルウッド程硬くはない。

それでもキグルミックというか、トラックサイズの機械で薙ぎ倒せるものでも無いはずなんだけど、街道からここまで、倒木を舗装道路にしての見事な一本道が誕生していた。


「そもそも、どうやってこんな木の密集した場所に隠したのやら」


細い獣道は幾つか確認できたけど、それだって人一人が通るのがやっとな感じだし、こんな大きな機体を隠せた方法が分からなかった。

なので、そんな疑問が口から漏れたのだけど……。


「ゲッ。所定位置への到着を確認。“王街道”(おうかいどう)展開──」


ソドムの宣言と共に足元が揺れる。“ゴゴォン”と何か大きな物が動く気配がして、あたし自身の視線が、下がる。


「──斜坑型重量積載専用昇降機、作動確認」


なんとっ、地面が、倒木込みでゆっくりと沈んでいく。

真っ直ぐ真下へというわけでなくて、南東方面へと斜めに、地滑りをおこしたあように……“降りていく?”


「ふむ、この辺りの地帯が人工的に整地されていた正体は、コレか」


バルカンが一人で変な納得をしてる。


キグルミックとバルカンを乗せたまま、一辺十五メートル程の正方形に区切られて、あたし達は地中へと降りていく。

最初の驚きも先代からの記憶の補完で落ち着いた。

単純に言えば〈エレベーター〉。人や物を乗せて上下する、機械仕掛けの移動装置。

先代の無駄知識(オタネタ)によれば、エレベーター自体は歴史の古い存在で、作動させる動力源が人力のみって頃からあったりする。この世界でも自然発生している技術で、ぶっちゃけ三階から四階建ての建築物がある所なら『滑車クレーン』として存在しているそうだ。


でも、建物を二棟乗せれるようなサイズのエレベーターとなると、さすがに先代も使った経験は無いようだった。というか、さっきから脳内で『ワンダバダバダバ、ワンダバダバダバとの連呼がウルサい』


「ゲッ。此処は王都が直轄して管理する秘密通路の搬入出口となる。この地方への緊急性の大きい事例への対処として、要員と物資の移動を行う設備として作られた」


ソドムの説明によると、魔物の影響が日常的にあるこの辺りは、何時、致命的な問題が起きてもおかしくない。この場合、主な対象は王都の食料供給源である漁港ギルドの基地を指す。

そこへ片道三日、強行軍なら二日の人員や設備を送るのは、いくら何でも悠長過ぎるって考えたらしい。で、そんな状況に対処したのが魔鍛冶師さん。

ここから王都までの地下をぶち抜いて、真っ直ぐ直通の弾道列車道を堀抜いたのだそう。これなら片道僅か半日と、格段に利便性は上がったんだってさ。


ま、問題はその列車を動かすのに必要な動力源の、その魔力を供給できる人が現状存在しないって事で、代わりの魔力を貯蔵するアイテムを使用すると、一年に三度も使えば国庫的に財政破綻を起こすなんて実態があるってとこ。


だから、よっぽどの危険がなければ実際は使われないようになってたりして、でも移動ルートとしての有効性は抜群なので、多少は少ない魔力で稼働するトロッコみたいな物を追加で作り、約一日で冒険者2パーティーを運べるようにしての不定期運行をしてるそうだ。

この冒険者も、国において信用のある実力者という事が最低条件らしく、地下通路の極秘性もあって、あまり頻繁に使われる事は無い。

最初漁港に来たときに、バクセンさんが言ってた応援の冒険者ってのはここを利用するような人達なんだけど、とうのバクセンさんも、移動の詳細とかは知らないらしい。


というか、一応地上にも王都へと続く隠し街道が存在し、そちらをカムフラージュ代わりにしてるんだってさ。

地上の方は急峻な山越えと獣道サイズな行程なので、少人数の人がヒッソリと移動するしかないし、高山系の特種な野生種も出るので安全性も高いとは言えない。

なので密猟や密輸関係の人間が居着くのはしょうがないにしても、ちょっと高名なレベルの実力派冒険者も彷徨くから、無法地帯化もしないので放置できるんだって。


「ゲッ。今回、この施設を利用するのは、移動面以外の副次的な設備を使うため」


ソドムが言うには、この手の施設を造るには付随するような、無意味ではないけど、本来の機能と直接関係が無い設備と施設も必要なのだという。

あの巨大エレベーターもその一つで、万が一列車を外に出す必要性があった場合用に、あるのだそう。大量の資材を一気に地上へと運べる利点は有るのだけれど、運び出したところでその資材を纏めて積める地上での車両も無いしね。


なので、地下へと繋がる、“人が通れる程度の物”は別にあるんだって。間違って関係無い人が迷い込まないように、地上の景色に紛れるような感じに偽装なってるらしい。この辺りに木が密集してるのも、そのカムフラージュが目的なんだね。


で、話を戻して。


地下通路としてメインとする部分の他に、メイン部分に設置するには危険な物とかをまとめる為に、併走する形で小さな地下通路も造るんだって。こっちはメインと同じように最初から終わりまで続くわけじゃなくて、途切れ途切れの点線みたいに存在している。

何でもメイン部分は長い筒、つまり銃身や砲身と同じで、中を物が移動するだけで空気の激しい動きができる。その空気を途中で逃がしたり取り入れたりする機能を持たせたものなのだそう。


そういうサブな部分の地下通路に加えて、通路の劣化への対処とした、補修用の資材を置く場所も作ってある。

通路の長ーい全長の補修に収納場所が一つじゃあ効率が悪くなるのが当然。だからサブ通路同様に、メイン部分に併設する形でアチコチに分散して幾つも“ある”のね。

で、あんまり分散しても管理が面倒だから、王都側と漁港側の両端に通路を半々で管理できるように大資材庫とも言える施設があるの。


「ゲッ。終着点である“此処”の地下、通路内に点在する補修資材庫へと資材を補充する大資材庫は、その巨大さを維持するために耐爆用の強度を有している。そこを、今回の武装チェックの演習場に使う」


エレベーターに乗って約五分。丁度ソドムの説明も終わった頃にメインの地下通路の“天井”が足下から見え始める。

地下通路の高さはキグルミックの全高の三台分?、大体二十メートルくらい?

幅は高さの倍近くで、でも四十メートルは無いかな?


“ゴウン……”と重いものが静かに落ち着く感じでエレベーターが止まる。ソドムに促されてすぐさま降りると、間髪入れずにエレベーターは上昇を開始。あの巨大エレベーターは床の部分がそのまんま地上の偽装となるので、長時間の解放はしないんだって。


先代のオタク知識だと、エレベーターの登り口って終着点からそのまま地上へと続く“坂”ってイメージだったんだけど、実際は90度直角に曲がる形で設置されていた。

なら終着点は行き止まりなのかなと思えば、まだまだ先があるように見える。というか、暗い穴が続いてるようにしか見えない。ソドム曰わく、程なく行き止まりで中を走る列車のメンテナンス設備となってるそうだ。


ここ何十年も使われた形跡は無いらしいけどね。


で、地下通路の反対側の壁に、エレベーターの設備と対象になるようにキグルミックより多少大きめサイズの通路がある。

あっちが大資材庫へと続く通路らしいので、踏み切りのように線路を横断する通路を越えて移動する。


というか、カンカンと警鐘を鳴らして“棒”が下りてくるような、まんま“踏み切り”の設備があるってどうよ?

魔鍛冶師さん、遊んでるね絶対。


メンテナンス用に足下を微かに照らすライトのみの、殆ど暗闇の通路を行く。キグルミックの視覚と同化してるあたしには別に困んないんだけど、人として歩こうとしたら竦む(すくむ)なー。


“見える”って大事だよねえ。


で、問題の『大資材庫』が“見えてきた”。

なるほど、外壁用のパネルとか多目的な利用に使えそうな鉄骨やパイプ、何かゴチャゴチャくっついてる重機と様々な物が雑多に、大量に積み置かれている。

でもそれらで室内が狭く感じる事は無い。何て言うかー……、だだっ広過ぎだよ、ここ。


キグルミックで“見る”のは暗視もあるけど、音で“観る”や熱で“視る”も併用している。

だから積載物に隠れた死角になる部分や、閉鎖空間なら施設の広さそのものを見れる。


軽~く一つの街……、いーや、ミスリルウッドタウンなんか何個も入るような広大な空間。


「……えーと……。……、……サバゲ?」


そこには、正に誰も住まない街があったり、森林があったり、積まれた資材の中にはここの設備には関係無い、露骨に銃器や弾薬と見える物もあったりして、更にはモロに射撃場なんかもあったりして。

それは先代曰わく、大の大人がパンパンヒャッハーと子供のように無邪気に撃ち合い(チャンバラ)をし、恥も外聞もなく『うぎゃあ、撃たれたああ!』と悶え倒れるロールプレイに興じたり、本気で“自然の堆積物”と化したスナイパーさんが待ち伏せする地帯を外した戦域で決着ついちゃった挙げ句、忘れられてプレイ終了したりと、一部の本気の馬鹿が本気の闘いのために用意した場所だった。


「あー……まー……、魔鍛冶師さん……だしなあー……」


……あたしの感想は、推して知るべし、だよね。




えー、んなプレイがデフォの業界では……、アリマセンヨw


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