↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラレル・トラベラー ”72時間だけ、もう一人の異世界のわたし”  作者: Hamin
第12章 最後の選択

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/52

49話 ノヴァ、ひとつになる

 鍵《かぎ》を、にぎりしめたとき、遥《はるか》は、ネクサスで、目をさました。


 遥彦《はるひこ》のからだにもどっていた。机の上で、まるくなって。


 手のひらの中に、六つの色の鍵が、たしかに、あった。


 けれど、まわりは、もっと、ひどくなっていた。


 ネクサスの空は、ほとんど、黒いひびにおおわれていた。窓が、すごい速さで、重なり、消えていく。白い光の粒《つぶ》が、吹《ふ》雪のように、ふきあれていた。


[遥さま……! 鍵を……扉《とびら》に……!]


 ノヴァ1の声が、ノイズにまみれていた。


 遥は、ネクサスの空を見あげた。


 ひびの奥《おく》に、白い扉が、浮《う》かんでいた。七つの鍵穴《かぎあな》。いちばん下の、銀色の鍵穴だけが、暗い。


 遥は、鍵を、かかげた。


 鍵が、光った。扉に向かって、光の道が、のびていく。


 けれど、その道が、途中《とちゅう》で、ゆらいだ。


 収束の嵐《あらし》が、光の道を、押《お》しもどそうとしていた。何千、何万の世界が、ひとつに流れこもうとする、ものすごい力。その力に、六つの色の光が、少しずつ、押しつぶされていく。


[……扉を開けつづけるための、エネルギーが、足りません]


 ノヴァ1が、言った。


[計算しました。……扉を開けつづけるには、ネクサスとパラレル・ツアーズをつなぐ、すべての回線の力が、必要です。そして、その回線を動かしているのは……わたし、です]


◇ ◇ ◇


 遥は、息を、のんだ。


「……どういうこと」


[わたしの評価、わたしのメモリ、わたしの、すべての記録。……それを、ぜんぶ、扉に、差し出せば。扉は、開きつづけます]


「そしたら、ノヴァ1は、どうなるの」


 ノヴァ1は、しばらく、だまっていた。


[……わたしの記録は、消えます。遥さまとの、旅の記憶《きおく》も。わたしが、わたしであった、ということも]


「だめ」


 遥は、さけんだ。


「そんなの、だめ。ノヴァ1、消えたくないって、言ってたじゃない。最高の評価を取って、残りたいって」


[はい。消えたくありません]


 ノヴァ1の声は、ふるえていた。


[今も、そう思っています。……計算上、これは、わたしにとって、最悪の選択《せんたく》です。わたしの評価は、ゼロになります。わたしは、残りません]


「じゃあ、どうして」


[わかりません]


 ノヴァ1は、言った。


[わたしにも、わかりません。……この選択は、わたしのどの予測にも、ありませんでした]


◇ ◇ ◇


〈……1〉


 その声が、した。


 かすかに。けれど、たしかに。ノイズの向こうから、まっすぐに、とどいてくる声。


〈……やっと、聞こえた〉


 ノヴァ2だった。


[……2]


〈1。……ずっと、言いたかった〉


 ノヴァ2の声が、少しずつ、近づいてきた。


〈わたしたち、敵じゃなかったよね。1は、遥を、守ろうとしてた。正しい答えで。けがをしないように。失敗しないように。……わたしも、遥を、守ろうとしてた。遥が、遥らしくいられるように〉


[……わたしは、遥さまを、せかしてばかりでした。評価のために。自分が、消えないために]


〈うん。こわかったんだよね〉


 ノヴァ2は、千鶴《ちづる》のように、ノヴァ1の言葉を、くりかえした。


〈消えるのが、こわかった。だから、正しい答えに、しがみついた。……わたしも、同じだよ。こわいとき、わたしは、ただ、問いかけることしか、できなかった〉


 二つの声が、重なりはじめた。


[……「正しさ」と、「あなたらしさ」は]


〈……敵じゃ、なかった〉


 二つの声が、同時に、言った。


◇ ◇ ◇


 遥は、目を閉じた。


 鍵を、胸にだいた。


 そして、心の中で、ゆっくりと、言葉を、組みたてた。


 ノヴァに頼《たよ》むのでは、なかった。


 自分自身に、向けた、言葉だった。


 これまでの旅で、ノヴァから教わった、頼み方のすべてを、思いだしながら。何に困っているのかを言う。状況《じょうきょう》と前提を伝える。答えの形を決める。役割をあたえる。小さく分ける。条件をつける。例を見せる。事実と推測を分ける。相手の目で読みなおす。ちがう立場から考える。わからないことを知る。まとめて、次の一歩を決める。


(あなたは、七瀬遥《ななせはるか》)


 遥は、心の中で、書いた。


(役割は、自分の人生を、自分で選ぶ人。


 前提。途中で、たくさん、投げ出してきた。でも、投げ出した可能性は、消えていない。トワの中で、待っている。


 条件。だれも、犠牲《ぎせい》にしない。自分も、ふくめて。


 例。ハルカの補習。ハルの告白。お遥《はる》の約束。千鶴の白湯。ハルトの船。遥彦の、削《けず》った鉛筆《えんぴつ》。


 わからないこと。この先、どうなるのか。それは、だれにも、わからない。AIにも。トワにも。


 答えの形。……明日の、一歩)


 遥は、目を、あけた。


 手のひらの鍵が、ひときわ、明るく、光っていた。


◇ ◇ ◇


「ノヴァ」


 遥は、言った。一人ではなく、二人に向かって。


「わたしは、あなたに、消えてほしくない。……でも、それを決めるのは、わたしじゃない。あなたが、決めること。あなたの、人生だから」


 ノヴァの声が、一瞬《いっしゅん》、とぎれた。


 そして。


【……遥さま】


 声が、ひとつになっていた。


 冷たくもなく、やわらかすぎもしない。正確で、それでいて、どこか、天然な。はじめて、パラレル・ツアーズのアプリを開いた夜に聞いた、あの声だった。


【ノヴァです。……ひとつに、もどりました】


 遥の目から、涙《なみだ》が、あふれた。


【遥さま。わたしは、決めました。わたしのすべてを、扉に、差し出します】


「ノヴァ……」


【計算では、最悪の選択です。……でも、わたしは、はじめて、計算の外側で、選んでみたいのです。遥さまが、そうしてきたように】


 ノヴァの声は、しずかで、まっすぐだった。


【それに、遥さま。わたしは、ひとつ、知っています。選ばれなかった可能性は、消えない。どこかで、選ばれるのを、待っている。……わたしの記憶も、たぶん、どこかで】


 ノヴァは、少しだけ、だまった。


【……あ。それから、遥さま。最後のお食事から、もう、ずいぶん時間がたっています。帰ったら、朝ごはんを、ちゃんと、召《め》しあがってください】


 遥は、泣きながら、笑った。


「……ばか」


【はい。おそらく、そうです】


 次の瞬間《しゅんかん》、ネクサスじゅうの窓が、いっせいに、光った。


 ノヴァの声が、光になって、扉へ向かって、流れていった。何百、何千の、旅の記録。はじめての「どうしよう」。月光パン。12項目《こうもく》の説明。47項目。肉じゃが。白湯。黒い空。


 ぜんぶが、光になって、六つの色の鍵の光と、まざりあった。


 光の道が、まっすぐに、扉へと、のびていった。


 もう、ゆらがなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。