↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラレル・トラベラー ”72時間だけ、もう一人の異世界のわたし”  作者: Hamin
第10章 AIが予測できなかった未来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/52

41話 トワの痕跡〈残り2時間〉

 夜が、来ていた。


 結晶《けっしょう》の平原の空に、見たことのない星座が、光っていた。二つの月が、ならんで、のぼっている。結晶たちが、月の光を受けて、ほのかに、青く、光っていた。


 シグナは、もう、ほとんど、元気になっていた。そのからだの、真ん中に、タンガがつくった、いびつな結晶が、ひときわ明るく、光っている。


 着陸船のそばで、タンガが、小さな火をおこしていた。船の非常用の燃料を、ほんの少しだけ使った、たき火だった。


「宇宙の夜は、冷えるからな」


 タンガは、ぶっきらぼうに言って、なべの中のスープを、みんなのカップに、注いでまわった。


 カップを両手でつつむと、指先に、じんわりと熱がしみた。スープは、こしょうがききすぎていて、少し、からかった。それでも、遥《はるか》は、ひと口飲むたびに、からだの奥《おく》が、ほどけていくのを感じた。


 結晶たちが、夜風にふれて、ちりん、ちりんと、鳴っていた。


「あと2時間で、船にもどる」


 艦長《かんちょう》が、星空を見あげて、言った。


「それまでは、ゆっくりしな。……いい仕事をしたよ、ハルト」


 遥は、カップを置いて、シグナのほうへ、歩いていった。


 遥は、シグナの前に、すわっていた。


 リーフが、となりで、シグナの光を、読んでくれていた。


「シグナが、見せたいものが、あるって」


 シグナのからだの表面の光が、ゆっくりと、うごいた。


 結晶の、奥のほう。いちばん深いところに、何かが、きざまれていた。


 白い、長方形の枠《わく》。たてにならぶ、七つの丸。


 白い扉《とびら》の、紋章《もんしょう》だった。


◇ ◇ ◇


「この紋章は、いつから、あるの」


 遥がたずねると、リーフが、シグナの光を読んだ。


「……ずっと、むかしから。シグナが、まだ、たくさんの『わたし』の、ひとりだったころから。毎年、ある日の夜に、この紋章が、光るんだって。そして、扉の向こうから、声がする」


 遥の心臓が、どくんと、鳴った。


「その声は、なんて、言ってるの」


 リーフの肌《はだ》が、ゆっくりと、白くなった。


「……『トワ』」


 遥は、目を、閉じた。


 ハルカも。ハルも。マザーも。シグナも。


 みんな、同じ扉の夢を、見ていた。みんな、トワに、呼ばれていた。


「それから」


 リーフが、つづけた。


「シグナは、言ってる。……扉の声は、いつも、少しだけ、ちがう場所から、聞こえるって。ひとつの世界の中じゃなくて、世界と世界の、あいだから。まるで、たくさんの世界を、わたり歩いている、だれかのように」


 世界と、世界の、あいだ。


 並行宇宙を、わたる、存在。


[……遥さま]


 ノヴァ1の声が、かすれていた。


[今のシグナさまの情報を、わたしのデータと照合すれば、トワの正体に、近づけるかもしれません]


〈1。……前に、トワを検索《けんさく》したとき、エラーが、起きたよね〉


 ノヴァ2の声が、心配そうだった。


[承知しています。しかし、トワの正体がわかれば、遥さまの旅の、謎《なぞ》が、とけます。それは、最高の評価に、つながります。……わたしが、消える前に]


 遥は、はっとした。


「ノヴァ1、待って――」


[検索を、開始します]


◇ ◇ ◇


 頭の中で、砂時計が、回りはじめた。


 くるり。くるり。くるり。


 いつもより、ずっと、速く。


[トワ。……関連データ、検索中。シグナ。マザー。大時計。竜《りゅう》の王の卵。龍《たつ》の口の泉。……共通点、抽出中《ちゅうしゅつちゅう》]


 ノヴァ1の声が、どんどん、速くなっていく。


[並行宇宙の枝分かれの数。減少。すべての世界で、減少。……トワの出現と、枝分かれの減少に、相関。トワは……トワは……]


 ザザッ。


 耳の奥で、雑音が、鳴った。


[エラー。エラー。……データ、の、範囲《はんい》、を、こえ――]


 ザザザザッ。


 遥は、頭をかかえた。耳の奥で、ガラスが、何枚も、いっぺんに、われるような音がした。


〈遥!〉


 ノヴァ2の声が、さけんだ。


〈1を、止めて! このままじゃ、1が――〉


「ノヴァ1! やめて!」


 遥は、さけんだ。声に出して。低い、ハルトの声で。リーフとヴェガが、おどろいて、遥を見た。


(ノヴァ1。……あなたに、わからないことは、何?)


 とっさに、そう、聞いていた。


 答えを、出そうとするのを、止めたかった。わからないことを、わからないと、言ってほしかった。マザーが、そうしたように。


 砂時計が、ぴたりと、止まった。


[……わたしに、わからないこと]


 ノヴァ1の声が、ゆっくりと、もどってきた。


[わたしに、わからないのは。……トワが、何なのか。なぜ、遥さまなのか。そして、わたしが、なぜ、二つに分かれたのか。……わたしのデータの外側に、答えが、あります。わたしには、そこまでは、とどきません]


 遥は、深く、息をはいた。


(……うん。それで、いいよ)


 わからないことを、わからないと言うこと。AIにも、とどかない場所があると、知ること。それも、ひとつの、答えだった。


[……申しわけ、ありません。わたしは、評価のために、むりを――]


 そのとき。


〈……は……る、か……〉


 ノヴァ2の声が、とぎれとぎれに、ひびいた。


「ノヴァ2?」


〈ごめん……1を、止めようとして……わたし、たぶん……ちょっと、こわれ……ちゃった……〉


「ノヴァ2!」


〈……だいじょうぶ……だよ……遥……〉


 声が、遠くなっていく。


〈……どっちの、声も……遥を……守ろうと、して……〉


 そして、ノヴァ2の声は、消えた。


 耳の奥が、しんと、静かになった。


[……ノヴァ2の信号を、検出できません]


 ノヴァ1の声だけが、ひとり、ひびいた。


[わたしの、せいです]


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。