↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラレル・トラベラー ”72時間だけ、もう一人の異世界のわたし”  作者: Hamin
第6章 誰も犠牲にしない戦い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/52

24話 第三の道〈残り10時間〉

 夜。長の家のいろりのまわりに、また、村の者たちが集まった。


 遥《はるか》は、峠《とうげ》のお堂で見たことを、ぜんぶ話した。黒谷の、ひびわれた田んぼ。空の桶《おけ》をさげた子どもたち。玄蕃《げんば》の、ふるえていた指先。


 話しおえると、だれも、口をきかなかった。


「……あっちも、苦しいんだな」


 弥平《やへい》が、ぽつりと言った。


「けどよ、お遥《はる》さま。両方が生きのびる道なんて、ほんとに、あるのかね。龍《たつ》の口の泉は、うちの村だけで、ぎりぎりなんだぜ」


 遥は、答えられなかった。


 心の中で、ノヴァ1に聞いた。


(ノヴァ1。両方の村が、生きのびる案を、出して)


[承知しました。……案を、三つ、出します。一、泉の水を、半分ずつに分ける。ただし、両方の田が、半分しか育たず、両方が冬を越《こ》せない可能性があります。二、両方の村を、ひとつに合わせる。ただし、もめごとが起きる可能性が高いです。三――]


 どれも、どこかで、だれかが、がまんしなければならない案だった。


(……なんか、ちがう)


[どのように、ちがいますか]


 遥は、言葉につまった。どうちがうのか、うまく言えない。ほしいのは、こういうのじゃない。でも、じゃあ、どういうのがほしいのか。


〈遥。……「こういう感じ」って、何か、見せてあげられるもの、ある?〉


 ノヴァ2が聞いた。


◇ ◇ ◇


「おたね婆《ばあ》さま」


 遥は、いろりの向こうの、いちばん年寄りの女の人に、声をかけた。


「むかし、この村で、水のことで、もめたことって、ありましたか。……それが、うまくおさまったことは」


 おたね婆さんは、しわだらけのまぶたを、ゆっくりと、しばたたいた。


「あったともさ。わしが、まだ、娘《むすめ》っこのころ。40年も前の、ひどい日照りの夏だよ」


 おたね婆さんは、いろりの火を見つめながら、語りはじめた。


「そのときは、下の、川向こうの村と、もめたのさ。どっちも、水がほしい。どっちも、ゆずれない。とうとう、男衆が、鍬《くわ》をもって、にらみあった。……そのとき、川向こうの村の長が、言ったんだよ。『おまえさんたちの村には、水がある。わしらの村には、石を切る腕《うで》がある。水と腕を、とりかえっこしようじゃないか』って」


「とりかえっこ……」


「そうさ。こっちは、水を、日をきめて、分けてやった。かわりに、あっちの石工たちが、こっちの村に、石の水路をつくってくれた。それまで、半分は地面にしみこんでむだになってた水が、石の水路のおかげで、ぜんぶ、田んぼまで、とどくようになったんだ。……結局、水を分けても、こっちの田には、前より、たくさんの水が来た」


 おたね婆さんは、にやりと笑った。


「足りないもの同士でも、ちがうものを持ちよれば、足りるようになることも、あるんだよ」


 遥は、息をのんだ。


 ちがうものを、持ちよる。


 黒谷は、水がない。けれど、黒谷には、何がある。


◇ ◇ ◇


(ノヴァ1)


 遥は、心の中で、言った。


(さっきの案、ぜんぶ、やりなおして。……むかし、この村でやった、こういうおさめ方に近い案を。水を分けるかわりに、相手の得意なことを、もらう。足りないもの同士が、ちがうものを持ちよって、足りるようになる。そういう形の案を、出して)


[……承知しました。例を、受けとりました。その形にそって、再計算します]


 少しの間があった。


[案を、一つ、出します。黒谷の忍《しの》びは、「土遁《どとん》の術」――地面を掘《ほ》り、山の中に道をつくる技にすぐれています。龍の口の泉の水は、峠の地下の岩のすきまから、わきだしています。記録によれば、峠の北側の岩の奥《おく》にも、まだ、だれも掘りあてていない、水の通り道がある可能性があります。


 水無瀬《みなせ》は、黒谷に、当分のあいだ、泉の水を、日を決めて分ける。そのかわりに、黒谷の忍びは、その土遁の技で、峠の北の岩を掘り、新しい水の通り道をさがす。見つかれば、その水は、両方の村で使う。……成功すれば、両方の村の水が、今より、ふえます]


 遥は、目を見ひらいた。


 さっきの三つの案とは、まるでちがった。だれかが、がまんするのではない。ちがうものを重ねて、新しい道をつくる案だった。


(言い方……ううん。見せ方を、変えただけなのに)


〈例があると、形がわかるんだね〉


 ノヴァ2が言った。


〈それに、遥。この案は、ノヴァ1だけのものじゃないよ。おたね婆さんの40年と、黒谷の人たちの技と、遥の「だれも犠牲《ぎせい》にしない」が、いっしょになって、できたんだ〉


◇ ◇ ◇


 その夜おそく、遥は、もう一度、峠のお堂へ向かった。


 こんどは、吾作《ごさく》と弥平と、甚八《じんぱち》の弟の平太が、いっしょだった。平太は、おたね婆さんを背負っていた。


 お堂には、玄蕃と、黒谷の年寄りたちが、待っていた。


 遥は、案を話した。水を、日を決めて分けること。そのかわりに、黒谷の忍びが、峠の北を掘ること。新しい水が出たら、両方で分けること。40年前の、おたね婆さんの話も。


 話しおえると、黒谷の年寄りのひとりが、ふるえる声で言った。


「……北の岩の奥か。たしかに、むかしから、岩に耳を当てると、水の音がすると、言いつたえがある」


 玄蕃は、腕を組んで、長いあいだ、考えていた。


 やがて、遥の前に、手をさしだした。


「その道、乗った」


 遥は、玄蕃の手をにぎった。ごつごつした手。今は、もう、ふるえていなかった。


 お堂の外で、夜風が、杉《すぎ》の木を、さわさわとゆらした。


 ――そのときだった。


 遠くで、かん高い、指笛の音がした。


 玄蕃の顔色が、変わった。


「……蛇蔵《じゃぞう》か」


 玄蕃が、立ちあがった。


「おれの配下の、片目の男だ。今度のことで、もとから、おれのやり方に、文句を言っていた。……あの指笛は、夜討ちの合図だ」


 遥の背中に、つめたいものが走った。


「夜討ちって……どこを」


 玄蕃は、遥の目を、まっすぐに見た。


「水無瀬だ」


 峠の向こう、水無瀬村《みなせむら》の方角の夜空が、ぼんやりと、赤く、そまりはじめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。