第4話「支えになってくれる人たちを守るために」
「ディアナが作ったの?」
「オーフィアさんが教えてくれたの」
アンデッド化していたオーフィアさんだったけれど、順調に回復したおかげで、いつもの生活に戻ることができていた。
お嬢様のような喋り方と魔法使いのローブが特徴のオーフィアさんは、実は前衛職の斧使い。
斧を持っていなかったのは鍛錬中だからという理由。
今後は魔法の力を利用して、細い腕でも男性に負けず劣らずの腕力を振るうことができるようにすることが目標らしい。
「自分でスープを作ったって事実も、夢じゃないよね」
「うん、ちゃんと食してますよ」
「ありがとう、フェル」
今、この現実を夢じゃないと証明するのは難しい。
私たちは、魔法が使える世界っていう都合のいい夢を見続けているだけかもしれない。
現実では、魔法なんてものはとっくに消滅してしまっているかもしれない。
「ディアナ」
「ん? あ、ここは夢じゃないよ。ちゃんと私、ここにいる……」
「手、繋いでもいい?」
彼は、生きているって、実感したいのかもしれない。
「ふふっ、聖女候補に戻ったみたい」
そっと彼の手を包み込んで、彼に足りない温かさを注ぐように祈りを込める。
「そこは、聖女様じゃなくて」
彼の言葉が、囁くように聴覚を揺さぶる。
「手を、繋ぎたいなって」
「繋ぐって……」
彼の視線があまりにも真っすぐ向けられるから、私は思わず顔を横に逸らしてしまった。
「ディアナと現実で会えたってこと、実感させて」
彼は私の顔を伺ってくる。
それが分かっているからこそ、私は少しだけ下を向いて、自身の髪で顔を隠してしまう。
「ふっ、顔、赤っ」
「患者さんが、そういうこと言わな……」
顔に熱が籠り出した事実に反論しようと顔を上げると、そこには彼のぎこちない笑みが存在した。
私を揶揄っているような口調のフェルだけど、彼の心の内に不安の感情があることに気づく。
「……夢じゃないよ」
手を、そっと彼へと差し出す。
すると、彼の瞳がほんの少し驚きを見せる。
少しだけ戸惑ったけど、彼と視線を交える決意を固める。
「フェルは、ちゃんと現実に帰ってきたよ」
彼の手に、自分の手を重ねた。
指先が触れた瞬間、それらは絡められて、私たちはより深いところで繋がり合う。
「ディアナの手、あったかい」
彼の小さな呟きに、私は笑顔を向けた。
「生きてるから、あったかいの」
聖女候補だから、治癒魔法の使い手だからといっても、救えない命というものは存在する。
命が失われた身体の冷たさを知っているからこそ、身体に血が通うことを確かめられる機会に涙が溢れそうになってしまう。
「フェルの手も、あったかいよ」
部屋に、風が入り込んでくる。
春風って言葉が相応しいような穏やかさを含んでいて、ここがダンジョンの中とは思えなくなってくる。
「ディアナばっか、先に先に行っちゃうんだよなぁ」
「先にって……私は、ここにいるよ?」
窓から吹き込む春風が、カーテンを柔らかく揺らしていく。
「ディアナはいつだって、俺の憧れ……」」
「ディアナ! 患者!」
突然、扉を大きく叩く音が響いた。
それと同時に、切羽詰まったルトの声が扉の向こうから届けられる。
「治癒魔法の使い手、もっと増やさないとだなー……」
「いってくるね、フェル」
すぐさま椅子から立ち上がって、フェルの温かさから離れる。
「私の命は、患者さんのために」
離れたはずの彼は、再び私を追いかけてくれる。
「患者さんを守りたいなら、自分の命を大切に」
フェルの手が伸びてきて、私の頭を優しく撫でる。
「いつまでも聖女様精神でいたら、早死にするって」
彼の手の温もりが伝わってきて、自分の頬が赤く染まっていないかと心配になる。
「……生きたい。だって、もっと多くの患者さんを救いたいから」
頬を赤く染めている場合じゃない。
それどころじゃないって分かっているけど、顔には抑えきれない笑みが浮かんでいるに違いない。
「よろしくお願いします、フェル」
撫でられる感覚が、あまりにも心地よい。
このまま彼の温かさに安心感を抱いていたいけど、ここで幸福に浸り続けるわけにはいかない。
「こちらこそ、よろしく。ディアナ」
二番目の聖女という事実と揶揄に対して卑屈な生き方をしそうになったけれど、私の隣にはいつだって二番目の聖女を支えてくれる人がいる。
その支えになってくれる人たちを守るために、今日も私は治癒魔法の力を世界に注ぐ。




