陸を離れて・3
グランマニエからジャンドゥーヤへ向かう船は魔物の襲撃によって無残にも沈んでしまった。
……が、乗客船員共に聖依術で水の精霊の力を得たシュクルが助け、どうにか無事だった。
ただ、東大陸まではだいぶ遠かったので、近くにあった島に運ばれた。
「咄嗟にやってしまったが……よくもまぁ、これだけの人数を救助できたもんじゃ……」
「つ、つかれた……さすがに少し休むぞ……」
シュクルは憑依を解き元の姿に戻ると、倒れこむようにして眠ってしまった。
ミレニアも消耗しているようだが、どうにか意識は保っている。
「二人を休ませなければな……近くに村や町があればいいが、ここはどこだろうか?」
「どこかの島のようだけど……あ、ほら見て!」
イシェルナが示した先には、一風変わった趣の塔が聳え立っていた。
「ノーヒントで動くよりはマシだな。よし、あれを目指すか」
「誰が人がいるといいですね。船員さんや乗客さん達もこのままじゃいられませんし」
見知らぬ地での不安もあるが、何もせず動かないままではいられない。
「グランマニエとジャンドゥーヤの間にある島、か……」
「誰かいればわかる事だ。いこう」
「あらん、行き当たりばったりね。おねーさんそういうのも嫌いじゃないけど♪」
茶々を入れるイシェルナを溜め息まじりに一瞥しつつも、デューは唯一の手掛かりである塔を目指して進みだした。
程無くして、塔の周囲に住居らしきものが見え始める。
木々に囲まれ自然に彩られた里が、一行の前に現れた。
「ここは……」
「外からの客人とは珍しいですね」
静かな、穏やかな女性の声。
青みがかった長い髪を結い上げ、フィノのそれともまた違った異国の装束を纏った、優雅な佇まい。
ただしその声は背後からのもので、デュー達の誰も彼女の気配に気付くものはなかった。
「あ、貴方は……?」
「わたくしはミナヅキ。このマンジュの里の長を務めています」
おそるおそる尋ねるオグマに、ミナヅキはしっとりとした声音で応えた。
「マンジュ? もしやと思ったがやはりここはマンジュ島か……」
ここに来るまで得られた情報で自分なりに現在地の見当をつけていたらしいオグマは、ようやく納得するとミナヅキに一礼する。
「突然踏み入ってしまってすまない、ミナヅキ殿。実は……」
デュー達は自己紹介と、自分達が現在おかれた状況を彼女に説明した。
一通り聞き終えると、ミナヅキはゆっくりと口を開く。
「……そうですか。それは災難でしたね。船員や乗客達のもとへは里の者を向かわせ、我々が保護しましょう。あなた方もゆるりと、まずは身体を休めてくださいね」
「ありがとうございます、ミナヅキさん」
ぺこりとお辞儀をするフィノにミナヅキは優しく微笑みかける。
が、ふいに視線をイシェルナに向けた。
「ところで、貴女はイシェルナといったかしら?」
「え? ええ、そうだけど」
「もしかして、ウイロウの弟子の……?」
「ししょーを知ってるの?」
何の気なしに聞き返した瞬間、ぴしりという音が聞こえた気がした。
ミナヅキの笑顔が引きつり、思わずデュー達は後退りをする。
「知ってるなんてものじゃありませんよ……あの男、長の座をわたくしに押し付け自分はふらふらと放浪の旅に出て、ようやく手紙をよこしたと思ったら戻る気はないなどと……!」
「ししょーがいつも言っていた怖……昔馴染みってミナヅキさん? 恋人とかだったり……」
しかしイシェルナが最後まで言う前に鋭い眼光が言葉を遮った。
否定を口にしてはいないが、それは察するには充分過ぎて。
「違う、みたいね」
「わかって貰えて何よりです。あの唐変木に会うことがあったら、一度顔を見せるように言ってくださいね」
顔こそ笑っていたが、マンジュの里を統べる女性の放つ凄まじい威圧に、デュー達は無言で首を縦に振るのみであった。




