再び、霧の山脈へ・2
三人はアトミゼ山脈にやってきた。
入口付近から登っていくと次第にその代名詞である霧が濃く立ち込め、視界を遮っていく。
「前はこの道を下っていったんだな。もう懐かしい気がする」
「あの時の落石はこの通り、取り除かれてまた行き来出来るようになったんだ。ほら、この辺りだ」
「落石?」
フィノが首を傾げるとデューが「ああ」と頷く。
「この辺りでデカい魔物に襲われてな、倒したのはいいんだがその時に起きた落石で道を塞がれちまったんだ。お陰でオグマは家に帰れなくなって、オレ達と来ることになった」
「それは災難だったんですね……」
と言いかけた所でフィノは慌てて口を噤み、
「あ、違いますよ! 帰れなくなったのが災難で別にデュー君達とは……」
「……まあ、オレの案内なんてしなけりゃオグマを巻き込まなかったからな。そこは悪かったよ」
「あうぅ……」
自ら掘った墓穴を広げられてフィノの身が縮こまる。
「……いや、デューじゃないが、それも今思えば良かったと思っている。こうでもしなければ私はまだここで一人閉じこもって、前に踏み出す事はなかったろう」
「今は世界一周、だもんな」
デューはフォンダンシティで暮らす鍛冶職人、ガトーがオグマを送り出した時の言葉を借りてニヤニヤと見上げた。
その時に思いっきり背中をひっぱたかれた記憶が蘇って、オグマの肩が竦む。
「う……そ、そうだな」
「あ、見えてきましたよ! もしかしてあの山小屋がそうですか?」
「あ、ああ」
フィノの声に話題を断ち切られ、オグマはホッと胸をなで下ろした。
彼女の指差す先は心なしか霧も薄く、ぼんやりとだが簡素な小屋が見えた。
「ホントに目と鼻の先だったんだな、オレが落ちてきた所と」
「ああ。すぐ済むから二人はここで……」
と、ここでおもむろに小屋の扉が開いた。
「ふぁ~あ、よく寝たぜ~」
鍛え上げられた筋肉を纏った褐色の肌、整えられていないボサボサの髪、野性味を帯びた鋭い目。
そして身の丈ほどの石の棍棒を携えた男が中から現れ、三人は目を疑った。
「オグマさんの家……ですよね?」
「そ、そのはずなんだが……」
「本人が弱気になってどうすんだよ!」
デューの声にびくりとしたオグマに男が気付いて視線を向ける。
「んー、なんだぁ? こんな所に人間なんて珍しいな」
「お前に言われたくない。その小屋はここにいるオグマの家なんだ。ここで何をしてるんだ、不法侵入者」
オグマの代わりにデューが進み出て反撃した。
男はわしゃわしゃと豪快に頭を掻くと、寝ぼけ眼で三人を見る。
「ふほーしんゆーがなんだって?ガキんちょ」
ガキんちょという地雷の言葉にぴく、とデューが反応した。
「不法侵入者だこのバカ。そんな事もわからないのか?」
「デュ、デュー君、そんなに刺激したらっ……!」
バカ、の一言に男の片眉が上がり、目つきが変わった。
「バカだと?……この俺様をバカ呼ばわりするとはいい度胸だ。よぉしそれなら叩き潰してバカなんて言えなくしてやるぜ!」
男が棍棒を振り回すと風圧で辺りの霧が吹き飛ばされる。
そして獣を思わせる雄叫びが響き渡り、彼のもとに魔物が集まってきた。
「この男、まさか魔物を操る力を……?」
「厄介な相手みたいだな……いくぞ、オグマ、フィノ!」
「あああ、穏便な話し合いが出来たかもしれないのにデュー君ったら……」
もはやそんな状況ではないと悟り呆れながら渋々武器を構えるフィノ。オグマも早速襲いかかる魔物の攻撃をかわし、体勢を整えた。
「少し気が引けるが仕方ない、か」
「ああいうバカにはこの方が手っ取り早いんだよ!」
行く手を阻むように次々飛びかかってくる魔物を切り払いながらデューは笑う。
意外と好戦的なのかもしれない、と思いながらフィノが後方で術を唱える。
「降り注ぐ洗礼の光、刃となりて標的を貫く!」
音を立てて杖を掲げると、無数の光の剣が上から魔物達目掛けて降ってきた。
「渋ってた割にはやる気だな、フィノ」
「誰のせいだと思ってるんですか!? やらざるを得なくなっちゃったの!」
強力な術攻撃に怯んだ拍子に道が出来ると、デューが隙間を縫って駆け抜ける。
「こういうのは頭を潰せば終わりだ!」
「おい貴様、さっきまたバカって言っただろ! 俺様の耳にはちゃんと聞こえてんだぞ!!」
青年は常人なら扱えないような巨大な得物を振るい、デューの剣を受け止める。
「! 危ないっ!!」
「がっ……!」
オグマがすかさず防御の術をデューに施した次の瞬間、大振りな一撃がデューを吹き飛ばした。
咄嗟の受け身と術のお陰で深手にはならなかったものの、それなりのダメージを負ったデューが膝をつく。
「……ふっ、なかなかやるじゃねーか」
「当然だ。俺様は強いからな」
ニヤリと犬歯を見せる男にデューは気圧されず不敵な笑みで返すと口元を拭い立ち上がった。
「デュー、まだ治癒術がっ……」
「さっきから邪魔しやがって、まずはお前から倒してやる!」
男は矛先をオグマに変え、一気に距離を詰めて襲いかかった。
オグマはすぐに治癒術の詠唱を中断し、身構える。




