再び、霧の山脈へ・3
……と、そこに。
「旦那ぁぁぁぁあああ!!」
上からそんな叫び声が聞こえたと思えば、どこから飛んできたのか緑髪の青年が男とオグマの間に着地し、斧槍を構えた。
「リュナン・ヘイゼル、ただいま参上ぉ!」
デュー達がよく見知った、その姿。
「リュナン……?」
「また邪魔が入るのか!? めんどくさい、纏めて倒す!!」
「へへ、それは出来ますかね?」
ニッと口の端を上げ、武器を振り払うリュナン。
この間にオグマは一旦下がり、デューに治癒術を唱えていた。
「リュナンさん、どうしてここに!?」
「嬢ちゃん、話はあと! 今はこのおバカさんにお仕置きしないとね♪」
「またバカって言いやがったなどいつもこいつも!!」
怒りに任せて横一文字に振った棍棒は空を切り、大きな隙を生み出した。
「ほらね、このくらいで隙を作っちゃうおバカさんだ」
重い武器を振るった反動で無防備になったところに同じように槍斧を豪快に一閃、オマケに蹴りも加えて男を吹っ飛ばした。
「ぐはぁっ!!」
岩壁に叩きつけられた男が崩れ落ち、苦痛に呻く。
「ぐっ……この程度っ……俺様は……」
「もう終わりだ」
男の声を遮って、オグマが言い放つ。
そのまま歩み寄ると、しゃがみ込んで目線を合わせた。
「君を怒らせてしまった事はすまなかった。だが、もう戦う必要はないだろう? まずは話を聞いてはくれないか?」
「旦那っ、そんなに近付いたら……」
「君は賢いんだろう? それなら、私の言葉もわかるはずだ」
賢いと聞いて男の表情筋が弛む。
嬉しさを隠しきれず、口元が歪んだ。
「そっ……そこまで言うなら、話を聞いてやらないでもないぞ!?」
警戒を解いたらしい男に内心で安堵の息を吐くオグマ。
「……良かった。まず君が出てきた小屋は本当は私の家なんだ」
きょとん、と男の目が瞬いた。
「そうだったのか? それなら最初からそう言えばいいだろう」
「いや言ってたのに聞かなかったお前がバ……」
「しっ、少年黙って! 頼むからこれ以上ややこしくしないで!!」
どうやらガキんちょ発言をまだ根に持っているらしいデューが反論しようとするのをリュナンとフィノが必死に制止する。
「そういう事なら、勝手に借りて悪かった。ちょうど休憩したい所にあったから……」
「わかってくれたなら良い。怪我をさせてすまなかったな」
目を閉じたオグマの周りに光の粒子がふわふわと漂い、集う。
左手を翳すと男の身体がみるみる楽になっていく。
「お前、なんで俺様にこんな……」
「こちらも多少は悪い。せめてこのくらいはさせてくれ」
すると男は立ち上がり、しゃがんだままのオグマを見下ろす。
しばらく考え込むと棍棒の柄に手をかけた。
「旦那!」
「安心しろ、俺様は何もしない。今はな」
重い棍棒を肩に担ぎ、男はデュー達が来た方に向かって歩き出した。
ぴたり、と足が止まる。
「……だが今度会った時には負けないからな! 俺様は負けたままじゃいられねーんだ、覚えとけ!!」
「そうか、元気でな」
微妙に噛み合わない会話を交わすと、男は去っていった。
「覚えとけって、暴れるだけ暴れて名前も言わずに行っちゃったよ……」
「傍迷惑なヤツだ」
「デュー君も悪いですよ、今回は」
めっ、と叱るフィノから顔をそらすと、その先にはリュナンがいた。
「そういえばリュナン、どうしてここに?」
「あはは……慌ただしい再会になっちゃいましたね」
リュナンは指先でぽりぽりと頬をかくと、誤魔化すように笑う。
「とりあえず少し休もう。狭い小屋だが、外で話すよりはマシなはずだ」
オグマはそう言って仲間達を自分の家である山小屋の扉に招き入れた。




