4話:隣の席の文山君
「てーい。」
「………えっ?」
特進コースのクラスは二つあり、順位別に分けられていた。
首席は一番前の真ん中、次席は一つ後ろ、といったように縦に並んでいる。
こっちは外部入学の人が多く、知らない人が殆どだ。
馴染めるかと不安を感じていたときに、唐突に左頬を突かれたのだ。
手をそっと引き離し、左を確認すると、ひらひらと手を振って
此方に笑顔を向けている男がいた。
「顔暗いですよー学年首席さん?」
顔にも声にも覚えが無かったので、外部入学の人だ。
「………はは、そうだったかな。」
「ほーんっとに。あ、もしかして、カンニングですか?」
……初対面なのに失礼な人だ。それに、何故そんなことを急に聞いたんだろう?
「そんな事出来ないくらい監視が厳しいの、受験の時によく分かるでしょう。」
「ふふっこれは失敬!今まで受けたテストが全て満点だったと聞いて、
どうしても疑ってしまったんです。」
どこでそんなことを聞いたんだろう。
内部進学の人の中に友人がいるとしてもそれは違う。
学年内での順位は発表されるが、点数までは公にはされない。
とすると、双子の兄で明るい雹に聞いたのか?
「霧野君?どうしたんですか?」
「あ、ううん。ちょっと考え事。」
「そうですかー。」
……あいつと僕が双子ということを知ってるのは雨衣と小学校が一緒だった人くらいだし、顔つきも性格も似ても似つかないので大抵の人は知らない。
僕のことを「霧野君」と呼ぶ人は小学校の頃いなかったし……
………となると、どこで聞いたのだろう?
「あ、自己紹介が遅れましたね。俺は文山憲司です。
敬語は昔からなのでお気になさらず。」
……うん。やっぱり知らない名前だ。
「僕は霧野霰。サッカー部にもう一人"霧野"がいるから、
名前で呼んでくれるとありがたいかな。」
「分かりました。よろしくお願いします、霰君。」
「こちらこそよろしく、文山君。」
文山君と握手をしたまま、気になったことを直接ぶつけた。
「ところで、僕のテストの成績の事って誰に聞いたの?
今日初対面だし、僕が双子ってこと、知らないと思うんだけど。」
文山君は笑ったままだけど、少しだけ握っている力が強くなった。
(……畳み掛けるのはよそう。多分ハッキングだろうし。)
チャイムがなったので、手を離し、また今度ね、と小さく手を振った。
文山君は少し目を見開いて、小さく何かを呟いた。
**************
「あ、俺こっちなので。それでは、また明日。」
「おー。またな文山!」
文山、と呼ばれた、少し長い茶髪をゴムで一つにまとめている学生は、スーパーで買い物を済ませ、しばらく歩いたあと、注意しなければ気付かないような小さな路地裏に、慣れた様子で入って行った。右に曲がり、少し行くと、新しい、とは言えない引き戸が、突き当たりにぽつんと設置されていた。
その学生は、所々ペンキの剥がれた大きめのその引き戸を開け、
丁度通りかかった人物に声を掛けた。
「『二人目』、只今戻りました。『五人目』さん、晩御飯作るの手伝いますね。」
「………おかえり、『二人目』。」
声を掛けられた人物は淡々とそう返し、
学生の持っているスーパーの袋の中を覗いた。
「……今日は野菜炒め、明日が焼きそば……了解した。」
着替えて来い、と学生に言い、くるっと背を向け早々と歩き出す。学生は言われた通り自分の部屋に向かい、無地のTシャツにジャージといったラフな格好になった。部屋を出てキッチンに向かうと、エプロンをつけ皿を洗っている、先ほどの人物がいた。人物は学生に気付いたが、顔を向けるわけでもなく、そのまま皿洗いを続けたまま口を開いた。
「………随分早かったな。」
「ええ、ラクな服を選んだので。」
既に軽く積まれている皿を拭きながら返す。
あ、そうだ。と学生は思い出したように切り出し、
「ふふ、実は俺ね、『探偵殿』の隣の席だったんですよ!」
と嬉しそうに言った。皿を洗っている手が少し止まったが、再び動かし始め、
そうか、良かったな、と言葉を紡ぐ。学生は楽しそうな笑顔で話を続けた。
「それでですね、前回と同じようにカマをかけてみたんですが、
すぐさま見破られてしまいまして。いやあ、あれは驚きました!」
「成る程。今回は若干"腹黒い"のか。いや、"疑い症"か?」
「うーん……そこはまだ分かりかねます………」
そこまで会話が進むまでには皿洗いを終えており、食材の準備をしていた。
「そういえば、『七人目』がいませんね。俺が出る直前も寝てたし……」
「ああ、急遽バイトが昼から入ったらしくてな。向こうから電話がかかってきたから叩き起こした。ボーナスは出るらしい。」
「あの……前から聞きたかったんですが、『七人目』のバイトの内容って……?」
「俺も聞いてみたが、知らない方が身のためだ、…と言われて門前払いだ。
『三人目』に聞けばすぐ分かるんだがな………痛ッ!」
「わっ大丈夫ですか『五人目』さん!?ば、絆創膏…!」
「………ふぅん、成る程ね。」




