3話:人の影
先輩に自己紹介された時に、僕のケータイにメールが届いた。
小宮先輩が、「一人目の仲間」?
「ね、涼先輩!」
「どーした勝須野?」
僕がメールに気をとられてる間、雨衣も先輩に自己紹介したようだ。
もう仲良くなってる。流石秒速フレンドリー。
「折角だし、連絡先交換しましょうよ~」
(うん……何の折角なんだろう……?)
本当、よく分からない男だ。
でも、僕も知っておいた方がいいか。
「僕もお願いします。……雹への伝言とか頼みたいし。」
「おう!いいぞ!」
小宮先輩は元気に返事をしてくれた。
雹はよく勉強の約束をすっぽかすので、
それを口実にして頼んでみたけど、先輩には必要なかったみたいだ。
この人、"就職コース"だ。
恐らく小宮先輩もスポーツ推薦で入ったんだろう。
この高校は、大きく分けて3つのコースがある。
入る人の殆どがスポーツ推薦の"就職コース"。
それから、一番受け入れ数の多い"進学コース"。
そして、過半数が内部進学者の"特進コース"。
が、この高校はなかなかのマンモス校で、教師も生徒の名前どころか
顔すら覚えるのに一苦労。特に進学コースは一教師あたりの
負担が大きいので、各クラスの生活指導と教科担当が分かれている程だ。
そこで、コースごとに見分けがつくよう、ネクタイの柄が違っているのである。
色は自由だが、柄を変えてしまうと教師全員から説教を受ける事になる。
実際に実践した人は何人もいる。そして朝着けていない人も例外ではない。
そのためか、生活指導の先生の説教は必死の形相で行われる。
……まあ、そんなわけで、コース選択は一目見て分かるのだ。
「ほんじゃ、俺そろそろ行くわ!」
「「はーーい」」
小宮先輩……"仲間"の事を聞くのは、もう少し時間が経ってからの方がいいか……
「しっかしなー。俺やってけるかなぁ?」
「お?急にどうしたんだ?」
「だってさー、霰は特進でも勿体無いくらい頭良いし、
雹もスポーツ推薦だからあまり気遣わなくていいかもだけど、
俺、進学コースだぜ?辛うじて受かったけど………」
勉強に置いてかれないか心配……って?
雨衣って意外と真面目なんだよなあ。
「ま、そんときゃ霰に教えて貰えばいいだろ!」
「そうだな!」
「え、待って、僕教えるの下手だよ?」
僕が少し反論すると、二人は一瞬ポカンとして、また笑い始めた。
「まーまー!何とかなるっしょ!」
「ウェーイ!!」
「お前ら……お気楽だなぁ……」
この二人のほうが、よっぽど双子っぽいや。
**************
霰達が話している様子を見ていた影が、四つ。
いづれもフードを被っており、双眼鏡を持った人物が口を開いた。
「……メール、見たな。」
「そうだねぇ~。今回は間に合うかも!」
小柄な少年が、わくわくしているのが伝わってくる。
「いや……間に合わないんじゃない?
『一人目』君でこのザマよ?『三人目』君の時が思いやられるわ……」
ヒールを履いた女性が女性が、少年の頭を撫でながら
ため息混じりにそうぼやいた。
「ま、そんときゃ俺らが助け舟出してやれば良いじゃん?」
青いメッシュの入った青年が笑う。
双眼鏡を持った人物がケータイを取り出し、
とある人物に電話をかけた。
「………もしもし。『二人目』か?」
「おや、『五人目』さん。どうしたんですか?」
五人目さん、と呼ばれた人物が、別に、と小さく返す。
「『二人目』ー、『三人目』の事、宜しく頼んだよー。」
青年がケータイを取り上げ、ゆるーくそう伝える。
「はいはーい。任せてください『七人目』!」
電話の向こうの人物は、明るくそう返した。
青年が通話を切ると、女性が心配そうにため息をついた。
「大丈夫かしら…前回、危うかったでしょう?」
「『二人目』さんなら大丈夫だよぉ。多分!」
それに対して、少年がふわっと返す。
「今回も時間ギリギリかなー?俺らが助けても……いや、よそう。」
青年が頭をガシガシと掻きながらそう言う。
『五人目』は双眼鏡を構え、霰の髪をぐしゃぐしゃにしている雨衣をじっと見つめた。
「……どうだって構わない。『探偵殿』次第だからな。」
その翡翠の瞳に、光は宿していなかった。




