5話:仲間と兄弟事情
小さな路地裏の突き当たりにある引き戸の前に、
背中の曲がった青年の影が、街灯によってより濃くなっている。
「『七人目』戻ったぞ~……お、珍しい出迎えだな?」
「ええ。私も今出迎えてもらったところよ。」
玄関に立っていたのは、二人。
一人は、パリッとした女性用のスーツで身を包んだ強気そうな美女。
もう一人は………
「おう。ちょっと話があってな。ま、安心しろ。俺も眠いし手短に話すから。」
………金に染めた髪をピンで留めている、切れ長の目をした学生であった。
「………ってあれ、『二人目』と『五人目』は?」
「彼奴らならぐっすり寝てるぜ?晩飯も二人で作ったらしいし。」
「…!話は食べてから聞くぜ……」
「え、お、おう……」
珍しく食い意地張ってるな……と学生は苦く笑った。
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「あられ兄さぁん、おーきーてー?」
雪よりも低く、落ち着きと子供らしさを含んだ声。
寝返りを打ち、ゆっくり目を開けると、
「……霜…?」
「そうだよぉ!雪はひょう兄さん起こしに行ってる!」
「そっか……あ、ごめん、眼鏡取ってくれる?」
「いいよぉー!はい!」
「あ、ありが……」
眼鏡を受け取ろうと起き上がったら、ガンッ!という音とともにくる強い衝撃。
「い、いったぁ……!!」
「あっはは!かかったぁー!」
霜が手を叩いてキャハハと笑っている。
頭を直撃したものを見ると……か、金盥!?
(台所にあるやつじゃん!つららちゃんめっちゃ怒ってるだろうなぁ……)
「………霜?」
時すでに遅し。怒りのこもった声が静かに響く。
「その金盥……どこから持って来たの?」
「え、えっと………」
「誰に、何のために使った?」
「め、目覚まし……」
「だ、れ、に?」
「……あ、あられ兄さんに、です………」
「怪我の危険は考えなかった?」
「……………」
つららちゃんが深いため息をつく。眉間に皺を寄せたまま。
霜が泣きそうになってる………
「あの、つららちゃん、許してあげて?霜も反省してるだろうし。ね?」
「………でも霰君、頭を怪我してたかもしれないんだよ?」
「うん。次はかわせるように頑張るよ。」
「あられ兄さん……」
「でもね霜」
「!う、うん」
霜の緊張した視線を感じる。僕は全く怒ってない。
小学生の頃の雹のいたずらに比べたら可愛いくらいだ。
僕もよくやってたなぁ。……じゃなくて。
「痛かったからくすぐりの刑ね。つららちゃん、捕まえててくれる?」
「りょうかーい。」
「え、ちょ、待っ……キャハハハハハハハ!!!ギブギブギブ!!」
「まだまだ!」
「あははははは!!も、もう無理……あははは!!」
こうやって戯れる時間があるのは、一家全員早起きで良かったと思う。
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「あ、おはようございます。……霰君、何か良いことでもあったんですか?」
「おはよう文山君。ふふ、朝ちょっと弟と遊んでたから。」
「弟さんと?仲良しなんですね!」
「そういえば、文山君って兄弟とかいないの?」
(………さりげなく聞けたかな?)
昨日のハッキング然り、好青年的な風貌で接し方も丁寧なのに、
文山君はたまに非常識的な行動に出る。あまり嘘はつかないようだし、
情報は多いに越したことはない。不自然にならない程度に聞き出そう。
「うーん、兄弟はいませんが、兄弟のように育った子ならいます。」
(………「子」、ということは、年下か。多分、女の子。)
「へえ、どんな子なの?」
「ちょっと人見知りするんですが、強くてかっこよくて、
翡翠の目がとても美しいんですよ!」
「そうなんだ~」
(翡翠の目……か。物覚えはいい方だけど、あまり見たことないなぁ。)
キーンコーンカーンコーン
「また今度話聞かせてね。」
「ええ。貴方の話も、是非。」
「……もちろん。」
彼の話をもう少し聞いてみよう。
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時は遡って、深夜零時頃の、路地裏にある家。
「………で、話って何?」
「おい、その前に米粒取ったらどうだ?」
おっと。それは失礼。猫背の青年が袖で口を拭う。
スーツを少し崩した女性は、みっともない、と窘めるように睨む。
「さて、話ってのはまぁ、『三人目』のことだ。」
金髪の学生がそう切り出すと、聞いている二人の肩がギクリと揺れる。
「え、ええ……」
「ハハッそう固くなるなよ!あいつの記憶が戻って無いってだけだから!」
とんでも無いことを聞かされたと言わんばかりに二人の顔は青ざめていき、
金髪の学生は声を抑えながら爆笑している。
「は…はは。こりゃもう笑うしかないな……」
「だろー!?」
スーツの女性は困った笑みをこぼし、すぐさま冷静な顔つきとなった。
「ということは、こちら側で記憶を消されているのは
『探偵殿』と『三人目』ということになるわね。」
「そこに俺も入れといてくれよー。」
「え、お前記憶持ちじゃん?」
「おう。けど、天ぷら的なんだ。」
「……それを言うなら後天的じゃないかしら?」
「そう、それ!」
しかし、後天的に……か。何で思い出したんだ?と猫背の青年が気だるけに聞く。
金髪の学生はため息をつき、口を開いた。
「……夢だ。」
普通は首を傾げる程度の"戯言"だ。
が、彼らにとっては笑い事にならない案件だった。
「夢!?ということは、あの『夢見せ野郎』は記憶持ちってことか!?」
「それどころか、『傍観者』の可能性もあるわね……」
青年は机をバンと叩いて立ち上がり、
スーツの女性も、冷静に分析を続けているが、冷や汗が頬を伝っている。
「はー……やな予感しかしねぇなー……」
「最悪、誰かが死ぬわね。」
「死ぬだけで済んだらいいけどな……下手したら次回からおさらばだぞ?」
「誰かが消えるってか?チビ共が対象になることだけは阻止しねぇと。」
「なら、俺らのうち誰かか。ま、謎解きをちゃっちゃと済ませればいい話なんだがな。」
「それが出来るかは『探偵殿』次第ね……」
「見込みは……良くて相打ちってとこか?」
「クソ……あのサイコ野郎……!!」
「………うん、ハハハ。上出来じゃないか。」
モニターだらけの部屋で、前髪で目の隠れた少年がクスクス笑った。




