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15:灼けつくような不安

「遅いなあ」

 雨音にかき消えそうなほど、弱いつぶやきだった。

 ぽつりと漏らしたルナリアの一言に、ユーリは面倒くさそうに、でも放っておけないのか、律儀に返事をした。

「もたもたしてるんじゃ無いの? まだ突入しようかどうか迷ってたりして」

「いえ」

 ルナリアは妙にしっかりした調子で、ユーリの言葉を否定した。

「昨日のアキラの様子を見ている限り、あんまり迷いはしない人のように見えました」

「案外そう言うのは解らないものだよ」

 気楽な感じでユーリは言う。一回目は躊躇しない。でも、一度あの嫌な暖かさを感じてしまったら、二歩目を踏みとどまってしまうのも解る気がした。

 私には、とユーリは思う。私には、使命感があった。だから、二歩目を踏みとどまるわけにはいかなかったのだ。

「私、見てきます」

 がたり、とルナリアが立ち上がった。一瞬遅れて、ユーリは彼女の手を捕まえた。

「ちょっと、この雨の中出て行く気?」

「でも、なんか嫌な予感がするんです」

 誰も寄せ付けないようなルナリアの声に、ユーリは一瞬言葉を失い、やっとの事で見失った言葉を呼び戻してきた。

「ルー、あんた、もし人に見られでもしたらどうする気? この建物の中の連中はお互い干渉し合わないことを条件にここに住んでるから大丈夫かもしれないけど、そとの連中に見られたら、あんたはまた…………」

「こんな雨の中、でしょう?」

 ルナリアはにやり、と笑った。ユーリの見たこと無い、悪巧みの種を思いついたような、いたずらっ子のような、そんな笑みだった。

「こんな雨の中、誰が出歩くんですか?」

「………………だけど」」

「外套のフードをかぶって歩きますし、大丈夫です。誰にもけどられないように言ってきます」

「でも、あんたが行った所で、アキラがただもたもたしてるだけなら、あんたが行く必要はなかったことになるじゃ無い」

 なんとか説得しようとするユーリをなだめるように、ルナリアはゆっくりと、噛んで含めるように言った。

「私はそれが一番だと思ってます。アキラが無事なら、私はすごく嬉しい。そうじゃ無いかもしれない、って気がしてるから、私は雨の中出て行くんです」

「じゃあ私が行くから!」

「私に行かせてください」

 ルナリアはユーリの目を覗き込む。

「大雨の夜なんていつも、家の中から出してもらえなかったんです」

「…………」

「降りしきる雨を浴びるのって、どんなに楽しいか、私にはわかりません」

 もう、ユーリに言うべき言葉は残ってなかった。壁に引っ掛けてある外套を無造作に取ると、ルナリアに手渡した。

「気をつけてね、ルー」

「はい」


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