12:幸せはすれ違う
◇
「なんでですか!?」
ルナリアはユーリに食ってかかった。胸ぐらさえ掴みそうな勢いだった。ユーリがされるがままになっていると、ルナリアははっとして、掴んでいたユーリの方から手を離した。
「…………ごめんなさい」
「いいよ」
ユーリの声は穏やかだった。ルナリアの行きはまだ荒い。
取り乱したことを謝るかの様に、ルナリアは、んっ、と咳払いをした。
「何度も言います。私は“それ”が欲しいわけじゃないんです」
「おせっかいを言ってるのは解ってる。でも、これは」
「ユーリの気持ちはすごくありがたいんですけど、私だけ“それ”を手に入れてしまっては、不公平というものじゃないですか?」
「じゃあ、私が“それ”を、他の人にもあげるから! だから…………」
「ここだけは譲り合えないんですね」
普段の二人からは想像もつかない形勢だった。ルナリアが何者にも触れられることのないところに立って、ユーリがそこにたどり着こうと、必死に手を伸ばしている。でも、決して届くことはない。
ルナリアは、ふっと口元を緩めた。小さな子供に微笑みかける様な笑みを湛える。その表情を見て初めて、ユーリはなぜか、窓から嫌な風が入って来たのをよりはっきりと感じた。
「私がユーリにお願いしたこと、覚えてますか?」
「そりゃ、忘れるわけないじゃん」
「それを聞けてよかったです」
ルナリアはすとん、とベッドに腰を下ろした。ぽんぽん、と隣を手のひらで叩く。ユーリは素直にそれに従った。
二人並んでベッドに腰掛ける。
ルナリアがこれを嫌がるのは、ユーリには解っていた。彼女は淑やかで、朗らかで、公平だ。それを一番知っているのは、もしかしたら自分かもしれないのに、やっぱり、言い出せずにはいられなかった。
今日、アキラにはきつい方の仕事を背負ってもらった。二回目だが、まあ、女の子の魂玉を抉り取ってくるくらいのこと、彼にできないはずがない。今日の自分の仕事もまた、女の子から魂玉を抉り取ってくることだった。ただ、彼女はルナリアと一緒で珍しく一人部屋をもらえていたから、少々荒っぽく仕事を終えても誰かがくる心配はなかった。
自分が、躊躇なく魂玉を抉りとる様になっていることに気づいて、ユーリは暗闇でいきなり後ろから首を絞められたかの様に、目の前が真っ暗になったのを感じた。
せめて、躊躇だけはしていたかった。実際に魂玉を抉りとるのはよくて、躊躇だけはしていたい。虫のいい願いごとだとは思ったが、そうしないと、自分の人としての魂が、だんだん機械人形のゼンマイに入れ替えられていく気がして、寒気がした。
だから、もう、この仕事が終わった瞬間に、ルナリアにこの話を持ちかけるしかなかったのだ。いくら拒絶されようと、ユーリ自身の願いは元からこれしかない。
ユーリは息を詰めて、ルナリアの次の言葉を待った。
窓の外で、小さな雫が瓦を叩く、かわいらしい音がした。
「私の願いごとは、前にも話した通りです。それが私の幸せだと、私がそう信じているんです」
「…………」
「私の幸せを、応援してはくれないんですか?」
ユーリは、なぜか一言も返事をすることができなかった。
いま、自分の幸せと、ルナリアの幸せは、圧倒的な速さですれ違って、お互いに遠ざかっているのだ。
当然、とてつもなく寂しいことだ。




