11:今日はひとり屋根のうえ
「くそう」
誰にともなく、苛だち交じりにアキラは呟いた。冷えてきた空気が風になってアキラの肌を撫で、それがさらにムズムズと彼の不快感を煽る。
今日は一人で、屋根の上から沈んでいく夕日を見ていた。もうあと少しすれば、丸い太陽は下側が高い城壁のてっぺんにめり込むのだろう。ぐるりと首を回して東に目をやれば、黒い雲が太陽を追いかける様に、山の向こう側からこの街に覆いかぶさろうとしているところだった。今いるところが、ちょうど街の一番凹んでいるあたりだからか、雲が今にも落ちてきそうなほど重そうに見えた。
雨が来る。重そうな雲は、明らかにその前兆だった。
せめてルナリアがいれば、いつもみたいに暇つぶしのお喋りでもして時間でも潰せたのかもしれないが、アキラについていこうとするルナリアを、ユーリが鶴の一声で止めたのだった。理由は解らないが、まあ、とにかくユーリの言うことには渋々従っておいた方が、後々色々と楽だろう、というのが今のところのアキラの意見だ。なにせ、この世界に二人しかいない、アキラの無実を証明できる人間のうちの一人なのだ。
風が吹いた。さっきまではなまぬるかった風も、やっぱり確実に冷えてきている。アキラは服の上に羽織った大きめの外套の前を、無意識に掻き合わせた。
太陽がずんずん沈んでいく。眼下を通り過ぎる人並みはだんだんと少なくなっていき、太陽がその姿を城壁の向こうに隠す頃には、もう人っ子一人いない寂しい通りへと変わり果てていた。
ふと、この時間になるまで、あのユーリのアジトにいればいいじゃないか、という考えが思い浮かんだが、すぐに、明るいうちに場所に着いてその場を見ておくことが大事なのだ、と思い直した。
やっぱり、自分もユーリに毒され始めているのかもしれない。
窓の下の部屋からはまだ何も音がしない。階下で家族とともに食事をとっているのかもしれない。
いくら自分に大義があるとは言え、借り物の大義では、やっぱりアキラの心は寝らなかった。
いま、自分のターゲットは、これから起こることを何も知らないののだ。これから、家族とたわいないことを話して、お休みを言って、ベッドに入って、そこまでは予想できるだろう。でも、真夜中を境に、いま、パンを握っているであろうその腕が、翌朝には抜け殻になっていることを、誰が予想できるのだろう。
アキラの手に、昨日感じた嫌な暖かさが浮かんできた。
もうあんなことはごめんなのに、やっぱりこうしてユーリの言いなりになっている。ユーリに従って、一人の人間から、魂玉という記憶と命を、一時的だとしても、奪おうとしている。
吐き気がしそうだ。




