6:怪盗ソキウスは三人いる
結局、ルナリアとボードゲームをしたり、他愛もない話をしているうちに、陽は傾いていった。一度外に出ようとしたアキラを、「あんた、どうせセレーネ協会からのお触れで、町中に知れ渡ってるわよ」とユーリが止めたからだった。
シャレにならないが、これだってルナリアがアキラの無実を証明してくれないと、どうしようもない問題である。なのに、当のルナリアは、この狭っ苦しく変な匂いのする部屋にいることが、さも当然かのような顔をしているのだ。
ルナリアを脅迫するわけにもいかない。結局、アキラは諦めてこの部屋にいたのだった。下手に外をで歩く訳にも行かない。だらだら寝たり、起きてルナリアと他愛ない話をしたりして、いつの間にか日が傾いている。それがどうも変に感じられて、アキラの頭の中は霧がかかったように、冴えなかった。
ユーリは、といえば、湯を沸かした鍋とは別の鍋で、何かも分からない金属をグツグツと溶かしては、型に流し込んでいた。
「何してるんだ?」
アキラが声をかけても、ユーリは口に巻いたボロ布を取ることもせず、ただ一言、
「見て分からない?」
と言っただけだった。あれが何か、見ただけで分かる人間は、そもそもそんな質問をしないだろう。そう思って、アキラはそれっきり今までユーリとは言葉を交わしていない。
とにかく、日が暮れた。
窓辺から外を見下ろしていたルナリアは、うーん、と伸びをしながら、室内を振り返った。
「あー、オレンジ色、ですねえ」
「なんだそりゃ」
ベッドにごろり、と横になったまま、アキラはそう答えた。今までなんとはなしに見ていたユーリの背中から、晴れやかな笑顔のルナリアへ視線を移す。
「東の方にある砂漠は、日が落ちる頃になると、辺り一面が燃えるような橙色に染まると聞きました。さぞ、美しいでしょうねえ」
「まあ、この街の中じゃ、辺り一面、って訳にはいかないもんなあ」
領主の居城を中心とする円状に、この街の周りには城壁がぐるりと聳えている。小さな街には似合わないような分厚く高い城壁なので、この街には遅く朝がやってきて、早く夜がやってくる。
この街は、ちょうどなだらかな斜面に挟まれた所にあり、東から降ってきた斜面は、この街の辺りで平になり、西にかけてまた下っていくのだ。すぐ西側には日当たりのいい斜面が広がり、一面にブドウが植わっていて、その中に点々と農家の家がある。この街のある高いところから見下ろすと、それはそれはいい眺めだが、普段城壁の内側で暮らしていると、そう言った景色を見る事はまずない。
なるたけ高い建物、それも、この街に多くある三階建てよりももっと高いくらいの建物からじゃないと、その眺めは見えないのだ。
「一度は、そういう景色を見てみたいですねえ」
「確かに、砂漠は見てみたいかもなあ」
アキラがそう言い終わるか終わらないか、という瞬間、突然金属音が聞こえ、あっ、と声がした。見れば、ユーリが立ち上がり、汚れた布で自分の服をゴシゴシと拭いている。
「どうした?」
「ちょっとね、注意力が飛んでさ、型に鍋ぶつけちゃって零しちゃった。いっけない。暗くなってきたからかな。手元がどうも…………」
そう言いながらも、あくせくと手は動き、あるものを片付け、別のものを取り出したりしている。不自然なくらいの慌てようだった。
「大丈夫か?」
「まーね。別に、零したって服が焼けるくらいだし、少し冷やせば大丈夫」
水瓶の水を柄杓で掬って、腿の辺りに掛けていた。火傷くらいはしたのだろう。
しかし、ユーリは掛けた水を拭って、椅子から立ち上がった。口元の布を外して、よく通る声で宣言した。
「じゃ、行こうか」
どこへ、と訊き返しそうになって、慌てて思いとどまる。
決まってるじゃないか。
魂玉を借りに行くのだ。




