白い招待状
王宮から春園遊会の招待状が届く。出席者の欄には、これまで宮廷へ近づかなかった小貴族の令嬢セシルの名があった。 朝、レティシアは侍女長マルタから予定と来客名を聞く。衣装の色一つにも政治的な意味がつき、選ばないことさえ意思表示として数えられた。
ノエラは招待状の紙端へ触れ、今年は春が早いですねと言った。姉は他意を探さず、妹のために人の少ない休憩室を手配する。
王太子からは、招待客へ親しく接してほしいという短い添え書きが届いた。誰を指すのかは書かれず、レティシアは全員へ同じ礼を尽くすと返した。
ノエラは姉を励ます大げさな言葉を持たない。湯を替え、窓を閉め、机に必要な紙を置く。その小さな順序が二人の日常だった。
王都では春の馬車が増え、門前の石畳が一日中鳴っていた。新しい季節は華やかでも、公爵家の予定には義務の文字ばかりが並んだ。
廊下の向こうでノエラの扉が閉じた。おやすみなさいという声が残り、レティシアは母の肖像へ一礼して自室へ戻った。
公爵領から届いた便りには、雪解けと今年の種蒔きが記されていた。王都の予定とは違う時間が流れていることに、レティシアは少しだけ息をつく。
姉の予定表を覗いたノエラは、空白の日へ小さな丸を付けた。その日は二人で温室の鉢を植え替える約束だったが、王宮の招待が来れば消える空白でもあった。
食後、レティシアは家人の名を一人ずつ覚えているか妹に試された。二人は昔からこの遊びを続け、最後には必ず新しく来た下働きの名まで確かめた。
夕刻の鐘を合図に、屋敷の門番が交代した。レティシアは階下の足音を聞きながら、明日も同じ穏やかな朝が来ると思おうとした。
姉妹は温室へ移り、冬を越した白薔薇の芽を確かめた。そこでは王太子の婚約者も病弱な令嬢も関係なく、二人で土の乾き具合を言い合えた。
(本文実測:746字)




